第十二話 あちらもこちらも剣呑だ
騒ぎに人が集まり始めたので、俺はフランとシャニィを小脇に抱え逃げるようにその場を立ち去った。
騒ぎと言っても主にシャニィの絶叫だが。
ヤヨイも鼻血をハンカチで拭きながらついてくる。
どっちが変態だよ。
そもそもいつ出血したんだ!?
取り敢えずゆっくり話せる我が家まで来てもらおう。
両手足をブランブランさせて抱えられてるシャニィが目に入り、ふとした疑問を持つ。
「なぁ、必殺技はいいけど叫ばないと出せないのか?」
「…だせ、る…」
俺が歩く振動で、喋り難そうに答えが返ってきた。
出せるんかい。
そう言えばフランは叫ばないもんな。
「あの必殺技名はダサくないか?」
「…き、気分、で、かわ、変わる…」
うわぁ超テキトー。
家に着いた俺たちは、茶の間のテーブルを囲むように四方に座り、フランの淹れてくれたお茶を飲んで人心地つけた。
美味い。
意外な特技だ。
ヤヨイも驚いた顔でティーカップを眺めている。
頭のひとつも撫でてやろうかとフランを見ると、鼻を天狗のように伸ばしてエヘンオホンとかわざとらしい咳ばらいをしている。
ほっとこう。
フランの腕前を知っていたのか、ゆったりとお茶を飲むシャニィが俺の顔をじっと見ている。
免疫が無いってのはこう言う時弱い。
ドキドキするじゃないか。
「…アキトもヤヨイも…私たちSSRを見てもあまり驚かないのは…不思議…」
そんな事言われてもなぁ。
「いや、充分驚いてるよ?」
ヤヨイもウンウン頷いている。
「ただ、こっちの世界も不思議な現象なら負けてないってだけだ」
最近は特に顕著だ。
様々な怪異が起きる。
それも世界的に、だ。
「最近失踪事件が多いのは、向こう側から来た連中のせいだろ?」
と聞いた途端、フランとシャニィがスッと後ろを向いた。
やっぱりな!
「向こうはどんだけ必死なんだよ! 連れ去りすぎだろ!」
「必死に決まってるじゃない! 滅んじゃうかもしれないのよ!」
フランがそっぽを向いたまま反論するが、俺も負けていられない。
「アホか! こっちだってどっかの国がいよいよ戦争になる、なんて話もあるんだぞ!」
「「!?」」
流石に二人は驚いたように振り返った。
参ったか。
「…それは…本当の話…?」
「ああ、理由は良く解らないが世界中で内戦になっててな、それがかなり拡大していて、もう他国同士が開戦寸前って話だ。一度始まってしまえば、きっと世界規模になる」
全員が押し黙ってしまった。
「でも」
とヤヨイが口を開く。
「もっと不思議なのは、この国がまだ平和なことです」
確かに。
今のところ内紛や暴動も、ほぼ無いと言っていい。
小さい事件は飛躍的に増えたようだが。
世界中が暗澹たる空気で満たされようとしているのに、のん気な国だ。
日常を愛する俺としては嬉しいが。
「なんせ神様が山ほどいる国だからな。きっと食いとどめてくれてるんだよ」
どうせ答えなど解らないので適当に言っておいた。
俺たちはその後もとりとめのない会話をした後、連絡先を交換して明日また公園で会うことにし、今日の所は解散した。
夜、風呂上りのフランが長い髪も濡れたまま、キンキンに冷えた牛乳を一気飲みしていた。
薄い寝巻一枚の姿なので、それなりに煽情的なはずなのだが、何故か残念な気持ちしか湧いてこない。
顔も身体も、なかなかのものなんだが不思議だ。
フランがアホの子過ぎて、気持ちが萎えているのかも知れない。
ヤヨイやシャニィを見ると興奮するんだけどなぁ。
寝転がってそんな事を考えていると、ウトウトしてくる。
「ちょっと、寝るなら布団に入りなさいよ。風邪引いちゃいますよー。もしもーし、アキトー?」
とかフランが言ってる気がしたが、眠気に抗えなかった。
今日は色々あったもんな。
フランが毛布を掛けてくれる気配を感じたのを最後に、俺は真っ暗な奈落へと落ちていった。
その日、俺は夢を見た。
 




