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第百六話 酒樽族はろくでもない


 苦闘の末にシラユキの群れを倒し、お婆ちゃんと化したフランとシャニィを救出した俺たち。


 いやはや、すっげぇ怪物だったな。

 何が怖いって、アレで北の怪物としては序の口なんだとよ。

 この先が思いやられまくりだ。


「へぇー、私、お婆ちゃんになってたんだ? 私ならきっと年をとっても可愛いはずよね!」


 記憶にすら残っていないのか、能天気にお茶を飲みながらカラカラと笑うフラン。

 歯すら一本も無いミイラだったとは、とても言い出せる雰囲気ではない。


「…フランさんはひどかった…アキト、わたしはどんな感じ…?」

「えぇ!? 私、ひどかったの!?」


 一瞬で愕然とするフラン。

 俺ですら気を使ったのに、ぶち壊しだよシャニィ!


 そのシャニィの問いかけに、グッと声を詰まらせてしまう。

 意見を求めようとヤヨイの方を見たが、彼女はスッと背中を向けた。

 そうかそうか、あのキスはトラウマになったか。


 こうなりゃヤケだ。

 真実を打ち明けよう。


「いやー、そのー、二人とも…………ひどいなんてもんじゃなかったよ! 百年の恋も色褪せるくらいにな!」


 ウィンクしながら最上級の笑顔で答えてやった。

 しかも両手の親指を立てて。


「「がーーーーん!!」」


 衝撃を隠せないフランとシャニィ。

 ペタペタと己の顔を確かめている。

 今は可愛いから安心しろよ。


 放心状態の二人と、なにやら暗い顔でブツブツ言っているヤヨイを残し、御者台へ向かった。

 ティナと御者を代わるためだ。

 寒空に一人では寂しかろう。


「ティナ、交代しようか」

「平気ですなの。アキトさんにもっと休んで欲しいですなのよ」


 うう……健気だ。

 俺は横へ座ってティナを抱きしめた。

 小さい身体がすっぽりと俺の腕に収まる。

 やっぱり全身が冷え切っているようだ。


 よしよし、俺があたためてやるからな。

 ハァハァ。


「あ、見えてきましたなの」

「ん?」


 まさぐろうとしていた俺の手が止まる。

 ここからは少し上の山肌に、煙突から煙を上げている建物がいくつか見えた。

 土地の奥行きはかなりあるらしく、村の全容は見えないものの、結構な数の建物が立ち並んでいるようだ。


 あれが、酒樽族の村か。

 くそ、結局奴らの健脚に追いつくことは出来なかったな。

 しかしまぁ、よくこんな山の中に村を作ったもんだ。

 色々不便じゃねぇのかなぁ。


 それから更にしばらく走り、ようやく村の近くまで辿り着いた。

 思ったよりも道がくねっていたのが原因である。

 手間かけさせやがって。


「言っておくが、俺はコソコソする気はないからな。正面から乗り込むので、各自準備しておくように」

「ブーブー、横暴ー」


 俺の思惑をみんなへ伝える。

 文句を言っているのは勿論フランだ。

 こんなアホは他に居まい。


 全員の武装を確認し、馬に鞭を入れた。

 ドガラッと、馬車は粗末な村の門を通る。

 門から入って、すぐ広場。

 その中央に、いきなりシャトルが鎮座していた。

 しかも周囲を注連縄のようなもので囲ってあるのだ。


 なにこれ!

 ご神体扱い!?


 俺は呆気に取られ、思わず馬車を止めてしまう。

 その時、キーンキーンと高音が村中に響き渡った。

 その音は村に危急を知らせる鐘でもあったのだろうか、ワラワラと小さな人影が集まってきた。


 当たり前なのだが、全て酒樽族のようだ。

 老若男女入り乱れている。

 大半は男だがな。


 成人男性の酒樽族でも、シャニィと同じくらいの身長しかない。

 もじゃもじゃのヒゲと、ずんぐりむっくりの体形は、俺のイメージするドワーフ像そのものだ。


 不思議な事に、女性は細身なのね。

 待てよ、酒樽族の女性は、やたらと小さい。

 どう見てもシャニィ以下だ。

 これってつまり、合法ロリなのでは!?


「人間族の方々よ。この村に何の用かのう?」


 俺の崇高な妄想は打ち砕かれた。

 地面に付きそうなほどの白髭を蓄えた酒樽族が、俺たちの前に出て来たのだ。

 身なりと雰囲気からして、長老、もしくは族長だろうか。

 目深に被った帽子のせいで、目がチラっとしか見えない。

 真意が掴みづらいなこりゃ。

 甘いな、俺は引く気などないぞ。


「俺たちは第三の街から来た。理由は聞くまでも無いだろう? その金属を返してもらおうか」


 ドヨッと群衆がざわめく。

 畳みかけるなら今だな。


 俺はフランを呼んで、隣に立たせた。

 だが、なぜかフランは恥ずかしそうにモジモジしている。


「私、アキトのお嫁さんって紹介されちゃうのかな……?」

「アホかっ! 状況を見ろ状況を!」


 ダメだこいつ!

