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第百九話 この怪物は変態です


 謎の怪物シュガフに攫われてしまった、シャニィとティナ。

 俺たちは二人を救出するべく、酒樽族の村を出立したのだ。


 明け方のせいもあって、物凄い冷え込み方をしていた。

 うげ、良く見たら、雪がハラリハラリと舞っているじゃねぇか。


 この辺りは超巨山の一合目付近。

 驚くなかれ、一合目とは言っても、標高二千メートル以上あるのだ。

 まだ季節的には初冬のはずだが、これだけの高さがあっては雪も降ると言うものだろう。

 積もっていないだけマシだと思うほかはない。


 ま、時間の問題かもしれんがな。


 先へ進むごとに、雪の粒が大きさを増していく。

 雪が積もること自体は、さしたる支障はない。

 しかし、俺はバンビ族長の言っていた言葉を思い出していた。


 奴らは雪と同化するために、灰色の姿をしている、と。


 そうなってしまっては非常に厄介だ。

 雪に紛れて攻撃されては、たまったものではない。

 俺はともかく、フランたちが危険だ。


 つまり今回のミッションは、雪が積もり切るまでの短期決戦も考慮しなければならないと言うことになる。

 急いでいる理由は他にもあった。

 シャニィとティナ、二人の貞操の危機でもあるのだ。

 シュガフと言う怪物は、交配するために酒樽族の女性を攫う。

 だが、人間の女を攫う時は、快楽目的なのだと聞いた。


 それにしても、奴らのチョイスはどうなってるんだろう。

 幼い二人を攫うなんて。

 誰でも良かったのか、はたまた極度のロリコンなのか。


 いや、俺も攫うとしたら二人を選ぶか。

 軽いし、可愛いし…………興奮するし。

 やばいな、俺もかなり頭がイッてるのかもしれん。

 だけど、好きなものは好きなんだから仕方ないよね!?

 色々したくなっちゃうよね!?


 強引に自分を納得させ、うんうんと一人で頷く。


「なにを一人でニヤニヤしているんですか? かなり変態っぽいですよ」

「おわっ!」


 ヤヨイがいきなり隣へ座っていたのだ。

 手には二つのマグカップを持っている。


「はい、冷たいですが、お茶です」

「お、おお、サンキュ」


 受け取って、一息に飲み干す。

 寒すぎて、キンキンに冷えたアイスティーになっているが、火照った俺の脳にはそれがむしろ心地よかった。


「ぷはー、ごっそさん」

「焼き菓子もまだありますよ。食べますか?」

「ん、もらうよ」


 なんだ?

 やけに甲斐甲斐しいな。


 ボリボリとクッキーのような菓子を齧りながら頭を捻る。

 なにか魂胆があるのだろうか。

 だが、ヤヨイは特にそれ以上何も言わず、寒風に黒い髪をなびかせている。

 慎ましやかに俺へ寄り添っているのが、なんとも殊勝で可愛らしい。


「どうかしたのか?」

「いえ、特に何もないです。まだちょっと頭がボーっとするので、覚ましに来ただけですよ」

「ふーん」

「なんですか? 迷惑ですか? なんならフランさんも呼びましょうか?」

「うるさくなるからやめてくれ」


 こっちは敵を追っている身だ。

 大騒ぎした挙句、奴らに気付かれたら厄介なことになる。

 人質を取られているようなもんだからな。


「……本当は、ちょっと気弱になっているだけです」


 ぽつりと本音を吐露するヤヨイ。

 そうだろう、と俺は思った。

 ずっと共に過ごしてきたシャニィが攫われたんだもんな。

 半身を失ったような気持ちなのだろう。 


 俺はヤヨイの頭を抱き寄せ、額に軽くキスをした。

 必ず救わねばならぬと改めて誓った。


「……、あの、アキトさん。ここにもお願いします」


 ヤヨイは自分の唇を指さしながらそう言った。

 そして瞼を閉じ、そっと顎を俺の方へ上げる。

 俺は無言で、唇を重ねた。

 手が勝手にヤヨイの腰を抱いている。

 俺の舌が無意識にヤヨイの口内を蹂躙する。


 やべ、なんか興奮して来た。


 周囲の警戒も忘れ、本格的に攻めようと思った時。 


「呼ばれて飛び出てフランちゃーん! 只今参上! むっ、今何か変なことしてた?」

「いや、今後の相談をだな」


 意味不明の名乗りを上げながら、ドッカと俺の隣へ腰を下ろすフラン。

 こいつ、結局来ちゃったよ。

 良いところを邪魔する天才だな。


 俺の左隣では、ヤヨイが思い切り舌打ちしていた。

 同時に、ドス黒い怨念も感じる。

 おっかねぇ。


「ねぇねぇ、アキトー。今度は本当にお腹がすいちゃったー」


 俺の腕を抱きしめ、ぐいぐいと胸を押し付けてくるフラン。

 なかなかのボリュームを感じる。


「アキトさん、何か食べたいものあります?」


 負けじと、反対側の腕を抱きしめるヤヨイ。

 だが、残念な感触しか伝わってこない。

 サイズ的に残念ではあるんだが、柔らかさはヤヨイのほうが上のようだ。

 不思議なこともあるもんだ。


 などと、頭の中がピンクになりかけた時、奇妙な声を聞いた気がした。


「シッ。二人とも、今何か聞こえなかったか?」

「へ? そう? アキト、おならでもしたの?」

「するかっ」

「さぁ? 私には聞こえませんでしたけど」


 それでも何かを感じたのか、声を押し殺す二人。

 うむ、様々な戦闘の経験が生きているな。


 俺には確かに聞こえたのだ。

 冥府の亡者が苦しさのあまりに上げる、怨嗟のような声が。


 それ以上は特に何も起こらず、馬車は山道を登っていく。

 だが困ったことに、その山道が徐々に細くなり、しまいには人一人が歩ける程度の崖っぷちの道へと変貌したのだ。


「仕方ねぇな、馬車はここに置いて行こう」


 俺たちは、立木に手綱を結び、恐る恐る第一歩を踏み出した。

 間の悪い事は続くもので、雪が本降りとなってきていた。

 積もらぬうちにケリをつけねばなるまい。


 うおー、怖ぇー!


