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第百二十三話 ドラゴン少女は馴染めるか?


「これはどう言うことなのアキト!」

「はぁぁ~……また浮気ですか……全くあなたは懲りない人ですね……」

「…ライバルが増える一方……シャニィちゃん大ピンチ…」

「アキトさん……不潔ですなの!」


 怒ったり溜息をついたり、目まぐるしい表情をあらわにする四人娘。


 俺は炎帝マールとの戦闘後、連れ去られた時と同様に、彼女の手により空中輸送されて宿へと帰還したのだ。

 待っていたのは、当然おかんむりの四名様。


 突然失踪した俺を、早朝から探し回っていたと言う。

 それに関しては、本当に済まないと思っている。


 ともかく無事で良かったと、安堵してくれていた皆だったのだが、俺の背中からおずおずと顔を出したマールを見るや全員の表情が一変した。


 結果は、斯くの如し、である。

 はいはい、そーさ、そーさ、俺が悪いのさ。


 四方から怨嗟の声を浴びせられたら、やけっぱちにもなるってもんだ。


「お嫁が一人増えました! みんな、仲良くやるように! 以上!」


 俺はスッパリと宣言する。


「「「「ええぇーーーー!!!」」」」


 四人の猛抗議は、両手で耳を封鎖することで回避した。

 見ろよ、あまりのかしましさにマールが怯えちまってるじゃねぇか。

 可哀想に。


 俺はマールを連れて、部屋の隅っこへ向かう。

 そして、マールを胸に抱き、壁の方を向いて座りこんだ。


「おっかない小姑たちでごめんな」

「ううん、大丈夫。主様と一緒なら辛くても頑張れるゆえ」


 くー、可愛いことを言ってくれちゃって。

 まだ慣れてないのか、言葉が若干変だけど許すよ!


「「「「小姑ぉ!?」」」」


 きゃーきゃーの抗議が、ギャーギャーに変わる。

 鼓膜が破れそうだ。


「そう言えば、肝心なことを言い忘れてた。この子、ちっこくて、とてもそうは見えないだろうけど、一応炎帝だからな?」

「ちっこいって言うな! それと一応じゃない!」


 途端にピタリと押し黙るアホ娘たち。


「ふぇ……? ア、アハハ、アキトったら、またまたご冗談をー」

「ありえませんよ……こんなチビッ子が炎帝だなんて……文献と全く違うじゃないですか」

「…炎帝の子供、とか…? …わたしよりも小さそう…」

「こんなにちっちゃいドラゴンさんなら、怖くないですなの」

「そなたら、妾をバカにしておるのかえ!?」


 流石に激昂するマール。

 そりゃ、プライドも傷つくよな。

 誰一人信じてねぇんだもん。


「こら、マール。言葉」

「あ、ごめんなさい」


 落ち込むなよマール。

 俺がちゃんと証明してやるからな。


「これを見てくれ」


 俺は言うなり、マールの被ったフードを外す。

 現れたのは、勿論二本の角。


「「「「角!?」」」」


 息を呑むアホっ子たち。

 俺は更にマールを反転させて、外套を上に持ち上げてやる。

 注目すべきは、ピッチリとしたサイバースーツの背中部分だ。


「「「「翼!?」」」」


 そうなのだ。

 俺も、さっき超巨山から帰ってくる際に気付いたのだ。

 マールが人型でも飛べる秘密は、この翼にあった。


 手のひらサイズではあるが、黒くフサフサした羽毛で覆われている翼だ。

 ドラゴンに羽毛とは珍しいよな。

 俺が知っている竜は、大抵が蝙蝠の羽だもんな。


 近年、俺たちの世界の研究では、恐竜に羽毛が生えていた、なんて説も出てるくらいだし、もしかしたら何か関係があるのかもな。

 ……いや、あるわけないか。


「わぁー! 小さくてかわいい翼ー!」

「あっ、ズルいですよフランさん! 私にもモフモフさせてください!」

「…わたしもするー…」

「わたしも触ってみたいですなのー!」


 きゃいきゃい騒ぎだす四人。

 翼をいじられまくりのマール。

 彼女の目には大粒の涙が浮かんでいた。


 嬉しいのか悲しいのか判別しがたいけれどな。

 まぁ、これで少しは馴染んでくれると良いんだが。


 取り敢えず、俺はブッ殺されずに済みそうだ。

 めでたしめでたし。


 朝食をいただきながら、細かいいきさつを語った。

 宿の老夫婦にも、多分今後幽霊は出ない旨を伝えると、心底安堵したようである。

 爺ちゃんなど、皆に教えてくると言い残し、嬉々として外へ走って行く始末だ。

 何にせよ、これで街にも活気が戻るだろう。


 いやぁ、良いことをした後はメシが美味いなぁ!

 ちょ、婆ちゃん待って、いくら嬉しいからって、そんなに煮物は食べられ……

 ……フランが全部食ってる!

