群馬西ギルド
群馬西ギルドは王都の西端の街にある巨大ギルドだ。
ここが最大のギルドと聞いている。
この街が本拠になる予定だ。
受付カウンターは25個で、朝6時から8時までの繁忙期は全てに冒険者が列に並んでいた。
大体1時間で20人の受付をさばいていて、2時間で1000件だ。
パーティの平均人員が3人だとしても、3000人の冒険者がこの周辺にいることになる。
「このギルドで人探しなんて大変だな」
「ジン、たしかに1人で魔法使いを探すのは無謀ですね。
凄い人です」
ここまで7ヶ所のギルドを回ってきたが、魔法使いに全く会わない。
目立たないようにしているのかな。
「簡単な仕事じゃないってことだな。さて様子も見たことだし、
少し狩りをしてきますか」
「ジン、奴隷を見に行かないのですか」
クレアが不思議そうに見つめる。
「それは準備ができてからだな」
……
西ゲートで警備の騎士にギルドカードを提示して、狩場に向かう。
「ジン、ゲート北側の魔素の森への入り口は50から200メートル間隔で100ヶ所。その先は2つ、3つに分岐してます。
ゲート南側も同じです」
「狩場に向かう道が400以上もあるとは……失敗したな。
周辺図と依頼票をちゃんと見てくればよかった」
まあ、俺は見ないけどね。相棒頼みです。
レーダーで冒険者を確認すると、ゲートから5キロくらいの場所に集中しているので、まず5キロ圏を抜けよう。
「アクセル」
冒険者や魔物をエスケープして、10キロ圏の森が少し開けた場所で停止した。
「ジン、ポーションはもう必要ないですね」
「おかげさんでね、慣れました。さてターゲットは魔アリにしよう」
魔アリは、7級の魔物で、報償、銀貨4枚、摩石、銀貨1枚とゴブリンより実入りがいい。
あと素材として、腹部の胴体の皮が鎧の材料になるらしく、銀貨10枚が魅力的だ。
皮の重さが20キロ弱なので、魔法袋があれば10体は持ち帰れる筈である。
「まずはアリさん1匹を探そう」
「ジン、10体は持ち帰れますよ」
「わかっている、クレアは手を出すな」
単独の魔アリをレーダーで捕捉して、すぐ加速した。
「初心者の冒険者が安全に狩るなら、まず弓だな」
30メートルの距離で停止、頭部を狙って貫通。
「これで一撃だね」
「マスター、少年が凄いだけなのかもしれませんよ」
クレアが魔アリを解体しながら言う。
「それは、そうかもしれない」
この後は、加速したまま、3匹、6匹の集団を探して剣で一気に処理した。
「魔アリは、片方の前足を切り落とすと、まっすぐ進めなくなるみたいだね。
足を切り落としてから、頭部と胴体の間を切り落とす作戦でいいんじゃない」
「ジン、一般の冒険者の魔物の対策も調べましょうか」
「うん、お願い」
……
西ゲートに帰ってきたら、警備の騎士に笑われてしまった。
時間は10時30分。
「おまえ達、もう帰ってきたのか」
この人は士族だな。
「はい、本日の予定を終了しました」
「まあ最初は無理をしない方がいい」
「はい、お気遣いありがとうございます」
意外と気さくだ。
少しずつ仲良くしていかないとね。
群馬西ギルドの受付カウンターに初めて並ぶ。一番空いているところ、
当然おじさんだ。
俺はカードを提示しながら
「すいません、魔アリを狩ってきたんですが、ここでいいんですか」
とたずねる。
おじさんはジロリと見ながら、
「カウンターの右から20番から25番は常時買取も行っている。12時以降は6番から25番で買取を行う。1番から5番は常時受付だ」
「はい、わかりました」
クレアがギルドカード、討伐証明の袋と魔石の袋を置く。
「それでですね、素材も持ってきたんですが」
「はやく置け」
それから、おじさんは魔石の袋の見て不思議そうな顔をした。
「実は魔法袋に10個入っているんですが、それもここで」
「待て、それは本当か」
「はい、それでカウンターに魔法袋は置きたくないんです。
僕たち、2名なので」
冒険者に襲われてはたまらない。
「こっちにこい」
おじさんは討伐証明の袋と魔石の袋を持ってカウンターから出てきた。
「お前たちはここは初めてなのか」
「はい」
左奥には10個のドアが並んでいた。そのうちの一つのドアを開けて入る。
中には大きなテーブルと机があった。
「テーブルの上に全て置きなさい」
俺はテーブルの上に魔アリの皮を全て置く。
「魔アリ10体で金貨1枚、銀貨50枚だな。本当に魔法袋を持っているとは……」
「お金はギルドに預けます。それで剣術を教えてくれる所知りませんか、
今晩の宿も紹介して下さい」
……
翌日もギルドで早朝から8時まで魔法使いを探すが見当たらなかった。
「ジン、魔法使いは簡単には見つかりませんね」
「まあね、でもこれは予測された事態だから問題ないよ。
それよりこのギルドの冒険者の登録数はどのくらいだと思う」