 高所恐怖症ではないが、下は底の見えぬ奈落と同じだ。

 落ちれば死ぬと思うほどに、足が竦みそうになる。


 こう言う時は女性の方が強い。

 フランもヤヨイも、普段と変わりなくヒョイヒョイと歩いていた。

 恐怖感ないの!?


 その癖、暗所は怖いと言うのだから、女と言うのは実に不思議な生き物である。

 

 不思議な事は、他にもあった。

 俺たちは、シャニィとティナが攫われた直後に、すぐさま行動を起こしたはずだ。

 だのに、馬車を使ってすら追いつけていないのである。

 これはどう考えてもおかしい。


 タイムラグは、あったとしても十分か十五分だ。

 シュガフと言う怪物は、それほどまでに足が速いのだろうか。


 そんな事を考えながら歩くこと小一時間。

 突然道は途絶えた。


「マジか」


 切り立った崖から見下ろしてみる。

 暗い底には、どうやら川が流れているようだ。


「アキトさん、これじゃないですか?」

「おお! ナイスだヤヨイ」


 ヤヨイの示す方向。

 岩壁の少し上に、トンネルのようなものがあった。

 灯台下暗しとは、まさにこれのことだろう。

 足元ばかり気にしていてはならぬ、と言う戒めにすら思えてくる。


 手を伸ばせば、届く程度の高さだ。

 先にフランとヤヨイを上へ上げる。

 当然、尻やら脚やら、触り放題。


 上空から文句が降り注いでくるが、気にしない。


 トンネルの中は、直立出来るほどではない。

 腰をかがめながら行くしかあるまい。


 俺は荷物を漁りながら気付いた。

 ランタンを馬車に置いて来てしまったのだ。

 まさかこんなトンネルがあるなんて思ってもいなかったしな。


 幸い、俺たちの世界から持ち込んだライターはある。

 俺は落ちていた木切れをいくつか拾い、それに火を灯した。


 四つ目の木切れが燃え落ちる頃、ようやく前方に光が差した。

 トンネルから出ると、そこは岩盤を円柱状にくり抜いたかのような空間になっていた。

 ある種の広場なのだろうか。


 井戸や、竈があるところからも、生活に使用している場所なのは確実だった。

 もしかしたら攫ってきた女性たちを、春の交配期まで餓死させないように奴らが食事を作っているのかもしれない。


 右手の奥には、大きな洞窟の入口がぽっかりと口を開けていた。

 あの中に女性たちは捕らわれているのか?


「ねぇ、アキト。なんだか変な気配がしない?」

「ですね。私も感じます」

「だな。嫌な予感がする」


 勿論、危険はビンビン感じる。

 だがそれだけではないのだ。


 グォォォォァァァァ……


 異様なうめき声。

 およそ生者の出す声ではない。


 いよいよ、おいでなすったか。


 俺はガラガラと鞘から抜刀した。

 フランとヤヨイも身構える。


 予想通り、大きな洞穴から灰色の物体が、ワラワラと溢れ出して来た。

 そいつらは、手に手に武器を携えている。

 剣、斧、槍、謎の鈍器。

 サイズも体格も、確かに酒樽族と同じくらいだ。

 だが、決定的に違うのは────


「きゃぁぁぁー! なんなのこれ! 変態なの!?」

「うぎゃぁぁぁぁぁ! 変態! ド変態! なんでみんな裸なんですかぁぁぁー!!」


 そう、奴らシュガフたちは、何故か全員真っ裸なのだ。

 こいつらはフランとヤヨイを見て興奮したものか、ぶら下がったソレを隆々とおっ勃ててやがる。

 なんて破廉恥な怪物なんだ。

 俺ですらここまでやらねぇぞ。


「いやぁぁぁ! アキト! 早くなんとかしてよぉぉぉ!」

「なんとかって言われてもなぁ」


 しゃがんで顔を覆ってしまったフラン。

 ヤヨイは興味津々でチラチラと怪物の一物を見ては逸らし、見ては逸らしを繰り返していた。

 変態はお前だ。


 確かに立派なアレなのは認めよう。

 だがな、それは弱点をさらけ出しているのと同じなんだよ!


 俺たちを囲もうと動き始めたシュガフの一匹へ、一気に間合いを詰める。

 目の前で、ニッと笑いかけ。

 ノーモーションで横へ剣を薙いだ。


 ヒュオォォォォオオオン


 なんとも悲し気な断末魔を上げて、そいつは倒れた。

 見事にそいつのナニを両断したのだ。

 

 やはり弱点だったか。

 アホな怪物だ。


 同族を倒されたからか、感情も股間もいきり立っている。

 もしかして、こいつらは酒樽族の性欲だけが具現化した怪物なんじゃねぇのか?

 などと考えている隙に、奴らは意外と素早い動きで俺たちを取り囲み、一斉に襲い掛かって来た。


 うお!

 捨て身か!?


 俺は二人の愛する少女を守るべく、その前へと躍り出るのであった。

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