 頭がピンクのお花畑だ!


「俺は勇者アキトだ! このSSRフランの当選者である! 即刻盗人どもを召し出せ!」


 ドォォォと地響きのような声が上がる。

 うーん、気持ち良い。

 気分はまるで時代劇。


「ゆ、勇者様の御一行でしたか! これはとんだ御無礼を! 平に! 平に御容赦を!」


 今にもひれ伏しそうな酒樽族の連中。

 あれ?

 効果覿面すぎない?


「これには深い訳があるのです! ともかく、ワシの家へ是非ともおいでくだされ!」


 俺の腕をグイグイ引っ張る酒樽族の爺さん。

 なんだこれ?

 新手の罠か?


「おい、待てよ爺さん。何が何だか……ちょ、力が強いな爺さん! あーれー!」


 瞬く間に引きずられて行く俺。

 慌てて追ってくる女性陣。

 その後ろから付いてくる酒樽族の大群衆。

 変な構図!


 引きずられながらだが、村の様子が見て取れた。

 流石はドワーフみたいな種族。

 あちこちに金属製の道具を作る工房が立ち並んでいた。


 路上に製作者の作品が飾ってあるのは、腕を示す宣伝のひとつなのかもしれない。

 鍋や釜などの生活用品、酒樽族用の武器と防具。

 それに飽き足らず、交易用なのかオーダーメイドなのか、人間サイズの武具まで並べられていた。


 中には用途不明の金属製品まである。

 男根のような形の物もあるが、あれはいったい何に使うのだろう。

 ヤヨイの目がギラリと光ったところからして、ホモ関連のグッズなのかもな。


 俺はそのまま、村の奥に位置する大きな家へと拉致された。

 木造だが、無骨でガッシリとした造りである。


 内部も簡素ではあるが、居心地の良さそうな空間となっていた。

 金属製の大きな薪暖炉が、パチパチと音を立てて燃えていた。

 あったけぇー。


「ささ、この椅子へお座りくだされ」


 ドサリと椅子に投げ出される俺。

 女性陣は長椅子に腰かけた。


「今、熱いお茶を淹れますからな!」


 人数分のカップと、暖炉に掛けられた鉄瓶を用意している爺さん。

 それは良いんだが、付いてきた群衆が窓から覗いてるんですけど。

 ジロジロ見られると、なんか気まずい。


「話を聞けよ爺さん。そもそもあんたは誰なんだ」

「おおお、これは失礼いたした。ワシは酒樽族の族長でバンビと申します」


 随分可愛らしい名前!

 そのバンビ爺さんは、茶を淹れながら訥々と語りだした。

 誰も望んでないのに……


「三の街からの難民がウノスの街にも居ましてな。その人間から、見たことも無い金属の話を聞いた酒樽族の若者が、勝手に先走ってしまいましてのう。我々に強い金属が早急に必要なのは確かなのですが……」

「ほう、そりゃまたどうして」


 俺の当然な質問に、バンビ老は言い淀む。

 だが、彼の目だけが、しめしめと光ったのを見逃しはしない。


 あ、やばい。

 これ、めんどくさいやつだ。

 しくじった、聞かなきゃ良かった。


「村の連中を見て気付いたかもしれませぬが、今、この村には女がほとんどいないのです」

「そうか、わかった。金属は貴方がたに進呈するので、俺たちはそろそろ帰ります。さ、みんな帰ろう」

「ちょちょちょ、ま、待ってくださらんか! まぁまぁ、老人の茶飲み話くらい聞いてくだされ!」


 立ち上がる俺を、素早い動きで回り込んで来るバンビ爺さん。

 絶対に茶飲み話じゃ済まない流れだろこれ!


「この巨山の上層に潜む怪物が、女たちを攫って行ってしもうたのです」


 俺を逃がすまいと早口になってきている爺さん。

 茶をカップに注ぐ手が、段々雑に。

 こぼしてる!

 こぼしてるよ爺さん!


「そやつらは強く、我々ではとても敵わぬのです! 今も残った女たちを攫おうと、この村は狙われております! せめて強い金属で新たな武具を作り出せば対抗できるのではないかと思い、恥を忍んであの金属を盗んでしまったのです!」


 へい、お待ち!

 とばかり、ガッシャンと乱暴にテーブルへ置かれるカップたち。

 二、三個転がるカップから、熱々のお茶が俺たちへ飛び散る。

 雑すぎるわ!


「あぢゃぢゃぢゃ!!」

「ぎゃー!」

「どうか! どうかこの村をお救いくだされ勇者様!」


 どうかじゃねぇよ!

 こっちの身も心配しろよ!

 土下座する族長を見たからか、外の群衆も大声で騒いでいる。


「何卒! 何卒! 勇者様!」


 と、まるで練習でもしていたかのように揃った声だ。

 なんなんだこいつらは。


 溜息をつきながら、八割がた中身の飛び散ったカップをすする。

 うわぁ、不味い!

 何もかも雑だ!


「どうか! どうか! 勇者様!」

「何卒! 何卒! 勇者様!」


 酒樽族の歓声と期待を一身に浴びながら、首を垂れる俺たちであった。


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