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蹂躙せよと嗤う声あり

 シューニャは無双した。スヴァルナ遺跡に生える薬草を殲滅せんとばかりに草刈り鎌を片手に暴れまわった。

 だが薬草は強い。切っても抜いてもまたすぐに生える。比喩でも何でもなく本当にすぐに生えるのだ。ぽんっと。

 気前よく晴れた青空の下で行う、運動およびストレス発散の一環としては最高である。

 誰も見ていないのをいいことに、着ている漆黒のローブをばっさばっさとはためかせ、キエエエアアアと奇声を上げながら無慈悲に草刈り鎌を振るう。誰か居たとしても近寄れないだろう。怖くて。

 薬草という薬草を刈り、袋に種類ごとに詰め込んでいく。こっちはどくだみ、こっちは薄荷。こっちはよもぎで、こっちは紫蘇。数多の臭気が合わさり最強の悪臭が誕生する。だが気にしない。

 十分な量を刈り取って、一息つく。すでに遺跡は元通りの緑溢れる姿に戻っていた。大自然の神秘だ。古代人は薬草達に対しどんな魔改造を行ったのだろうか。さすがのシューニャでも、自分が生まれるより前に滅びた古代人の考えは分からない。


 さて、魔王城にどれを撒いてくれようか。


 刈り取った大量の薬草が入った袋を、砦への転送装置に放り込みながら、今一番必要な薬草は傷薬の加工に使うどくだみだと判断。ちらりと見やる遺跡内には、どくだみが青々と茂る。

 砦に薬草が転送されていくのを見送って、シューニャはもう一仕事、と、どくだみに向けて草刈り鎌を振り下ろした。

 可憐な白い花、葉、茎、そして引っこ抜かれた根。これらが全て魔王を苦しめる尖兵となる。あまりの楽しさに笑いが止まらない。草刈り鎌を振るう手もやめられない止まらない。

 気が済むまで刈り取って、背負い鞄に無造作に突っ込む。突っ込むついでに固形蜂蜜を取り出した。一個ぽいっと空中に放り投げ、


「姉妹よ、精霊達よ。僕の声を聞いておくれ」


 人の言葉ではない、精霊達の使う特殊な言葉で語り掛ければ、放り投げた固形蜂蜜が宙に浮いた状態で静止した。

 それを確認し、背負い鞄を背負って続ける。


「魔王城の屋上へ連れていって。お礼に蜂蜜をあげる」

『転送魔法は一度行ったところにしか行けないんだよ?』

『魔王城の屋上なんて、行ったことあるの?』


 姿なき可愛らしい声とともに、固形蜂蜜がふわふわと揺れる。ごもっとも、と小さく返事して、


「大丈夫。昔、行ったことがあるよ」


 正確には、『連れていかれた』もしくは『拘束されていた』なのだが、その辺りは今回関係ない。


「ほら、どうぞ」


 言って、魔王城の屋上を思い浮かべ、精霊達に記憶を覗かせる。

 見晴らしが最高で、空に手が届きそうな場所だった。まだ辛うじて人間だった頃の記憶だが、忘れるわけがない。

 魔王城はあの頃から増改築などされていなかったはずなので、問題ないだろう。


「大丈夫でしょ?」


 しばしの沈黙。


『なら、いくよー』


 軽いテンションの声とともに、固形蜂蜜が掻き消えた。そして、代わりに展開される転送の魔法陣――

 瞬きひとつ。

 シューニャの視界が魔王城の屋上に切り替わった。転送成功だ。

 だが無事な転送に安心している暇はない。ここは敵の本拠地なのだ。油断は禁物。


「斥候をお願い」


 精霊語で呟けば、耳元で少女の声がする。


『敵影二つ。ここより二段下、テラス。他に敵影なし』

「城内に敵影は?」

『なし。城は無人』

「無人?」

『魔王は軍を率いて留守』

「ちなみに、罠は?」

『なし。先代魔王が仕掛けた罠も撤去済み』


 留守って。罠も撤去したって。良いのかこんなに手薄な警備で。他人事ながらシューニャは頭を抱える。今代の魔王は本気でアホのようだ。だが侵入するにはこれ以上ない無防備さ。


『もう大丈夫?』

「うん……ありがとう」


 礼を言って、シューニャは屋上から一段下のフロアへ飛び降りる。人間であれば足が砕けるような高さだが、とうの昔に人間を辞めている身だ。問題ない。

 斥候によればこの下のテラスに敵影あり。腰の二丁拳銃の位置を確認し、飛び降りる。落下しながら敵影を確認。骸骨兵、左右に一体ずつ。着地、ステップ、ワン、ツー、ターン。


 クイック・ドロウ。


 左右に一撃ずつ撃ち込み、崩れ落ちる骸骨兵達が物言わぬ屍に戻ったことを確認。拳銃を腰のホルスターに戻し、更に飛び降りる。着地すればそこは魔王城入口だ。

 本当に無人。何という超楽勝な潜入任務。思わず笑みが零れてしまう。楽しい気分のまま、シューニャは高らかに精霊語で歌う。


「姉妹よ、精霊達よ。僕の声を聞いておくれ」


 くるり、ターン。背負い鞄からどくだみを撒き散らす。鼻を塞ぎたくなる臭気が魔王城を襲うが、鼻が麻痺しているシューニャは気にせず歌い続ける。


「合図をしたら、一斉に、綺麗な花を咲かせたいんだ」


 ざわり、繁殖。見る見るうちに、ばら撒かれたどくだみ達が大地に根付いていく。毒の沼地も含めて侵略していく緑に、ぞくぞくする。


「合図をするまで内緒にしたいんだ。手伝ってくれるなら、お礼に蜂蜜をあげる」


 ふわり、燐光。精霊達が歌い手に集う。不可視の存在である精霊が輝くのは、興味を持った証だ。

 シューニャは再び固形蜂蜜を一個空中に放った。すぐにその姿が掻き消え、そして、目の前で増えていったどくだみもまた消えていく。どくだみは不可視の状態になっただけだ、合図一つでその姿を現すだろう。臭いについては今のシューニャには判別不可能だが、多分消えているはず。多分。


「そろそろ、家に帰りたいなあ。蜂蜜追加するから送ってくれない?」


 もう一個、固形蜂蜜を放り投げれば、瞬時に転送の魔法陣が展開された。

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