第十四話 天気の良い日は公園に
自作の『お腹が減った時の歌』とやらを、口ずさみながらお茶を淹れているフラン。
立ち上る香気を目を閉じて楽しんでいる。
黙ってりゃ可愛いのに、なんと残念な子か。
メシを作りながら思わず俺は目頭を押さえた。
不憫すぎる。
「おーなか、おーなか、おーなかすいたよー」
まだ歌ってやがる。
アホの子に幸あれ。
今日も良い天気だ。
朝食を終え、俺たちはヤヨイたちと合流すべく公園へと向かった。
二人はもう来ていて、シャニィが無表情でこちらに小さく手を振ってる。
萌える。
ヤヨイはと言えば、ボールで遊んでいる小学生くらいの男の子たちの方を、鼻と口元を両手で押さえながらギラギラした目で凝視している。
おっかねぇ。
こいつ、ショタも行けるのか。
可愛いのに性癖が終わっている。
ジリジリと少年たちの方へにじり寄って行くヤヨイの後頭部にチョップを入れ、首根っこを捕まえて引きずるようにベンチまで引っ張ってきた。
「あ゛あ゛あ゛ー……」
とか無念そうに言ってる。
SSRの二人は、とっくにベンチに腰掛けて足をブラブラさせている。
くっ、と何かがこみ上げた俺は口元を押さえ顔を背けた。
萌えるじゃねぇか……
「アキトさん、フランさん、おはようございます」
ヤヨイは鼻をハンカチで拭いながら挨拶する。
いつか失血死するんじゃなかろうかと心配になった。
情報交換の名目で集まったわけだが、実を言うと俺がヤヨイとシャニィに萌えたかっただけだ。
なので、今はとりとめのない話をしながら、水筒に詰めて持ってきたフランのお茶を飲んでいる。
ヤヨイとシャニィは両手でコップを挟み、コクコクとお茶を飲んでいる。
ぶっちゃけ、お持ち帰りしたい。
ふと思い立ち、昨夜の夢の話をしてみた。
すると、ヤヨイが驚いたように、
「私も同じような夢を見ました」
と語る。
「私の場合は、とっても高い山の上から見下ろす感じでしたけど、見た風景は同じものだと思います」
ほう、これは興味深い。
期せずして似たような夢を見るなど、なにやら作為的なものを感じるではないか。
フランとシャニィが、期待したようなキラキラした目で身を乗り出している。
「「行かないから」」
綺麗にハモった俺たちの声に、二人のSSRはうなだれた。
その後も会話は続き、SSRにも格差があることや、こちらでは物理系攻撃は威力が減衰しにくく、魔法系は威力が下がりやすい事などを聞いた。
なるほど。
昨日の戦闘も納得だ。
こちらでは満足に力も発揮できないフランは、とっとと向こうに帰りたいことだろう。
だからと言って、向こうへ行ってやる義理など1ミリも無いが。
そして昼食に、とヤヨイとシャニィが作ってきたと言うサンドイッチを、俺は幸せそうに頬張る。
じっくりと味わう。
タマゴサンドの絶妙な味わいが口の中に広がる。
こりゃ美味い!
続いて、ベーコンレタストマトサンド、所謂BLTサンドを食す。
ベーコンのカリカリ感とレタスのシャキシャキ感、そこにトマトの酸味が相まって────
最高です。
至福です。
女の子の手作り弁当なんて人生初です。
しかもロリっ子のだよ!?
「二人はきっと良いお嫁さんになるね」
俺の言葉に照れる二人も、実に可愛らしい。
横のフランはふくれっ面だったけどな。
食後の運動とばかりに、誰かの忘れて行ったボールで遊ぶシャニィとヤヨイを、俺は芝生に寝転がって眺めていた。
キャッキャと楽しげな声が、優雅な昼下がりにピッタリのBGMだ。
そして、二人がボールを蹴るたびに色々見える。
興奮を抑えながら目に焼き付けるのが、今の俺の使命だ。
神様、これはご褒美ですか。
俺の隣では、満腹になったフランが鼻提灯を出しつつウトウトしている。
俺の平和で満ち足りた時間を、邪魔する者はいない。
いや、それがいたのだ。




