始まりに続く終わり
痛い、苦しい。そして、冷たい。
体中がグチャグチャのバラバラになったような痛みに、呻き声を出そうとして、失敗。もう声を出す力も残っていない。
どうして僕が、こんな目にあわなきゃいけないんだ………。
自分の中から、ドクドクと血が流れだし、大きな水溜まりを作っていく。あぁ、僕は死ぬんだ。と、簡単に理解できた。
不思議と死ぬことに対する恐怖はない。僕の精神がよほど屈強なのか。それとも、もう恐怖すら感じることが出来なくなってしまったのか………。多分、後者だろう。
この世界に生を受けてから、十五年。自分で言うのもあれだが、そこそこ幸せだったんじゃないかと思う。
家はそこそこ裕福で、両親と妹との四人で一戸建ての家に仲良く暮らしていた。
学校の成績は良かったし、運動も得意だったし、友達にも恵まれていた。
行きたい高校にも合格し、今日はその入学式だったのに………。まさかひき逃げに会うとは、人生何が起こるかわからないものだ。あのひき逃げヤローめ、化けて出てやるぞコラ。
迫り来るトラック。頭をよぎった走馬灯。凄まじい衝撃。そして、光を失う直前に見た、宙を舞う僕の右腕。
いやもう、本当にビックリした。あ、ビックリしすぎたから怖く感じないのかな?
にしても………。なんでこんなに鮮明に考えごとができるんだろ?死ぬ前の心の準備の時間、みたいなものなのだろうか?
ま、いいか。考え事ができるうちに、死んだ後のことでも考えてみるか。
うーん、天国とかいくのかな?悪いことなんてしてこなかったから、地獄はないだろ。ない……よね?
他には………、あ、輪廻転生。生まれ変わりっていう線もあるのか。
転生かぁ……。最近、ラノベとかネット小説でよくあるけど、本当におきるのかなぁ?
もし………もしも、もう一度人として生まれ変わることが出来るのなら、この十五年で、できなかったことをやりたいな。具体的には、童貞を捨てたい。まだなんだよなぁ、初体験。彼女がいなかった訳じゃないんだけどね………。……いや、本当だよ?年齢=彼女いない歴じゃないからね?
それと、次の人生は、寿命で死にたいな。目指せ百歳!
ま、生まれ変わりなんてあるわけないか。あったとしても記憶はここで消えちゃうだろうし。
でも……………祈ってみることくらいなら、自由だよね。
お願いします。神様。十五歳で死んでしまった僕に同情してくれるなら、僕に新しい人生をください。僕には、まだまだやりたいことが、たくさん残っているんです。
…………………ははは、こんな自分勝手な願い事なんて叶うはずもないか。もうちょっと謙虚にすれば良かったかなぁ。
うっ………意識がどんどんなくなっていく………。これで、僕の人生は終了かぁ。………やっぱり、さみしいし、悲しいなぁ。
ごめんなさい、父さん、母さん、恵美梨。いっぱい愛してくれて、ありがとう。
薄れゆく意識の中、僕は、こんなことを聞いた気がした。
『キミのその望み、叶えてあげるよ』、と。
こうして、僕、五十嵐光也の短い一生が幕を下ろした。
そしてそれは、新たなる物語の、始まりでもあったのだ。
僕はまだ、その事に気が付かない………。
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「うん、この子には、転生の権利をあげよっと。転生先は……………この世界でいっか」
何もない空間に、幼い声だけが響く。
「くふふっ。この子はどんな人生を送るんだろう。楽しみだなぁ」
何もない空間には、甲高い笑い声が、いつまでも響いていた。