神と特因(ギフト)
僕が氣を覚えてから二年がたち、僕は七歳になった。
この二年間は、ひたすらに魔法と剣の腕をあげることに費やした。頑張りまくったので、最近では一人で『転在門』の使用が許可されている。荒野なら、思いっきり訓練が出来るので、自重とかまるで忘れて楽しんでいる。
二年もたてば、女っぽさが少しはなくなるかと思ったが………。逆に、美少女さに磨きがかかってきた。初対面の相手には、必ず「お嬢様」って言われるし……………。ハァ。
閑話休題
で、今日はあることを思い付き、それを試していたんだけど………。
「うわぁ………。まさかここまでとは……」
うん、やり過ぎた。さすがにこれはない。
荒野一面を、更地に変えちゃうなんて
。
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「いよいよ明日ですね、レイヤさま」
「明日………。あ、特因を受けとる日か」
特因。
人が七歳になったとき、神から貰うことのできるもの。
基本的には、一人ひとつのものであり、その内容は人それぞれで異なる。武器や防具に、魔法具。スキル、古代遺物。珍しいもので言えば、魔眼などもある。
基本的に、と言ったことからわかるように例外もあり、古代の英雄の中には、特因を三つ持っていたとされる者もいる。
で、その特因贈呈の儀が、明日あるのだ。サツキも一緒である。
僕とサツキの誕生日は異なるが、正確に七歳でなくても、『今年、七歳になる子供』ならいいらしい。以外と適当だな。神。
「うん。楽しみだ」
「そうですね。レイヤさま」
そして、翌日ーーーーー
僕とサツキが、母さんにつれられてやって来たのは、王都にある神殿だった。この世界で最もポピュラーな宗教、聖天教の神殿らしい。この宗教で崇めている神が…………なんだったっけ。ラノなんちゃらとかいった気がするけど………。ダメだ。思い出せない。
「うわぁ~。きれいですね。レイヤさま」
「たしかに……」
神殿は美しい建物だった。華美な装飾はないが、純白のシンプルなデザインは、それだけで、神聖さを感じさせる。
「さ、いつまでも見とれてないで。いくよ二人とも」
「「はーい」」
母さんに急かされて、神殿の中に入る。中も清廉できれいだった。天井近くにはめられたステンドグラスが幻想的。
「ようこそ、聖天教へ。大司教のコレットです。オルテシア公爵様ですね。噂はかねがね聞いております」
出迎えてくれたのは、高齢のおばあちゃんだった。白に金糸で刺繍が施された法衣をまとっており、どこか神々しいオーラを感じさせる。
「まあ。大司教様がわざわざ………。光栄です」
「いえいえ、こちらこそ。名高きオルテシア家のご令嬢の贈呈くの儀に御一緒できるなんて」
おい。今、ご令嬢って言ったかこのババァ。
「あの~」
「はい?どうしました、お嬢様?」
「僕、男です」
「え?………そ、それは失礼いたしました」
「いえ………。慣れてますから」
おっと。目から汗が………。ほ、本当に汗だかんな!泣いてないから!
そんなひと悶着があったものの、そのあとの手続きなんかはすぐに終わり、僕とサツキは贈呈の儀をするための部屋につれていかれた。案内してくれたのは大司教ババァ………もとい、コレットさんである。
贈呈の儀をやる部屋は、『神通の間』と呼ばれるところで、何やら床に、幾何学模様が描かれていた。
「この部屋の中心で祈りを捧げることで、主神ラノクリッド様より、特因を授かることができます。では、早速始めましょうか」
あ、主神ってラノクリッドって言ったんだ。ラノ、までは覚えてたんだけど……。
そんな罰当たりなことを考えながら、幾何学模様の中心に、サツキと二人でたつ。祈りってどうやるんだろ?と考えていたら、サツキが僕の服の裾をつかんできた。
「サツキ?」
「す、すみませんレイヤさま。その、ふ、不安なので………手を繋いでくれませんか?」
やだなにこのこすごくかわいい。
そんな捨てられた子犬みたいな上目遣いで見られたら、断れませんって。まぁ、断る気なんかはさらさらないけど。
僕はサツキの手をぎゅっとつかむと、大丈夫、と言うように、優しく微笑む。それだけでサツキの顔からは、不安の色が消え去り、ちょっと恥ずかしげにはにかんだ顔になった。うん、こんな可愛い表情が見れるなら、この程度、お安い誤用だ。
サツキが大丈夫、と言うようにうなずいたのを確認してから、二人して目を閉じる。
さてさて、ラノクリッドとやらは、どんな特因をくれるのやら………。
『おいおい、ボクは一応神だよ?もうちょっと敬ってくれてもいいんじゃやい?』
………なんだ?この声。まるで、頭に直接響くような………。
『あったりー!その通りだよ、レイヤくん。いや、光也くんって呼んだほうがいいかな?』
な、なんで僕の前世の名前を………?一体お前は何者…………ッ!ま、まさか……!
