第十一話 必殺技なら全力で
高校生が立ち去りようやく興奮の収まってきたヤヨイと、何やらピーピー言い合っているSSR二人。
このまとまりのない連中を見ながら、今後どうしたもんかと悩んでいると、後ろの茂みがガサリと鳴った。
一瞬で辺りの空気が張り詰める。
あ、嫌な予感。
ズチャリ、と足音がした。
全く見たくもないが、自然と顔がそちらに向いてしまう。
そこには真っ黒な靄に覆われてはいるものの、明らかに二足歩行のソレがいた。
でかい。
三メートルはあるんじゃないか。
俺とヤヨイは思わず抱き合って「ヒイィ!!」と悲鳴を上げた。
あっ柔らかい。
そんな俺たちの前にドンと立つフランとシャニィ。
おお、格好良いぞ。
フランは杖を構え、シャニィは、手ぶら。
「シャニィさんシャニィさん……貴女の武器は?」
俺の問いにシャニィは振り向き、
「…これ…」
とちっちゃなガッツポーズをする。
まさかの素手?
よく見ると手には金属製の指サックのような物がはめられていた。
「え!? マジで!?」
いや無理だろ。あんな小さい拳で……
そんな俺にシャニィはほんの少しだけ微笑む。
フーンという鼻息も聞こえた。
もしかしてドヤ顔なんだろうか。
ズチャリ、と迫るソレに対し、シャニィはひらりとスカートを翻して向き直った。
なんだドロワーズか、残念。
どこからか「変態」と言う声も聞こえたが、無視無視。
俺とヤヨイが抱き合ったまま後ろへ少し下がると、それを確認したシャニィとフランが構えを取る。
シャニィが前衛、フランが後衛か。
やばい、あのフランがまともに見える。
目元もキリッとして、自信満々じゃないか。
これは期待できそうだぞ。
フランの詠唱が終わると、シャニィの前に半透明の紅い盾のようなものが現れた。
多分、バリアか何かなのだろう。
てかなにそれずるい。
そんなのあったんなら俺に使えよ。
ソレが大きく振りかぶるがシャニィは動かない。
腰を少し落として拳を引いたままだ。
ガギッ
振り下ろしたソレの拳は紅い盾に直撃した。
パリーン
盾は一瞬しか耐えられず、粉々に砕け散り虚空に消えた。
威力を殺しきれなかった拳が、シャニィを掠めていく。
アホの子は恥ずかしさのあまり、しゃがんで顔を覆っている。
うんうん。
実にフランらしい結果だな。
期待した俺がバカだったよ。
じっと構えていたシャニィの小さな右手が光るのが見えた。
おおっ。
まるでなんちゃらフィンガーみたいだ。
ソレの第二撃を華麗に躱して、飛んだ。
おお、眩きかな、ドロワーズ。
「「変態」」
左右からステレオで何か聞こえたが、無視無視。
ソレの顔面がありそうな辺りまで飛んだシャニィの拳が一際輝く。
そして普段のシャニィからは、考えられないくらいの大声で叫んだ。
「シャニィ・クラーーーーーーッシュ!!」
輝く拳がソレの顔面辺りに突き刺さると、閃光に包まれた。
ソレはとんでもない速度で飛んでいき、裏山の中腹付近に叩き付けられて、閃光と共に消え去った。
技名はアレだが、威力は凄まじいな。
あれじゃ木っ端微塵だろう。
気の毒に。
俺はソレに少し同情していると、妙にスッキリとした顔のシャニィと目が合った。
なんでか恍惚としているようにも見える。
俺が何か言いたそうに見えたのか、シャニィが口を開く。
「…必殺技は…叫んでこそのもの…」
解らんでもないが、そっちかよ。




