魔法袋
……
王都で最初のギルド、群馬南西ギルドには10日後に到着した。
ここまでに立ち寄ったギルドは5つ。
「ジン、神奈川に2つ、東京に1つ、埼玉に1つでしたね」
俺は神奈川南西、神奈川北西、東京西、埼玉南西、埼玉北西のギルドと別名をつけた。
こちらの名前だといまいち位置関係がわからん。
冒険者ギルドは必ず魔素の森に隣接していたからだ。
まるで卵の殻の上にあるみたいに。
それからギルドの街には奴隷商人が必ずいて、収入の多い冒険者は、彼らから奴隷を購入していた。
特に5年奴隷は安価で、5年間奴隷の収入を搾取して利益を上げやすいらしい。
魔法使いには結局会えなかった、クレアが毎日ギルドの中を捜し回ったけど。
でも埼玉北西ギルドの街で偶然、魔法袋を手に入れた。
「店主、ここでは何を売ってるんですか」
店に入ってすぐ連想したのは、古道具屋さんだ。
雑然と品物が積み上がっている。
下手に手を出すと山が崩れちゃうんじゃない。
「ここは雑貨屋だ、いろいろだな」
30代くらいの店主は結構大きな体格だ。
「冒険者が良く利用する雑貨ってありますか」
「最近売れたのは携帯調味料だ。旅で切れたんだとさ。
何を探しているんだ」
店主がクレアを見ながら話をする。
クレアは結構目立つ。
それにクレアが合流してから、少年は元気になった。
クレアと話をしたり、狩りをすると、気分が良くなるのを実感している。
「特に今は欲しい雑貨はないんですけど、便利なものがあれば」
「そうだな、テントとか携帯コンロとかはどうだ」
おじさんが店の奥から出てきて、品物を見せてくれる。
俺たちはアクセルを使って移動しているので野営知らずだ。
全てギルドの街の宿で済ませている。
「確かに持ってないですけど。街の宿を利用しているので」
「いやいや、お前さんたちは冒険者だろ。いつ野営するかわからん。必須アイテムだぞ」
店主、使わないものは買いたくないよ。
なので
「小さなリュックしか持ってないので入りませんよ。
王都で魔法袋を買うつもりなんです」
「あるぞ」
「何がです?」
「魔法袋」
「ここ魔道具屋さんじゃないですよね」
「だがひとつ置いてある。お前さん金は持ってるのか」
「ジン、買いましょう。旅が楽になります」
クレア、即答かよ。あわてて食いつくなよ。
丁度ヘリで資金が到着したが、重いので金貨100枚だけ受け取っている。
「まあ、それなりに。ちなみにいくらなんです?」
店主は小走りで店の奥に引っ込んで、しばらくすると小さな皮袋を持ってきた。
「これは有名な魔法使いが作った最新式の魔法袋だ」
「はあ」
「ここを見てくれ。魔石が2つはまってるだろ。今までのは1つだった。
なぜかわかるか」
「わからないです」
「魔法袋は魔力を消費する。だから魔石から魔力を取り出す。そして魔力がなくなった魔石は
透明になって、魔力が切れる直前に袋にしまった物がが出てきてしまうんだ。だけど、
この魔法袋は魔石が2つあって、魔力が無くなる直前に切り替えて新しい魔石を
利用してくれる。つまり利用期間は2倍。透明になった魔石だけ交換すればいいから
安全だし扱い易い」
クレアが食いつくように魔法袋を見ている。前のめりだ。
仕方がないか。
「なるほど、ちなみに魔石は何を使うんですか」
「これは、スライム、ゴブリン、魔アリ、魔ハチが使える。200キロ入っている状態なら
スライムで2日、ゴブリンと魔アリは4日、魔ハチだと12日だ。2個使えばその2倍だな。
中身が入っていないと魔力はほとんど消費されない。これはゴブリンだが1年交換していない」
「使えるんですか」
「じゃあ試しに、このテントをいれてみろ」
俺に魔法袋を渡してくれた。
「使い方は片手に魔法袋、もう片方の手で品物を触るんだ」
「なるほど」
テントが目の前から消えてしまった。
「ジン、いいですね。絶対買いましょうよ」
少し黙っていろ。交渉の邪魔だ。
「取り出し方は、テントを出すと念じれば出てくる」