『そのまさかだよ、光也くん。さぁ、ボクのところにおいでよ』
お、お前は………ラノ……。
そこで、僕の意識は白く塗り潰された……………。
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「ん……。こ、ここは……?」
気がついたら僕は、何もない純白の空間に倒れていた。体を起こして、辺りを見回すが、本当に何もない。手を握っていたはずのサツキも、どこにもいなかった。
「なんなんだ、いったい………。えっと確か、祈り始めたら、変な声が聞こえて……」
「変な声とは失礼だな」
「ッ!誰だ!」
いきなり後ろから、声が響いた。この純白の空間にくる前に聞いた声。声の主の方へ振り返ると、そこには、一人の少年が立っていた。中性的な顔立ちをした、美少年だ。
「やっと起きたね。五十嵐光也くん」
「……………ラノクリッド……か?」
「せーかい!ボクがこの世界の最高神、ラノクリッド様だよ。さぁ、崇めるがいい!」
「テンションがウザイ」
「ごふっ……。い、いきなり精神攻撃かますのは、やめてくれないかな………」
…………なんだ?この変なやつ。僕の前世を知っているみたいだからラノクリッドって呼んでみたんだけど…………。単に頭のおかしい、かわいそうな子かもしれない。
「…………キミ、かなり失礼じゃない?初対面の相手を、おかしい子呼ばわりなんて………」
「なんのことだ?まぁ、お前がラノクリッドだっていうことは信じてやる。で?その主神サマが、僕にいったい何の用だ?」
「…………ま、まぁいいや。ここにキミを呼んだのは、キミと話しをするためだよ」
「話し?何でだ?」
「それはね………ボクがキミをこの世界に転生させて、今のキミを創ったからさ」
……………は?と、言うことは、レイヤ(僕)の中に、光也(僕)の記憶が残っているのは、コイツの仕業ってこと?何でまたそんなことを……………………ん?ちょっと待てよ。コイツ、今の僕を創ったって言ったか?じゃあもしかして………。
「なあ、ラノクリッド。今の僕を創ったってことは、この容姿もお前が決めたのか?」
「そうだよ?いや~それにしても、見事な美少女っぷりだね!」
「………どうして女顔にしたんだ?」
「ん?それは………」
「……………それは?」
なかなか理由を話さないラノクリッド。こっちがイライラしているのを楽しんでるだろ、コイツ。
「それはね~……………………ボクの、趣味さ!」
………………………………………………………は?
趣味?趣味って言ったか、今。
「いや~、地球のラノベとか読んでたら、どーも男の娘にはまっちゃってねー。リアルでも見てみたいなって思ったんだ。でも、自分でなるのは恥ずかしいし。かといって、何億といる人間の中から探し出すのはめんどくさい………。だから、転生してくる魂を、男の娘にしよう!って考えたわけ。でもまさか、ここまで完璧にいくとは思わなかったよ。って、どうしたんだい?」
途中から、ラノクリッドの話なんて耳に入っていない。僕の頭の中は、ラノクリッドに対する、烈火の如くの怒りで、埋め尽くされていた。
お前の………お前のせいで………僕は!
僕は、魔力と氣を全く同じ量練り上げ、混ぜ合わせる。
青の魔力と赤の氣が合わさり、紫紺のオーラへと昇華する。
それを足に集中させ…………!
「え?な、なんで神通力を……?てか、え?ちょ!な、何でそんなに怒って……」
「うっさい死ねこの……………変態ヤローがああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
紫紺のオーラを纏わした足で、あわてふためいているラノクリッドの股間を、全力で蹴り抜いた。
「おっふぅ…………。し、死ぬ………」
崩れ落ちるラノクリッド。股間を押さえてうずくまるその姿に、神の威厳とかはまるでなかった。
「い、痛い………。でも、男の娘の蹴りなら、ご褒美…………だね」
…………………もっかい、蹴ろうかな。