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転生を重ねて

 転生。

 それが自身のみに起きたとき、その事象について俺が持ち得る知識はあまりにも少なかった。

 俺が始めに生きた世界では「転生」という概念はなかったし、人は死ぬと神に国に召されると言われていたからだ。

 だが死んだはずの自分が見ず知らずの姿で動いているのを自覚したとき、俺はその言い伝えから自分が外れていること、そして自分が神の国とは別の場所で新たな生を得たことを何となく悟った。

 ちなみに「転生」という言葉の意味を知ったのは、5回目くらいに生まれ変わったときのことだ。

 それまでは自分の状態が酷く気味悪かったし、それを上手く説明することも出来なかった。

 また最初の5回は割と早死にすることが多く、自分の状態をちゃんと把握できなかったというのもある。

 だが死と転生を繰り返すたびに、俺は自分の置かれた状況を少しずつだが理解することで出来るようになった。

 まず人は死ぬと記憶を失う物だが、俺はそれを持ち越すことが出来る事。

 次に死ぬたびに生まれ変わる体と場所が変わること。

 そして俺と全く同じ状況の女が一人いること。

 それが5回の人生で俺が学んだ事だ。

 ちなみに同じ状況の女とは俺に惚れたあのお姫様のことである。

 お互い容姿が違っても、中身と記憶が同じ所為か俺達は出会うとすぐ、お互いに気付くことが出来る。

 だがこれには厄介なこともあった。

 どうも、俺達は近くにいるとお互いの命を物凄い勢いで消費してしまうようなのだ。

 事故に遭う確立は跳ね上がるし、そもそも一緒にいて他者に喜ばれる関係になることが少ないため、暗殺などはしょっちゅうである。

 また魔法等がある世界では、お互いが顔を合わせるだけで死の呪いが発動したりと、とにかく酷い目に遭うのだ。

 だがそれを加味しても彼女が俺を嫌いになることはないらしい。

 俺の存在を見つけるやいなや、死を覚悟で彼女は抱きついてくるし、どんな障害があっても愛を囁くのもやめない。

 それを最初はウンザリしていたが、一方で俺は転生を重ねるに連れて少しずつこの状況を楽しむようになっていった。

 もちろん、彼女との再会や求愛好意が楽しいわけではない。

 記憶を持ち越せる事のすばらしさに、俺は気付いたのである。

 人より知識がある事がもたらす恩恵を、俺はこの10回で既に感じ始めていた。

 どんな世界でも、無知な者より学がある者の方が成功しやすいのは当たり前のこと。

 死ぬたびに肉体が変わってしまうものの、持ち越すことの出来る多くの経験と知識さえあれば、どんな困難や荒事をも切り抜けることが出来ると俺は気付いたのだ。

 それは同時に自分に成功をもたらすことに繋がり、転生になれてくると、大体の人生において俺は自分の望む物を手に出来るようになっていった。

 そして毎回転生する世界や時代が違うので、その試みは常に波乱に満ちていて、得る物もそこまでの道筋も一度として同じにならない。

 例えば19回目に転生した世界では、俺は海賊という海の男に生まれ、世界中に隠された様々な宝を探しだす事に没頭した。

 金に興味はなかったが、大型帆船で世界中を巡ったりその過程で宝や名声を得る楽しさに、この時の俺は取りつかれていたのだ。

 ちなみに海賊にはこのあと28回ほどなったが、そのつど世界や時代が違うので、俺はその28回をそれぞれ楽しんだ。

 今思い出すと34回目で体験した考古学者という職業も少し海賊に近かったが、学術の観点から宝を探すというのは海賊とは違った楽しさがあったし、ムチを片手に朽ちた遺跡を探索するのはなかなかスリルがあった。

 また61回目に転生した世界で俺はまた騎士に戻ったのだが、この世界には悪魔という明確な敵がいたため、俺はそいつ等を倒すことを生き甲斐とした。

 たしか87回目も騎士だったが、こちらの騎士は少し規模が違った。

 星と星を繋ぐ暗き空、宇宙という広大な空間とそこに住む多くの人々の平和を守る騎士に、俺は従事したのだ。

 規模が違うとやることも壮大。星一つを爆破しろとか、何億という悪の軍勢の中から小惑星の姫を救い出せとか、やることなすこと無茶ぶりだった。

 しかしそう言う無茶をするのがどうやら俺は好きなようなのだ。そして無駄に凝り性なところがあるため、一度見付けた楽しみはとことん楽しまずにはいられない性分らしい。

 だからこの世界の騎士を、俺は思う存分楽しんだ。まあ救い出した姫が彼女だったときは何とも言えずがっかりしたが。

 また一方で、こうした体を張った生き方以外のみ道を選んだことももちろんある。

 特に100回目を越えてからは政治などにも興味を持ち始め、それまでに見聞きしてきた政治の知識を駆使して政治家や国王や時には革命家なんて物になったこともあったのだ。

 だが元が騎士だったせいか、権力者達の腐った性根があまり好かず、結局政治や経済の仕組みを学ぶ良い機会にはなったが、生き方自体はあまり良い物ではなかった。

 正直あの人生は俺の中での汚点とも言える。そしてそう言う汚点は正直一つや二つではない。さすがに357回も生きていると、失敗したと思う人生もでてくるものだ。

 だがその失敗からやり直せるのが転生の良いところだと、俺は最近思っている。

 長い長い繰り返しの人生は、悲観するほどの物ではない。

 人生の数だけ生き甲斐を見付けられたし、それに伴う様々な障害を乗り越える事は純粋に楽しかった。

 その上人として成長できるのだから、むしろこれほど素晴らしい物は無いとすら思っていた。


 けれどもちろん、問題が何も無いわけではない。

 どんなに楽しい人生を歩んでいたとしても、どんなに巨万の富を得ても、それを一瞬にして無に返す問題が俺には常につきまとっていたからだ。

 そしてその問題とはもちろん、彼女だった。

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