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ルーディス街へ行く

*ルーディス視点

今日は月に一度の、下街に下りる日だ。


身分を隠して服装も変えて、俺とリディアの二人で街へ降りる。

まだ子供だから俺達に護衛がつくことになっているが、基本、暗殺誘拐などの命に危険が及ばなければ、護衛も手を出してはいけない決まりだ。

この日を俺とリディアはすごく楽しみにしている。――なぜなら自由だからだ。


本日の待ち合わせ場所は、街の広場の時計台の下。

どこかの屋台で食べ物を売っている香りが、風に運ばれてやってくる。なんとも食欲のそそられる匂いだ。

買い物する人々でごった返す場所。――そう、ここは街だ。

今日はこの場所で、リディアと待ち合わせなのだ。約束の時間になるとほぼ同時に、聞こえてきた声。


「お待たせ、ルーディス」


リディアだ。


「行くぞ、リディア!」

「ちょっと待ってよ!」


その声を聞くやいなや、俺は背を向けて走り出す。


「よし!迷子にならないように、要注意だ。万が一迷子になったら、時計台の下に集合な!!」

「ほぼ毎回迷子になるルーディスが言っても、説得力がないわ」


リディアの呆れたようなため息を、俺は背中で聞いていた。

レンガ造りの街並みは、店が立ち並ぶ。そこで買い物をしている主婦達の間を、俺とリディアが走り抜ける。

整備されたレンガ造りの道に、両側にはそれぞれの商品を扱う店が立ち並んでいる。

それこそ、食料を扱う店や雑貨店。ここに来れば、生活に必要な品物は一通り揃えることが出来るだろう。この国の台所ともいえる街だ。


「迷子になるのは、しょうがないだろ!!この街にも、しょっちゅう来れる訳でもないし!!」

「だけどルーディス、はしゃぎすぎよ!」

「そうは言うけどなぁーー!」


俺はそこで改めてリディアを振り返る。


「リ、リディア……」

「なによ?」


思わず指をさしてしまう。

リディアの服装は木綿のシャツにサスペンダーして半ズボン。髪は帽子の中に隠し、足元はショートブーツ。一見して遠くから見れば、少年にも見える。まぁ顔を見れば一発で女、それも美少女だと解るだろう。そして、肩から斜めに下げた鞄にはお金が入っているのだろう。それを大事そうにしっかり抱えている。街の少年へと変装したリディアがそこにいた。


張り切ってる、張り切ってる!リディアさん。人には、『はしゃぎすぎ』と言いながら、自分こそ張り切り大賞ですから!!


「格好から入る主義なのよ、私は!!」

「へぃへぃ」


まあ、いいさ。この街で自由に過ごせる時間を、リディアだって、相当楽しみにしているということだ。


俺はまず初めに、屋台で購入した、油で揚げたパンを頬張る。カリッと揚げたあとは、甘い砂糖をまぶしてあって、うまいんだな、これが。もっと食べたいが、小遣いに限りがあるため、ここは我慢だ。

そこで喉が渇いたので、フルーツの搾りたてジュースを頼む。ごくごくと一気に飲み干せば、のど越しは最高だ。そこから雑貨屋に並ぶ品物を見て歩けば、時間があっという間に過ぎる。


俺がこの日、与えられた小遣いは10ギルだ。さっきの揚げパンとジュースを購入して、もう3ギル使ってしまった。じゃあ、残りの金で――


「リディア、俺は決めたぞ!!」

「何を?」


すかさず聞き返してくるリディアだが、俺は決意を告げる。


「さっき行った雑貨屋にあった、『金のなる木の種』が欲しいんだ!買うと決めた!あれを植えれば、俺は大金持ちだ!!」

「そんなわけないでしょ!どこまでお金にがめついのよ!!」

「いや、種を植えれば、一か月すると、大きな実がなってな、それを割ると金貨がザクザク出てくるらしいんだよ!!」

「……絶対、怪しいからそれ」

「いや、あの店主の説明している時の顔は、嘘をついているようには見えなかった。俺の勘は当たるんだ」

「……あんた、絶対騙されるタイプね」


冷めた視線を投げてくるリディアに、俺は興奮して話を続ける。


「この種の栽培は非常に難しいらしい。それこそ気温調節に、肥料を与えるのは太陽の出る前と決まっている。水やりは一日に五回で、一度でも風にあててはダメだ。そして朝晩と歌を聞かせてやらなければ、枯れてしまう」

「……」

「だが、その苦労を乗り越えて成長したあと、大きな実をつけるらしい。そこまで成長させた木は、見たことがないって話だが、店主の弟の嫁さんの実家の隣の家の娘さんの友人が、成功したかもしれないって言ってた!!うまく成功すれば、俺は金持ちになれるんだ!揚げパンだって、10個も買える!!」

「……いい加減、気づけ」


いまいちな反応を見せるリディアだが、俺の心はもう固まっている。


「欲しいんだ!」

「あ~はいはい」


俺がどんなに熱く語っても軽くあしらってくるリディアに、思い付いたことを提案してみる。


「そこでだ、リディア」

「……何よ」

「俺と半分ずつ金を出しあって、一緒に育て……」

「お断り」


最後まで聞かずに、ぴしゃりと一言で跳ね除けるリディアが、時として憎たらしい。


「なんだよ、少しぐらい悩めよな!!俺と一緒に夢を見ようぜ!」

「見れるか!!」


まったくリディアときたら、現実主義すぎる。一言、教えておいてやろう。


「リディア。人間、夢を見ることをやめちまったら、そこで終わりだぞ。夢を見ることは、やめられないんだ」

「ルーディスは、いい加減夢から醒めろ」


相変らず手厳しくも言葉使いの悪いリディアだなー。そんなに怒ってばかりいては、可愛い顔が台無しだ。手も早いし言葉も悪いが、顔は可愛らしいのだから。それこそどこにいても、目立つ存在だ。

そんな顔だけ天使のリディアが、深くため息をついたあと、顔を上げた。


「じゃあ、今日から一ヵ月よく考えて、次に街に来た時も、欲しいと思っていたら買えばいいわ」

「それじゃあ、期間が長すぎる!売り切れてしまうだろ!」

「絶対売れ残っているから大丈夫。私が保障するわ。それに本当に欲しくて必要な物は、時間がたっても欲しいと思うはずでしょ。少しは我慢して計画を練りなさいよ」

「リディア……お前……」

「なによ」

「俺の『オカン』みたいだな~」


人を説得させようとするこの言い方といい、俺の持つオカンイメージにぴったりだ。

俺は感心して褒めたつもりなのに、目を吊り上げるのはリディアだ。


「冗談やめてよね!!ルーディスみたいなアホの子はいらないわよ!!」

「だ、誰がアホの子だよ!!」

「自覚がなければ、あら失礼」


人通りの多い街並み、人目も気にせずギャアギャアと言い争っていると、ふと大事なことを思いだした。

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