表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/156

第百三十二話 パンツのことなら任せなさい


「うぅ……なにやらムズムズする……」


 レプラコーンとの死闘で、自ら下着を焼き尽くしたマール。

 仕方なく、素肌へ直にサイバースーツを着たようだ。

 流石に他人の下着は借りられまい。


 こらこら、股間を押さえてモジモジするな。

 俺が興奮しちゃうだろうが。


「替えは無いのか?」

「無い……あれは一張羅だったゆえ……」

「パンツに一張羅ってあるの!?」


 もしかしたら、勝負下着的なものなのだろうか。

 確かにフリフリで可愛らしいパンツだったが。

 俺のために穿いて来てくれたのだと考えれば、マールがとても愛おしく思える。


「そうかそうか、俺のためにあんな可愛いパンツを穿いてたのか。よしよし、街に着いたら新しいパンツをいっぱい買ってやるからな」

「主様、そんなにパンツパンツと連呼しないでくりゃれ……恥ずかしいゆえ……」


 あー、もう可愛いロリドラゴンだなぁ!

 超長生きしてる帝竜なのに、この初心うぶさは貴重すぎる。


 しかも、勝負下着の概念を知ってるってことは、どこかで誰かの話を聞きかじったってことじゃね?

 『いい? 好きな男性と会う時は、気合を入れた下着を穿かないとダメよ!』みたいな話をな。

 純真なマールは、それを聞いて真に受けたのだろう。

 ちょっとだけ耳年増とか、余計に萌えるわ。


 俺は問答無用でマールを抱きしめた。

 小さな頭を、擦り切れるほど撫でまわす。


 それを転がって見ていたアホ娘たちが、もぞりとゾンビの如く蠢きだした。

 怖ぇよ。

 顔も幽鬼みたいになってるし。


 それでも動けるようになっただけ、だいぶ復調してきているってことだろう。

 さっきまではマグロだったもんな。

 てか、怖いから這い寄ってこないでくれ。


 俺たちはその場でしばらく休憩し、お茶や軽い食事を摂った。

 みんなも吐いてすっきりしたのか、割とモリモリ食べている。


 くそぅ、こんなトラブル続きなら、最初から出発を午後にしておくんだった。

 そうすればハクドウちゃんとも、もうちょっとイチャイチャ出来たのに。

 俺としたことが、しくじったなぁ。


 ともあれ、準備を整えた俺たちは、再度空の人となったのである。

 今度は至極順調な旅となった。


 フランたちが回復したこともあり、多少の揺れもなんのその。

 マールが気分も良さそうに加速していく。

 光る雲を突き抜けフライアウェイ、だ。


 とは言っても、乗っている俺たちに配慮してか、思っていたよりは緩やかな速度だ。

 あんまり速いと呼吸すらままならないからな。

 実に優しい子だねぇ。


 数時間ほど経過しただろうか、あの長旅が嘘であったように北地方を抜けた。

 山岳地帯が終わっただけなのだが、もう雪の姿は無い。

 空気も冷たいのは冷たいが、北方に比べたら雲泥の差だ。


 などと考えているうちに、遠目だが第三の街サドアが視界に入って来た。

 別段、街から火の手が上がっているとか、四方を怪物に攻め立てられていると言った様子は無い。


 じゃあ、あの緊急コールは何だったんだ。


「ねぇアキト」

「ん?」

「流石にマールが街へ降りたら目立ちすぎるんじゃない?」

「フランにしては良い意見だ。俺もそう思ってたよ」

「フランにしてはってひどくない!?」

「バカだなぁ、褒めてるんだぞ? フランは可愛くて賢いなぁってことだ」

「え? そ、そう? ならいいんだけど、エヘヘ」


 なんてチョロいんだ。

 そのうち、『いやぁ、実にバカですなぁ!』とか言われても、誉め言葉だと思って喜ぶようになってしまうんじゃなかろうか。

 いくら何でもそれは残念な子すぎるので、今後は自重してあげよう。 


「街の西は平原ですし、遮蔽物がないとやっぱり目立っちゃいますね。降りるなら東側の森にしませんか?」

「ヤヨイ」

「なんです?」

「賢い子は好きだぞ」

「そうですか、ヘヘヘ。お世辞でもそう言われると嬉しいですね」


 黒髪を手で押さえながら、はにかむヤヨイ。

 大人っぽい仕草に、少しだけドキッとする。

 って、ラブコメかっ。


「…ズルい……わたしも褒められたい…」

「わたしもーわたしもなのー」


 シャニィとティナが、ピョンピョン跳ねて猛烈なアピール。


「二人はもう、そこにいるだけで可愛いから良いんだよ。可愛いは正義って言うだろ?」

「…むふーっ、これでアキトの正妻はわたしに決まった…」

「阻止しますなの!」

「阻止するもん!」

「断固阻止します!」

「妾モ阻止ニ一票ヲ投ジルユエ」


 投票制じゃないからね!?