 なんちゅう胃袋だ。


 満足した俺たちは、婆ちゃんに御馳走様を言って、そのまま外出することにした。

 炎帝の加護も得た(?)ことでもあるし、聖王都へ向かう船を調達するためだ。


 カムイのおっちゃんから、蒼の騎士、橘博士が王都にいるって話も聞いたからな。

 蒼の騎士がいるってことは、SSR聖騎士王レインも王都にいる道理。

 理由は言わぬが花ってもんだ。


 ともかく、彼らには聞きたいことが山ほどある。

 出来れば、リッカと会わせてやりたかったなぁ。


 そういや、リッカとミリアは今頃どうしてるんだろう。

 こちらと向こうの世界では、時の流れが違うせいもあるが、別れてからだいぶ時間は経っている。

 少し心配だな。

 戻ってこないのは、戦争が激化してしまったためか、あるいは謎花の成分分析で手間取っているって事も有り得るか。

 どちらにせよ、彼女たちは頑張っていると信じて、無事と成果を祈るしかない。


 おっと、王都の話だったな。


 シャルロット姫にも会いたいし、初代聖騎士王が創設したと言う、謎組織のアカデミーも調べねば。

 そうそう、宰相となったラスターにも挨拶せにゃなるまい。

 一応、剣術の師匠だし。


 重要なのは、聖王都がある大陸に顕現したと思われる災厄の様子を見ておかないとな。

 ああああ、やることが多すぎる。

 ……行くの止めようかな。


「アキト? 歩きながら寝てるの?」

「寝るかっ! それじゃ夢遊病だ!」


 怪訝そうな顔のフラン。

 どうやら夢遊病がわからないようだ。

 アホの子に幸あれ。


「アキトさんアキトさん! あれ、あれ見てくださいよ!」

「どうしたヤヨイ」

「あの二人、ホモっぽくないですか!?」

「知るかっ! 滅茶苦茶どうでもいいわ!」

「えぇー! 貴重な人材ですよ?」


 男たちの群れを見ながら興奮気味のヤヨイ。

 どうも最近、腐り方が尋常じゃなくなってきてやがる。


「…アキトー、おんぶー…」

「わたしは抱っこなのー」

「はいはい、よっこらせっと」


 シャニィを背中に、ティナを腕に抱えた。

 その様子を見ていたマールがポツリと。


「……主様の嫁たちはアホ揃いかえ? いや、それよりも、何だか主様が皆の母親に見えるの……」

「やめて!?」


 爺ちゃんから話が広まったのか、港には活気が戻っていた。

 出航の準備をする船、積み荷を降ろす商船、ギラついた目付きの荒くれ船員。

 飛び交う怒号がいっそ清々しい。

 うむ、海の男たちはこうでなくちゃな。


 それにしても、どこから湧いたんだってくらい兵士がいる。

 百や二百どころじゃないぞ。

 なんだってんだ。


 兵士たちは整然と、しかし忙しなく軍靴を地面に打ち鳴らしていた。

 海岸線沿いに巨大な弩を設置したり、簡易的ではありながらも頑丈そうな柵を設けたりと、まるで戦争の準備でもしている様子であった。


 只事ではない雰囲気に、俺たちにも緊張が走……らなかった。


 フランは眠そうに欠伸をし、ヤヨイはホモのカップルに夢中。

 シャニィとティナは俺の頭上で楽し気にお喋り。


「ほんに、緊張感の無い連中だの」

「全くだ」


 俺とマールは溜息をつくしかなかった。


 そんな中、兵士の一人に目が留まる。

 やたらとノッポなあの兵士は……


「おーい、そこのでっかい兵隊さーん!」


 声の出所を探してキョロキョロする若い兵士。

 手を振る俺に気付くと、彼はこちらに向かってきた。


 うん、間違いない。

 俺が今朝助けた兵士だ。


「貴方は朝の!」

「よう、元気そうで何よりだ」

「お陰様で! 本当に助かりましたよ! 一時はどうなることかと……ヒィィィィ! お化け!?」


 兵士の顔が一瞬で蒼白になった。

 ああ、マールを見たからか。

 それにしても、怯え方が半端じゃない。


「マール。俺と最初に会った時さ、お前、彼になんて告げたの?」

「ん。明日から下痢で一ヶ月ほど死線をさまようゆえ、気を付けよ、と」

「何それ怖っ! でも、それってちっとも死期じゃないよな?」

「ん? 妾……私が告げるのは死期じゃなくて、相手の身に降りかかる不幸だけど?」

「便利!! じゃあ俺も見てくれよ。何か不幸が起こりそうか?」

「……ふっ」


 俺を見るなり鼻で笑うマール。


 待って!

 俺にどんな不幸が襲い掛かるの!?

 せめて何か言ってくれよ!!


 俺がマールの肩を掴んで必死に揺さぶっても、苦笑いを浮かべたままだ。


 未来が怖すぎる!


「なぁ兵隊さん、この騒ぎはなんなんだ?」


 気を取り直して尋ねてみる。

 彼は血の気の失せた顔のまま、こう答えた。


「巨大な怪物が、こ、この港を狙って……!」

「は? じゃあ王都へ向かう船は?」

「今はありません……」

「マジかよ……なんてこった」


 つくづく港町とは相性が悪いようだ。

 毎度何かしらの足止めを食らっている。


 くそ、エリィ号さえあれば……

 あー、ダメだ。

 船があっても、アンジェラ船長がいないんだった。


「怪物を倒せば船を出せると思うけれど、その怪物とは?」

「ヒィッ! ……大海嘯だいかいしょうで、す」


 マールの問いに辛うじて答え、そのまま泡を吹いて気絶してしまった兵士。

 図体の割に、ビビりすぎだろ。

 こんなに可愛い女の子だってのにな。


「大海嘯?」

「平たく言えば、海の神みたいなもの」

「はいぃ!? そんなもんに勝てるかっ!」


 俺は全身の力が急速に抜けていくのを感じるのであった。

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