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いまいち空気が読みきれない

*リディア視点

私の名前はリディア。

ここヴァンデル侯爵家に生をうけ、今年9歳になる。

自分がこの小さな体におかしな記憶を持っていると、もうずっと前からそう感じていた。


「リディア様、髪を結いましょう」


いや、ツインテールなんて!子供みたいじゃないの!!


「リディア様には、ピンクでレースがたくさんついているドレスがお似合いです」


ピンクで総レースなんて、コスプレじゃない!


しかし、悲しいかな。

私はまだ子供なのだ。メイドさん達の生きる着せ替え人形として、私は鏡にうつる自分の姿にため息が出た。

髪は結い上げたくないの、痛いから。地肌に優しくないもの。

ピンクのふりふりドレスより、落ち着いた色合いのドレスが着たいの。レースばかりは動きにくいわ。

そんな意見は通らないって知っている。


今は我慢よ、リディア。

今に見ていろ、大きくなったら、ツインテールもピンクもふりふりも、全てオサラバするのよーー!


私は心の中でいつも叫んでいた。

口に出して叫びたいところだけど、それじゃあ、メイドさん達が困惑するだけだわ。

だってまだ、子供なんですもの。悲しいことに。重要だから二度言ったわ。

変に空気を読んでしまう私は、自分の感情を押し殺していた。――ああ、疲れる。


**


「リディア様、お出かけの時間ですわ」

「……はい」


ああ、またつまらない拷問の時間が来るのね。私は行く前から気分も足取りも重くなる。

メイドさんに手を引かれ、連れて来られた先は、良家の子息子女達が集まる場所。

ここでは子供たちが集団で、人との係わりかたを学ぶ場所。


時折連れて来られては、良家の子供達と一緒になって、戯れていた。

男の子は男の子で、女の子は女の子同士、自然に分かれてグループが出来ていた。


「じゃあ、お人形さんごっこしましょう~」

「はーい。リディアさまも、ご一緒しましょう?」

「…………はい」


同じ年頃の子供と話が合う訳でもなく、つまらない。だけど、変に断れない私は、いつものように輪に入る。


「じゃあ、お人形さんごっこで、今日は舞踏会行きましょう~」

「わあ~。素敵なドレスを着せて、行かなきゃ~。リディアさまも一緒に、お姫様になりましょう」

「……私はいっそ馬車の馬役でいいです」


このやる気のない返事をみよ。

しかし大人相手よりも子供相手の方が、若干気が楽だ。だって私が多少変なことを言っても、誰も変だと思わない。これが大人相手ならば、『子供らしくない』と気づかれてしまう心配もあるけどね。


「じゃあ、可愛いドレス着せなきゃ~」

「うふふ~」


楽しそうな友人の二人を見て、こっそりため息が出る。いいな、楽しそうで、うらやましいわ。


「リディアさまも楽しい?」

「…………はっ?」


不意に友人の一人が、首を傾げて聞いてくる。心をどこかに飛ばしていた私は、返事をするのが一瞬出遅れた。


「じゃあ、リディアさまの好きな場面は?その場面でお人形さんと遊びましょう」

「……私?」

「ええ、リディアさまの好きな場面でいいですわ」


にこにこと笑う友の顔を見る。

なんてことだ、私がくっそつまらなそうにしていることを、きっと友人は気づいたのだ。9歳の友人に気を遣わせてしまった。本当に心優しき良い子だ……!

顔が羞恥で赤くなる。これじゃあ、私は転生者として失格だ。慌てて取り繕う。

そして張り切って答えた。


「そ、そうね……!私の好きな場面は、貴族の政略結婚した夫婦の屋敷に、一人の男が庭師として雇われたところから物語は始まるの。そしてその男と婦人は身分を超えた恋に落ちるの。最初は堪えていた二人が、自分の気持ちを抑えることが我慢できなくなり、ついに主人の留守中に結ばれてしまうの……!!それを知ったお屋敷の主人は嫉妬に狂うの!!」

「……」

「……」

「そう!実は主人も、密かに庭師の男に恋焦がれていたの……!!」

「…………」

「…………」

「そうして嫉妬の炎に包まれた主人は、庭師の男を無理矢理監禁してアレやコレをしちゃって情熱的に愛を語るの!!」

「………………」

「………………」

「そこから庭師が主人に対して恋心が芽生えれば、なおグッドエンドよ!!」

「……………………」

「……………………」


力説した後、友人二人が口を開け、私を凝視する姿を見て我に返る。

いけない!!つい趣味に走ってしまったじゃないの!!


「リディア様、ごめんなさい。意味がわかりませんわ~」

「私も~」


わ、わかんなくて、良かった……。何を本気で語っているのかしら、私ってばバカね……!

ここはやっぱり――


「そうね、私が好きなのは、舞踏会で素敵なドレスを着て、そして王子さまとオドルコトカナー」


あまりの興味のなさに、私ってば後半棒読み!!こんなんじゃ、いけないわ。


「それいい案ですわ~」

「素敵ですわ~」


しかし、どうやら友人達には気に入って貰えたようで、何よりだ。


「そうですわよね、王子様素敵ですわ~」

「エイミーも、白馬に乗った王子様と踊りたいですー」

「もう私はダンスの相手が王子だろうが白馬だろうと、どっちでもいいです」


なんとか話を合わせる努力を試みるけど、少しおかしいかもしれない。


「あははっ!リディアさまって、本当におもしろいですわね!」

「ええ!お馬さんと踊りたいだなんて、面白いですわ」

「……はははは」


純粋でキラキラ輝く視線が痛い。乾いた笑いがいつしか得意になった。


こんな感じで私は周囲の人間の輪に馴染もうと、必死に頑張っていたのだ。これでも。

だけどある日、あいつに出会って、世界が変わったの――


「こんなんやりたくねぇ――!!」


いつものように集まって、それぞれが遊んでいると、男の子たちの輪の中から、大きな声が聞こえた。

その発言をしたのは、一人の男の子。しかも金髪碧眼で、髪の毛なんてサラサラして、太陽の光を受けて輝いている。

お供の人達に、その発言をたしなめられている。

しかし、そんなの知ったことではないとばかりに、大きな声でわめく。


「こんな子供の遊び、やってられるかぁぁ~~!!」


一流品だろうと思われる服装に、見た目だけ高貴な雰囲気。だけど彼の発する言葉の悪さに、私は驚いた。


おバカが一人、混じっている。


私の第一印象がそれ。もっとも私の言葉遣いも、褒められたほうじゃないので、人のことは言えない。言い訳をすれば、本音で話せる相手がいないので、だんだん性格も言葉もひねくれてくるのだ。


「ルーディス様、同じ年頃の子供と仲良く遊ぶのも、お勉強ですよ」

「うぉー!!俺には苦痛だぁぁぁ」


手足をばたつかせて地面に寝転がる子供を見て思う。

逆にあなたの相手をする羽目になる子が可哀想だわ……。

そして私は暴れる猛獣のような男の子が、この国の王子だと知り、その子の相手をするのが私になるとは、この時は思いもよらなかったのだった。

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