 マールが旋回し、東側に広がる森林地帯へ向かった。

 不死王のダンジョンがある辺りまで飛び、帝竜サイズでも着陸できそうな場所を探す。

 街からは結構離れてしまったが、念には念を入れておかねば。


 もしも、だよ?

 街が災厄の手に落ちていたら、の話だが。

 いきなりドラゴン姿のマールが現れた場合、敵は極度に警戒するだろ?

 俺たちが帝竜の加護を受けているってのは、秘匿していた方がアドバンテージとなるわけよ。

 マールには、これからなるべく人型で過ごしてもらうつもりさ。


 人型の方が、エッチな事も出来るしなっ。


 やめて、それが本音だろって突っ込むのやめて。


 多少狭いが、何とか降りられそうな空き地を発見すると、マールは降下を始めた。

 木々を何本か倒してしまったものの、着地成功。

 俺たちは、急いで背に括りつけた馬車をマールから降ろした。


「あー疲れたー肩凝ったー! 人を乗せて飛ぶのは、やはり気を遣うゆえー! 誰か肩を揉んでくれぬかのー!」


 人型に戻ったマールが、これ見よがしに自分の肩をブッ叩いている。

 最大の功労者なのは確かだけに、質が悪くて敵わない。

 だが、秘策はある。


「いやー、流石は帝竜だよなぁー。雄大に空を駆ける様は、まるで一幅の絵画みたいだったなぁ」

「ほんとほんと、力強くて格好良くて、威厳を感じちゃった!」

「ですね。偉大な炎帝竜マールの名は世界に轟いていますから」

「…ありがとうマール。帝竜ってすごいのね……貴重な体験をさせてもらった…」

「ビューンと速くて、あっと言う間に着いちゃったですなの! マール、ありがとうなの!」


 全員から褒め殺しにされて、目を白黒させるマール。

 弱点は最大限に活用せよ、ってな。

 みんなにマールの弱みを教えたのは俺だけどねっ。


「うぐっ……うぅー……そんなに褒められたら妾は……妾は! 恥ずかしいーっ!!」


 マールは真っ赤になって馬車へ駆け込んでいく。

 帝竜とは思えない可愛らしさに、俺たちは思わず大爆笑してしまった。


 さぁて、久々となる馬車の旅だ。

 つっても、数時間だろうけどな。

 あんまりのんびりしてると夜になっちまう。


 しばらく走った頃、窓から景色を眺めていたマールが声をあげた。


「あれ! あれは!?」


 振り返ると、マールが何かを必死に指さしている。

 その方向には、丘に転がる白銀の輝き。

 巨大な白き人。

 俺とフランが燃料切れで放置した、聖鎧せいがいの姿が見えていたのだ。


「ああ、ありゃ聖鎧だな」

「聖鎧ちゃん! 久しぶりー!」

「うわー、地下で見た時よりも大きく感じますねー」

「…うぅっ、わたしの中のロボ好き魂が疼く……合体したい…」

「聖鎧……初めて見ましたなの!」


「主様は聖鎧を手に入れていたのかえ!?」

「あれ? 言ってなかったっけ? まぁ、成り行きでな。今は不死王になっちまったが、初代聖騎士王レオンから託されたって言うか、押し付けられたポンコツ巨大ロボだ」

「なんと……! あ奴め……妾の主様に……」


 それきり、何かを考えこむようにマールは黙ってしまった。

 何なんだ。

 動かねぇガラクタに用は無いぞ。


 更にしばらく進むと、今度はシャニィが騒ぎ出した。


「…アキトぉ…」

「はいアキトです」

「…ねぇ、アキトぉ…」

「アキトだよ?」

「…ア゛、ギ、ド…」

「どうした!?」

「…おしっこ漏れちゃう…」

「それをはよ言わんかい!!」


 俺は思い切り手綱を引いて、急ブレーキをかける。

 驚いた馬が立ち上がっていなないた。

 どうどう、ごめんごめん。


「ほれ! 早く済ませてこい!」

「…アキト、見たい…?」

「ぐぬっ! み、見たいわけあるかっ!」

「…ウフフ…」


 うおぉぉぉぉ! 見たいに決まってるだろうがぁぁぁぁ!!

 俺の中の俺が、絶叫し、血涙を流す。


 俺はサキュバスの淫らな誘惑を振り切るように後ろを向いた。

 そうだ、どうせならみんなにも聞いておくか。


「おーい、トイレ休憩だ。今のうちに用を足しておけよー」

「「「「はーい」」」」


 ドヤドヤと全員が降りていく。

 どんだけ溜めてたんだよ、お前ら。

 ま、寒いから仕方ないか。


 そんな道中だったが、いよいよ第三の街が近付いてきた。


 謎の緊急コール。

 繋がらなくなってしまった通信機。

 それらが意味する物とは何なのだろうか。


 見慣れた街のはずなのに、何故か緊張感が高まるのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