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出陣せしは血を喰らう鬼

 シューニャは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の魔王を除かなければならぬと決意した。

 シューニャは邪教の教祖である。神を呪い、人の生血を啜る鬼と化して、神話の時代から生きて来た。世界への影響力はさほどでもない。勇者を補佐し魔王を斃す手伝いをするが、代によっては勇者を屠り、魔王と御中元・御歳暮のやり取りをする。その程度の存在である。

 神を真っ向否定する教義であるので、信者の増加は遅々として進まない。この前やっと、生きた信者が千人に達した。激しい戦争のあとは信者が増える。嬉しくないが。


 それなのに。


 即位して三年になる今代の魔王によって、邪教の総本山を襲撃されたのだ。

 そして、やっと千人規模になった信者を傷つけられた。軽傷四十一名、重傷二十五名、重体十七名、死者三名。お分かりだろうか、死者が出た。重体者も生死の境を彷徨っている。許さない。絶対に許さない。

 邪教の総本山にしている砦を半壊させられたのは、まあ仕方がない。戦闘があって壊れない方がおかしい。だが遺跡レベルの建物だ、石材はもう存在しないし修繕費用も莫大だろう。前言撤回。やはり許さない。

 一周回って、シューニャは冷静さを取り戻す。復讐するにも準備が必要だ。そして復讐は『なるべく早く』が鉄則である。

 まず武器。得物である二丁拳銃の弾は、魔王迎撃のために相当数を消費してしまった。生産には時間がかかる。今ある分で何とかしたい。

 まず仲間。普通であれば信者だが、怪我人が出ているため人手はそちらの治療にまわしたい。


 そうなると自分一人でカチコミ申すしかあるまい。


 勝てるかどうか想像してみた。今代の魔王は先代の魔王と比べてアホである。彼のステゴロ上等な戦闘方法は男前極まりないのだが、吸血鬼の懐に飛び込んで来る辺りアホだ。魔法が使えるくせに何故使わない。戦略も何もないアホに感謝して思いっきり血を吸ってやった。意外と美味かった。

 だがアホとはいえ、二度と同じ轍は踏まないだろう。踏まないよな? 他人事ながら少し心配になる。あの魔王は、勇者より先に町人Aに斃されそうだ。

 頭をひとつ振って考えを元に戻す。

 さて武器はどうする。残りの銃弾は、使えるとしても護身用程度にセーブしておきたい……そこまで考えていた耳に、信者のうめき声が届いた。そうだ、薬が足りない。薬草を大量に手に入れなければ。

 そこでシューニャの脳裏に浮かんだのは、繁殖力旺盛な薬草だった。砦から徒歩十五分、迷いの森を越えた先、スヴァルナ遺跡に薬草園がある。そこに生える薬草は、切っても抜いてもまたすぐに増える種だ。だがそこで薬草を採取するだけでは怪我人全てに行き届かない。ならばどうするか。


 広いところに植えれば良い。


 魔王城には行ったことがある。そこの入口付近はそこそこ広い地面がある。植えて増やすしかあるまい。良く効く薬草には酷い臭いを放つ物があるので、嫌がらせも兼ねられる。

 そこまで考えればやることはひとつだ。

 シューニャは砦に飛び込むと、手近にあった背負い鞄を引っ掴んだ。その中に、草刈り鎌と、刈り取った薬草を入れるための袋を数個、おやつの固形蜂蜜をぽいぽいと放り込みながら、


「セレネイド、居るか」

「此処に」


 シューニャが声をかければ、青い鎧を着た隻腕の男性――人型機身兵オートマタが背後に現れる。恭しく頭を垂れた彼に、


「今から薬草を刈りに行ってくる。怪我人を頼んだ」

「御意」

「お前もユーリに腕を直して貰え。他の機身兵にも伝えろ」

「承知しました」


 あのパン職人に頼めば何とかなるだろう。今度ボーナスを支給しよう。そんなことを考えながら、散歩に行くような調子で、


「あと魔王に復讐してくる」

「お気をつけて」


 かれこれ三百年の付き合いになる、こんな会話も慣れっこだ。

 一礼するセレネイドを背に、シューニャは歩き出す。目指すはスヴァルナ遺跡だ。

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