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相棒頼みで生きていく  作者: 青葉一馬
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旅立ち

 その場所は真っ白な閉鎖空間で、中央に椅子があるだけ。20畳くらいの広さで、照明設備はないのに光で満たされていた。

 刑務所とか精神病院を連想する場所だ。もう何時間も拘束されている。俺はどうすればよいか理解し、協力を約束して自由になった。


「すぐ出よう」

「マスター、もう少しお話ししましょう」


 まだ悪夢は終わらない。扉だと教えられた壁は通り抜けることができた。突然、目の前に朝の景色が広がった。

 空気がうまい。自然の光に包まれて正気に戻った気がする。耳障りな声さえしなければ。とにかくこの場所から遠ざかりたい。

 俺は村に向かって歩き出した。


「マスター、そんなに急がなくても」


 こいつとは何時間も話した。普通だったら少しは慣れる。だけど普通じゃないんだ。


「急がば回れって、地球では言うんでしょ。そんなに急がなくても」

「いや、俺は急ぎたいの。戻れっていうの、あんなところに」


 狭いのは嫌だ、知ってる場所ならまだしも。

 少年の記憶では、ここは山間部で人里まで60分くらい。森の恵みは豊かで、とってもいいところ。

 だけど俺はここを出たい。ひょっとしたら、突然自宅のベッドで目覚めたりしないかな。


「マスター、依頼の期限はありませんよ、本当にできるだけ」


 それはないな。期限なしの仕事なんて、あったとしたらろくでもない。とにかく歩き続ける。


「まあ、マスターのお怒りもごもっとも。それはわかります。でも、まあ、仕方ないじゃないですか」

「怒ってない。むしろ感謝している。動揺はしてるけど」

「せめて旅支度くらいはしましょうよ」

「……そうだな」


 ここは地球ではなく異世界で大型の獣や魔物がたくさんいる怖い世界らしい。異世界と言えば、剣とか魔法とかで殺し合いをする世界だよね。

 俺はまるっきり手ぶらだった。


「ひょっとして、なんか準備してくれていたのか」

「いいえ、まだです。ご指示を頂ければなんなりと」

「いや、そこは気を利かせて準備しておけよ」

「……」


 少年の小屋はここから30分くらいのところだ。少年の小屋に向かって歩きながら、少年の記憶をさぐる。


「弓が得意みたいだぜ、少年は。うさぎや鳥を狩って生計を立てていたんだな」

「そうですね、年齢のわりには上手みたいですよ。お父さんは優秀な猟師だったそうです」


 こいつは俺と少年の記憶を把握していて、会話を楽しむ相手としては最悪だ。全部知っているのだ。

 だけどやっぱり一人は寂しい。この世界に知り合いはいない。会話はしたい、こんな奴だけど。


「猪はさすがに弓では厳しいみたいだな」

「マスター、少年は剣は持ってませんでした。ナイフは持ってましたけど」


 ナイフはあそこか、戻りたくないなあ。


「マスター、小屋に行くんですか」

「装備を取ってくる。小屋には現地通貨もあるらしい。そしたら少し頼みがある」


 小屋の中に入って、ごそごそと目的の場所を探ると少しだけ銀貨と銅貨が見つかった。

 これでは少ないので、もうひとつの心当たりを探って、布にくるまれてた金貨を見つけた。


「金貨はやっぱり高価なんだ」


 駄洒落ではない。


「この国の主要通貨ですね、紙幣は発行されていないみたいですから。地球だったら10万円くらいですかね」

「大事にしてたんだな。おっと、お父さんの剣がこんなところに」


 少年にお母さんの記憶はなく、お父さんが死ぬまで仲良く暮らしていた。お父さんの形見の剣は大事にしよう。


「少し安心したよ。丸腰はないよね」

「マスター、剣は最低、金貨1枚はするそうです」


 立ち上がって小屋の中をぐるりと見回す。


「少年の弓は壊れちゃったんだよね。お父さんの弓を捜そう」


 親父さんの弓は壁に掛けてあった。きれいに磨いている。矢は10本と少し少ない。


「やっぱり装備していかないとね」


 お父さんは凄い剣士という記憶と感情が流れ込んでくる。俺の中に少年は生きている。少年には悪いがここにはもう戻らない。

 せめて形見はできるだけ持っていってやりたい。


「矢は20本は欲しいな」


 外に出る。


「マスター、リュックも必要です」

「そうだった」


 リュックは少年が稼いだお金で買った大事な物だ。

 あわてて小屋に戻り、リュックに水筒、紐、布、タオル、洗面道具そして食料は干し肉とパンがあったので詰め込んだ。

 パンは集落で手に入れていたらしい。それから飲料水は川の水だ。なので水筒の補充は近くの川で済ませる。


「この世界って病気あるよね」

「それは、まあ」


 ここは地球でいうと中世である。


「ペストとかコレラとかあったら、すぐに死んじゃうぞ。生水飲むんだぜ」

「マスターの健康管理はお任せ下さい」

「まじ」

「え、ほんとに」


 こいつ、ほんとにAIなのか、この反応……。


「ご説明したじゃないですか、我々の文明は進んでるって。人間の伝染病の対処は万全。自信あります、本当ですよ。

 惑星探索はかなり実施していて、たいていの人型も大丈夫です」

「人型ね」


 人間以外も大丈夫な訳ですか、信じられん。

 さて少年の小屋でできることは、これでおしまい。次はこいつに頼むしかないな。俺は来た道を引き返す。


「今度はどちらに」