ファンタジーだ、ホントに出てきた。
「入っている品物を忘れちゃったら、どうするんですか」
「基本的には取り出せない。メモを取って利用している奴もいるな。
一般的には魔石をはずして、魔力袋の魔力が切れると中身が出てくるのを利用する。
だが俺は製作者から直接聞いた。これは内緒だ」
「はい」
「魔法袋は200キロなら200個の箱、1000キロなら1000個の箱に分かれていて、
順番に収納していくそうだ。だから1番目の箱とか、1から10まで箱と念じても出てくるらしい」
「テントと携帯コンロで試してもいいですか」
「いいぞ」
「マスター、店主、良い情報をもっと持ってるかもしれません」
今度は耳の中で声がした。
確かに箱を出すと念じても取り出せる。
俺は満足したので、クレアに渡す。
テントと携帯コンロで試し始めた。
クレアでもちゃんと使えるようだ。
「個数制限とかあるんでしょうか」
「そんな筈ないだろ。銅貨1000枚入らない魔法袋なんて使えないじゃないか。それに財布に銅貨1000枚入れて
収納できるんだから個数制限はないよ。あくまで重さだけだ」
「200キロと1000キロの魔法袋の区別はあるんですか」
クレアが質問する。
「これはオースティンの魔法袋だ。左の方に羽が2つ書いてあるだろ。だから200キロだ」
店主がそわそわしている。
潮時だね。
「それで最初の質問です。いくらなんです?」
「これは最新式だ、金貨100枚。でもせっかくだから、金貨80枚にまけてやる」
いやいやそれはないな。
「僕も魔法袋の相場は聞いてます。王都で金貨40枚ってね。倍の値段じゃないですか。
買えませんよ」
「ジン、お金はあるわよ」
よけいなことを。
「俺たちの生活費が減るじゃないか。そんなに余裕はない」
クレアを睨む。
「マスター、すいません。お任せします」
また耳の中で声がする。
「……」
「それにもうすぐ王都です。王都で買いますね」
「待て待て、そう簡単に結論を出すな。わかった、これは本当に最新式なんだ。
そうだな、金貨60枚でどうだ」
「店主、さっきゴブリンの魔石を1年交換してないって言ったじゃないですか。
中古でしょ。だったら金貨40枚より安くなかったらおかしいじゃないですか」
「それは魔石が1つのタイプの値段だ。2つのタイプは本当に高いんだ。
確かに1年経過しているが新品同様なんだよ」
「金貨45枚なら買いましょう。店主、魔法袋って高価ですよね。1年間売れなかったってことは
金貨40枚くらいの仕入れができなかったってことですよね。商売はたくさん品物を売買して
回転させないとあんまり儲かりません。僕であんまり儲けなくても魔法袋を売ってしまえば
今後、新たに仕入れた品物で利益は増えますよ」
「……金貨45枚では、元が取れん、金貨50枚だ」
「わかりました。じゃあ、金貨50枚で購入します」
お金を支払って、魔法袋を手に入れた。
「やったぁ、魔法袋欲しかったの。ジン、ありがとう」
うきうきだね。
俺はクレアに手渡した。
興味しんしんで中を覗いている。
店主は
「2度と魔法袋など扱わない。お前さんの言うとおり高額な商品が売れないと困るんだ」
「初めて扱ったんですか」
「製作者がな、苦労してこの新型を作ったそうだ。だが高いと言われて、実はあまり冒険者に売れていない。
旧式で充分なんだそうだ。魔法袋はギルドまでの重たい荷物の輸送手段にしか使われていない」
「魔法袋の中は時間停止していて、腐らないんですよね」
クレアがまた質問する。
「冒険者が200キロも食べ物を魔法袋に長い間入れておくことなんて、ほとんどないさ。
それに大商人の売れ筋は1000キロだそうだ」
「王都には、これは置いてないんでしょうか」
「そんなことはない、数が少ないだけ。まだ旧式がほとんどだろう」
なるほどね。さて金貨を魔法袋に入れないとな。そこで思いつく。
「ところで銅貨が500枚くらい入る丈夫な袋ってありますか」