「はい、早朝から2時間で4000名は確実です。残り10時間、最低でも受付5カウンタですから
8000名、最低でも12000名。毎日受付に来るとは限りませんから、2万名は堅いと思います」
「だったら、新規の冒険者が100名とか200名とか増えても大した問題じゃないね。
さて今日は魔ハチに初挑戦しよう」
「ジン、今日も奴隷を見に行かないのですか」
「あわてんなよ、これからこのギルドと大きな商談をするんだ。
ある程度、俺達の実力をみせないと信用してもらえない」
……
西ゲートの警備の騎士は、昨日と同じ人だった。ギルドカードを見せると
「おっ、今日もきたのか」
「はい、おはようございます」
「頑張ってきな」
この人は俺たちが昨日逃げ帰ってきたと思っているらしい。
騎士が笑うので、俺も笑っておいた。
クレアは無言。
……
「アクセル」
今日も冒険者や魔物をエスケープして、10キロ圏の森が少し開けた場所で停止した。
「魔ハチの賞金は」
「魔ハチは6級の魔物で、報償、銀貨8枚、魔石、銀貨3枚。
素材は毒袋がポーションの材料として銀貨10枚です。毒袋の重量は5キロくらいです」
魔法袋があれば40体は持ち帰れるのか。
「ジン、魔ハチの討伐最低レベルは20で、これは5級のオークと同じです。強敵でしょうね」
「魔アリと同じで周囲にたくさん仲間がいるからね。仲間を呼ばれたら逃げるしかない。
しかも飛んでくるから速くて逃げ切れない。さてハチさん1匹を探そう」
魔ハチの前方50メートルで停止し、弓を構える。
「ジン、危険です。加速して下さい」
「クレアは見ていろ。新人冒険者がどうやったら対処できるか検証する」
頭部を狙って、第1射、はずした。
加速する。魔ハチはもう10メートルまで、接近していた。
「第2射は無理だな。このあとは剣を使うしかない」
俺は後方に下がって50メートルの距離を取り、さらに弓を構えて、停止した。
やり直しだ。頭部は点だ。上下に振っている羽を狙う。第1射、命中。
魔ハチがバランスを崩して地面に落ちる。剣で頭部と胴体を切り離して、また加速した。
すぐにレーダーで周囲を索敵する。
「仲間を呼んでいなかったみたいだな」
クレアがはずした矢を回収して戻ってきた。
「ジン、弓にこだわってますね。魔ハチの討伐は普通、剣らしいですよ」
「新人冒険者が剣なんか使ったら、すぐ怪我するよ。剣は最後の手段。
基本は弓で戦術を検討しないとね」
「ジン、戦術は50メートルで第1射で羽を狙い、落下したら、止めは剣で頭部を切断ですか」
「いや落ちたら剣でとにかく羽を切り落とさせる。また飛ばれて刺されたら大変だ。今のは急ぎすぎだった」
魔石、右の触覚、毒袋を回収する。
このあと、魔ハチを9匹狩った。
「ジン、これで今日は終了ですか」
「今何時」
「まだ10時前です」
「笑われるから、オークと……オーガも狩る」
ここからさらに西北10キロまで移動する。
「オークは5級の魔物で、報償、銀貨16枚、魔石、銀貨5枚、素材はなし。
オーガは4級の魔物で、報償、金貨5枚、 魔石、金貨5枚、素材はなしです」
「オーガは凄いね。やっつければ新人冒険者の年収近く稼げるんだ」
「ジン、オーガの討伐最低レベルは25です。騎士並みのレベルだそうです」
「オークを発見と……大きいね。これは弓は無駄だな。剣でやるしかないのか」
俺はオークの背後に回って、両足の腱を切断する。それで加速を停止。
しばらくすると大声を上げながら、地面に倒れた。だがまだ手が自由に動く。
下手に近づくを怪我するね。
仕方がないので加速する。
「やっぱり大きな魔物は剣は駄目だな。槍で突くしかない」
「ジン、槍を買いに行きますか」
「いや俺の話じゃない。普通の冒険者の話だよ。弓を使うなら、目を狙って視覚を奪うのもいいかな」
オークの首を切断して止めを刺し、右耳を切り落とす。
魔石はやっぱり胸部にあった。グロいな、気持ち悪い。
水を少し飲んで、手を洗った。
「ジン、今日はとても積極的ですね。なぜですか」
「レーダーにオーガが反応したからね。こいつはきっと珍しいんでしょ。
次の機会がいつ来るかわからない」
さらに北1キロいったところで、オーガを見つけた。
「大きいな」
「ジン、今回はアクセル切らないで下さいね」
「そんな怖いことしないよ」
オークが体長が3メートルくらい、オーガは10メートルはある。
戦い方はオークと同じで背後に回って、足の腱を切断しようとするが、
一回では無理。大木を斧で切り倒す感じだ。両足の腱の切断に10回は剣を振った。
それでアクセルを停止して少し待つ。
オーガが地響きを立てて倒れたところで、また加速した。
オーガの首の切断に30回は剣を振った。
「ジン、お疲れ様でした。オーガは魔石を持っていけば、討伐が証明されます」