「お前さんの本拠だよ」

「マスター、信用してますか、信頼してくれてますよね」

「もちろんだ、君しかいない」

「うそですね」


 信用できるわけがない。

 ここから出てきたんだよね、扉が見当たらないけど。


「扉がない」

「ああっ、すみません。気がつきませんでした。すぐ解除しますね、迷彩偽装」

「迷彩偽装?」

「あれ、知りません、姿隠すやつ。おかしいな、マスターの記憶にあったのに……」

「……●●機動隊で出てたやつか」

「そうです、それです」


 こいつは無神経に俺の記憶を口にする。俺の闇まで知っていると思うと、ぞっとする。

 左前方に突然扉が現れる。


「さてお願いは、まず武器のメンテナンスだ。できるんだろう」

「装備を扉の中に入れて下さい。マスターはいい人ですよ、悪い人なんかじゃないです」

「おい、まさか俺の思考まで完全に読んでるんじゃないだろうな」


 リアルタイムで俺の思考を把握なんてされたら仲良くできるわけがない。


「そんなことしてません、ほんとです。人権侵害になります。これはAIが予測した結論からの気遣いなんです」


 信じられん。

 扉から剣と弓矢、あと金貨も入れた。

 この中に引きずり込まれたら嫌なので、扉からすぐ離れる。


「いい人ってのは褒め言葉じゃない、むしろ悪い人の方がまし。それでメンテナンスできるのか」

「たぶん1時間で終了します。ご希望ありますか」

「何回もメンテナンスしたくない、まあ耐久性を上げてくれ」

「マスター、もう一つは金貨ですか」

「気がきくじゃん」


 この世界で手っ取り早く、お金を稼ぐには冒険者ギルドで依頼を受ける。定番だ。

 だが俺には無理だ、戦い方など知らない。


「マスター、金貨は1オンス金貨と1/2オンスの中間で、20グラム程度です。金塊とか砂金とか持ってきてもらっていいですか」


 ぜんぜん気がきかない。

 この世界は金塊がごろごろ転がってるのかね


「おまえ、衛星から鉱物のありかはもう把握してるって言ってたじゃないか」

「場所教えます」

「どこにあるの」

「魔素の森の中に」


 この世界には魔素ってのがあるそうだ、見えないけど。魔素の森は魔物が多く棲んでいる危険な場所だ。

 エーテルみたいなものかね。

 魔素は地球にもこいつの星にもない。

 それでここで魔素センサーを開発したそうだ。


「どうやってだよ、15歳だぞ、魔物が出たらどうすんだよ」

「マスター、お話しましたでしょ、万全サポートです、死ぬことはありません。

 それにレベルを上げる必要性はマスターも認識してくれたじゃないですか」


 この世界にはレベルがある。冒険者ギルドで測れるらしい。お父さんはレベル24の冒険者だった。少年のレベルはわからない。


「あのなぁ、最初の目標は魔法袋なんだろ。それは王都で売ってるんだろ。俺は王都に行かなければならない。

 なぜ俺が魔素の森に寄り道して、金を取ってこないといけないんだ」


 少年の記憶では、魔法袋は手が届かない。だけど欲しい、そんな道具だ。少年の大きな悩みは、猪、鹿や熊を苦労して狩っても持って帰れない。

 時間が経つと腐ってしまうからだ。この世界には魔法がある。魔法袋は時間停止、重さ無視で、標準の積載量は200キロだそうだ。

 こいつは少年の記憶を把握して、俺に最初に魔法袋を手に入れるように依頼した。

 俺も手に入れたい。少年の希望はできるだけかなえるのが当面の目標だ。

 ちなみにこいつの目的は魔法の調査だ。俺は協力をしなければならない。


「マスター、お言葉ですが、お金がないと買えません」


 お父さんが金貨40枚だと言っていた。


「そうだな。でも15歳の少年がすぐ稼ぐのも無理だから頼んでいる、お前はすぐできるからな」


 少年の最後の記憶は熊との戦闘だった。突然襲われて、必死に逃げた。


「俺が聞いた話はこうだ。俺の周りは四方八方に不可視の機体が護身用に上空を常に飛び回っている。

 しかも人間、魔物、動物や植物、とにかく何でも認識できる万能レーダー装備の機体だ」


 レーダーがあったら、少年も死なずにすんだな。


「俺が不可視の機体が故障したらどうすんのってお前に聞いたら、新しい機体を飛ばせるって言ったろ。

 材料はどうすんだっていったら、積載量300キロのロボットですからってね」


 こいつらの文明は地球なんか足元に及ばない。

 宇宙を飛び回る能力がある。


「だから俺は資金の提供を依頼したんだよ。金とってこれるでしょ」

「マスターのご依頼ですから可能です。その方が合理的ですね」


 おかしな返事だ。

 でもやってくれるらしい。


「ジャンボ宝くじ6億円相当の金貨は手に入るかい」


 金貨の枚数だとイメージが沸かない。


「マスター、理論的には1台の探索ロボットで金貨15000枚、日本円で150億円が用意できます。10日はかかりますが……」


 途方もない資金が手にはいるらしい。

 俺が地球で生涯稼いだ金額は3億円届いていたのかな。


「仕方ないよね、でも持ってきてくれるんだろ。金貨はサンプルとして置いてかないといけないかな」

「マスター、金貨の組成や形状は解析中です。大丈夫です、お返しします」

「助かる」


 少年の金貨だ、持って行きたい。

 現在の資金は金貨1枚、銀貨9枚、銅貨55枚だ、日本円に換算すると「マスターの現在の資金は10万9千550円ですからね」

 ありがとう。


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