店主がにやりと笑う。
「雑貨屋らしい品物だ。もちろんあるぞ、銅貨90枚だ」
「じゃあ30個下さい」
今度は値切らない。
店主がまた店の奥に入っていった。
「ジン、金貨を小分けするんですね。500枚ずつですか」
「気がきくね」
……
群馬南西ギルドは、カウンターが25もある今まで一番大きいギルドだった、
「ジン、魔法袋を研究用に買ってください。本部で解析させます」
最初に買った魔法袋は俺のリュックの中、毎晩クレアが必死に魔法袋をいじっていた。
やっぱり視覚情報と触覚情報だけでは無理なようだ。
ギルドの奥に武具が置いてある売店があった。
見当たらないので店員に聞く。
「すいません、魔法袋を買いたいんですが
どちらにあるかご存知ないですか」
「ああ店頭には置いてないんですよ。でもここで扱っているのは200キロで金貨40枚ですよ、大丈夫ですか」
「はい、用意してきました」
すると店員は奥の扉を指した。
「あちらの部屋で待っててもらえますか」
部屋の中は応接セットが置かれていたので
俺たちは座って待つ。
「お待たせしました」
「いいえ」
目の前に魔法袋が置かれる。魔石が1つのタイプだった。
さっさと金貨40枚を支払って、クレアに渡す。
「ジン、2つ買いましょうよ」
「もう1つありますか」
「おや、お金持ちなんですね。じゃあ待ってて下さい」
店員が出て行く。
「クレア、あんまりお金を持ってることを見せたくないんだ。
次のギルドでも買えるだろ。少し考えろ」
「ジン、ごめんなさい。少しあせってしまいました」
自分の分と本部に送る分なんだろうな。
下を向いてしまったので、
少年がかわいそうと思っている。
俺は怒っている。変な感じだ。
店員がもう1つ魔法袋を持ってきたので、さらに金貨40枚を支払って、これもクレアに渡した。
日本円で800万円だ、確かに金持ちだな。
「旧式は新型と使い方は同じですか」
「同じですね。魔石の数だけですよ。新型はここにはありません。
今は王都の冒険者ギルドはどこも旧式だけだと思いますよ」
「新型は手に入らないんですか」
クレアが質問する。
「貴族街の魔道具屋なら手に入るんじゃないですかね。
私も行ったことはありませんから聞いた話ですけど」
「魔道具屋はギルド街にはないんですか」
「一般向けの魔道具屋がありますね。
照明器具とかコンロとか。魔法袋は商人ギルドにもありますね。
でも新型があるかはわかりません」
「一般向けの魔道具屋を教えてもらっていいですか」
「いいですよ」
……
「ジン、魔法に近づいてきましたね、感動です」
一般向けの魔道具屋で置いてあった商品は、照明、コンロ、ヒーター、クーラー、扇風機、冷蔵庫まであった。
「ジン、全部買いましょう」
はいはい。
「魔道具は魔石は何を使うんですか」
店員さんに一通り購入すると告げてから聞いてみる。
「銀貨3枚までの魔石が良く使われますね」
「やっぱり利用期間はそれぞれ違うんでしょうか」
「はい、ですからお客様は交換用に魔石は複数常備してますね。
新型の2個の魔石を利用した魔道具は空の魔石を交換すれば
いいので経済的なんですが、まだまだ高価でここにはありません」
やっぱり貴族街の魔道具屋が品数が豊富みたいです。
支払いを済ませて、全ての魔道具を購入した魔法袋に入れて外に出た。
「ジン、貴族街の魔道具屋に行きたいです」
はいはい。
「この世界では電気の代わりに魔石を利用しているんだね。
まるで電池だ、魔物はエネルギー資源なのかなぁ」
「魔道具って高価ですから、支配層とか裕福な自由民が利用するんですかね」
王都、群馬では魔道具は簡単に買えるらしい。
すごいな、群馬。
「ジン、早くお願いします」
ギルドを出たら、クレアが手を引っ張って、急かされたので、人目のつかない所で魔道具入りの魔法袋をヘリに入れる。
やれやれ。
翌日、王都最大のギルド、群馬西ギルドに移動した。