クレアが魔石を取り出してくれた。
助かる。
体が大きいから解体は体力を消耗する。
魔石はダチョウのたまごと同じくらいの大きさで、今まで一番大きい。
うれしかった。
少年は記念に残したいようだ。
……
西ゲートに帰ってきた時間は11時だった。
「おまえ達、また帰ってきたのか」
やっぱりな、こうなる気がしてたんだ。
「はい、本日の予定を終了しました」
「昨日もそんなこと言ってたな」
騎士がまた大笑いしてやがる。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
思い切って少し突っ込む。
不敬罪とか言われないよね。
「悪い悪い、まあ怒るな。慎重なのは良いことだぞ」
「はい、安全にいきます」
「ジンくん、早生まれなんだね、まだ見習いだ。クレアさんがリーダーなのかな」
「いいえ、ジンがリーダーです」
「そうかそうか」
騎士が今度はあわれむように俺を見て、俺達にギルドカードを返してくれた。
名前を覚えられてしまったな。
……
群馬西ギルドの25番カウンターに並ぶ。
昨日のおじさんなら話が早い。
俺たちの番は直ぐにやってきた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。今日も持ってきたのか」
「はい、昨日より少し獲物が多いです」
「わかった、移動しよう」
昨日と同じ部屋に入り、俺はテーブルに獲物を並べていく。
「今日は魔ハチを狩りました。10体です」
「……それで終わりか」
「いいえ、あとはオーク1体とオーガ1体です」
魔ハチのあと、オークとオーガの魔石を取り出す。
「……」
「それでオーガって、魔石を見せれば、討伐証明ですよね。オーガの魔石は売りたくないです。
これで計算してくれませんか」
「おい、オーガをどこで狩ったんだ」
「北西25キロくらいにいましたね」
「お前、オーガは4級の魔物だ。出現したらギルドで大騒ぎになる代物なんだ。
たくさんのパーティーやクランで討伐する代物なんだぞ」
「そうなんですか。でも僕は見習いですから、そんな依頼は受けれません。
オーガはたまたま出会ってしまったので仕方なく」
「……オーガの魔石は金貨5枚だ。売らないのか」
「はい、はじめて狩ったので討伐記念に保存します」
「魔ハチは全部で銀貨210枚、オークは銀貨21枚、オーガは報償だけだと金貨5枚だ。
全部で金貨7枚、銀貨31枚。すまんがオーガの魔石を売らないのを他の職員に
見てもらう必要がある。すこし待っててくれ」
おじさんは1名の女性職員を連れてもどってきた。
オーガの魔石を確認し、少しあきれた顔で女性は俺たちを見て戻っていった
「報酬は全部ギルドに預けます。ご相談があるのですが、よろしいですか」
「言ってみろ」
「長期で泊まる場所を探しているのです。ホテルではなく、宿舎ですね。
40名くらいの、2つ借りれますかね」
「……待て待て、お前たち2人だろ。なぜ80名も泊まる宿舎が必要なんだ」
「今晩の話ではありません。
実は奴隷を80名買って、冒険者で稼いでもらおうと思ってるんです。
心配なのは、奴隷だけの冒険者パーティって許可がおりるかって事と
冒険者ギルドが宿舎を貸してくれるかって事です」
「奴隷だけの冒険者パーティは前例がある。宿舎もあるが、80名となると
専門の奴を連れてこないとわからん。だがお前、お金あるのか」
「いくらくらいギルドに預けると信用してもらえますか。とりあえず手持ちは
金貨500枚くらいなんですけど……」
クレアが金貨500枚入りの袋をテーブルを置いた。
「ちょっと待っててくれ」
おじさんは思考を放棄したらしい。
あわててドアを開けて出て行った。
「ジン、ずいぶん思い切りましたね、いつも慎重なのに。
金貨500枚、絶対目を付けられますよ」
「まあ、仕方ないでしょ。いずれはやらなきゃいけないんだから。
もし、やばそうなら逃げるしかないけど」
「ジン、大丈夫でしょうか」
「たぶんね、ギルドは損する話じゃないでしょ。貴族様とか士族様は魔法にかかわらなきゃ大丈夫って話だし。
まあ資金の出所は調べられるでしょうが、不明ってことになるんじゃない」
おじさんは2名の女性職員を連れてもどってきた。
「お金は全部預けるでいいんだな」
「ジンの口座にお願いします」
クレアが答える。
2名の女性職員が金貨を数えだした。大変ですね。
「それでだ、今日はギルドの幹部がそろっていない。この案件は内部で少し意見を調整する必要がある」
「はい」
「それにギルド長が一度、君たちと話したいそうだ」
そうでしょうね。15歳の少年に17歳の少女だ。
「明日、15時にギルドに」
「わかりました」
女性職員は金貨を数え終わると、僕のカードと金貨の袋を持って、退出。
その後、預金情報を更新したカードを持って来てくれた。