表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

響き渡る逆襲の咆哮

 シューニャは絶叫した。


「何だ、これはっ!?」


 悲鳴じみたセレネイドの声が聞こえた気がしたが、反応など返せない。

 両目と両耳に、焼いた鉄の棒を突き込まれて、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回されているようだ。

 原因は分かっている。音だ。庭に落ちていた魔王からの手紙。

 その封筒に入っていた、何かの魔法文字が刻まれた石から、その音が鳴り響いているのだ。

 今、机の上で青く輝くその石は、小さな雷を纏いながら小刻みに震えている。

 シューニャは耳を塞ぐために手紙を放り投げた。

 自室の床にばらばらと散らばる、魔王の手紙に書かれた内容をまとめると、こうだ。


*****


 拝啓 無神教教祖シューニャ様

 

 樹木の緑深くなる今日この頃、健やかにお過ごしでしょうか。

 我々魔王軍におきましては、緑を楽しんでおります。

 楽しみ過ぎて天に召される者まで出る始末です。

 そこで、教祖様。こちらからも贈り物をしたいと思います。

 とある術式なのですが、城で試したところ、害虫を根絶やしにできました。

 手紙に添えさせて頂きます。


 敬具 魔王ヴェルムート


*****


 両手で耳を塞いでも足りない、頭が割れそうだ。

 視界の端、膝をつくセレネイドが見える。大音量の音響兵器か、信者達は無事だろうか。

 唇に犬歯を突き立て、遠のきそうになる意識を繋ぎ止めながら、シューニャは音を出す石を睨みつけようとして――

 失敗した。


 視界が傾き、そして、左半身に衝撃。


「く……っ」


 倒れた、と自覚するまでの時間は数秒。耳を塞ぐものがなくなった今、音はダイレクトに頭の中を掻き回す。

 かなりまずいかもしれない。ふと弱気になった、その時だった。


 扉を蹴破って、一人の男が部屋に飛び込んできた。


 いつもの黒いロングコートではなく、白い割烹着を着込んだその侵入者は、開口一番、音に負けない大声で、


「どれだ!?」


 それだ。答える代わりに、シューニャは机を指さす。

 男は視線を机に向けた。石を確認したのか、目を細めると、


「了解」


 そう短く言って、大きく息を吸った。

 拍手かしわでひとつ、詠唱開始。


「【血潮にかけて殲滅せしめん 破壊の神の名のもとに】」


 術式起動。男の両手の甲に彫られた刺青が赤く、禍々しい輝きを放つ。

 そのまま男は自分の両手を組むと、


「静まれ!」


 一喝、そして、組んだままの両手を机に叩き付けた。恐らく、石を叩いたのだろう。

 パキリ、氷が割れるような音を立て、激しく鳴り響いていた音が嘘のように消えた。


「あっち」


 石が纏う雷で火傷したのだろう。小さな悲鳴を上げて、男がぱたぱたと両手を振った。真っ赤だったその両手は、みるみるうちに癒えていく。

 視界の端でセレネイドが立ち上がったのが見えた。

 くらくらする頭を押さえ、シューニャはふらりと起き上がる。そして、音のしなくなった石をくるくると弄ぶ男に、礼を言うため口を開く。


「助かったよ、ユーリ」


 パン職人は、どういたしまして、と微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