漂う惑星
興味本位で始めた仕事だった。
おそらくは聞けば誰もが怪訝な顔をする仕事だった。
私はその職業を1年ほど続けた。
出勤して自分のブースを決め。荷物を持ってブースフロアへ向かう。
入室前に携帯の電源を切り、四角く区切られた箱に窮屈そうに置かれたリクライニングチェアへ腰掛けて安っぽいカーテンを閉める。
PCの電源を入れて、インカムを装着して指が覚えているダイヤルを押す。
声の高い女のアナウンスと、ノイズだらけの有線が流れる。
聴きすぎて覚えてしまった有線の曲を口ずさみながら消音の動画をPCで見る。
ぼーっと青白い光に照らされながらリクライニングチェアで体育座りをして、目を閉じる。
こうすると、このくだらない仕事をしていることも、まだフラフラして定職につかずに諦めのつかない役者の夢を見ていることも許してもらっているような感じがして、心がほんの少し軽くなるような気がした。
干支と年齢の早見表を見て来年は何年だったかと考えた、今年は年女なのに何してるんだろうと現実に戻りそうになる。
慌てて都市伝説の動画を注視する。
イルミナティやらマヤ文明やらこの仕事のせいで異様に詳しくなってしまった。
あとは出会い系の仕組みにも。
ほとんどは偽りに偽りを重ねて平気な顔で笑っていればそれでお金になった。実にくだらなくて、実に難しい仕事だった。
受話器の向こうの感情と思考を読んで先手を取って会話を進める。
それができなければ今日のご飯にも有りつけないような仕事だった。
でも、自分には向いていたように思う。
今でも時々あの四角い宇宙に帰りたくなる時がある、底辺の人間と底辺の話をしに。
あのゴミ箱の中に帰りたくなる時がある。
100%の純度の高い嘘で塗り固めた自分で誰かと話してみたくなる。
仕事の帰り道に、デートの途中に、ベッドの中で目を閉じる時に。
死ぬほど有線で聴いたレディガガのfireworkが今は街中のBGMとして懐かしく響いていた。
聴くと死ぬほど不快な気持ちになるのに、そう思いながら明日のまともな仕事のために早足で帰路に着いた。