河川敷に近付くな
物価高のご時世だ。深夜のワンオペは仕方ない。
夕勤の相方が帰った直後にバイパスから大量の光が雪崩れ込んでくる。これから搬入された商品を出していこうと言うタイミングでだ。
バイパスからの光が消えた。車を駐車してからの数秒は誰が店に突入するかの客同士の無言の駆け引き······チキンレースが始まる。意を決して一番槍の客が入店する。カップルだ。彼氏はイケメンだ。羨ましい。
決壊したダムを突き破る水のように後続が次々と入る。お客様の買い物の邪魔になってはいけない為、私は売場を離れてレジに入り待機する。
カップルはアイスクリームを、休日出勤のお兄さんはお弁当と大盛りラーメンを、夜のお店に向かうお姉さんはタバコを。
私は次々にとレジを打ち、会計を済ましていく。
ジュース売場をまで伸びた列がレジ前通路まで縮んだくらいの時、強烈な光が窓を真っ白に染める。
強烈なハイビームを放つ大型の乗用車は強引に駐車場の白線に着ける。
ドガン!
風除室のドアは蹴られて、「ギャハハハハ!」 と言う笑い声の元に何人かの客が入店する。
「いらっしゃいませー」
私は子供連れのお客様のレジを打ちながら挨拶するも、私の声など聞こえないかの如くに傍若無人に店内を練り歩き笑い声を上げる。
カゴ一杯に食べ物と酒を詰めてレジに衝撃を与える。
ドガッッ!
「いらっしゃいませ。すみませんが年齢確認をお願いします」
「······はっ? 成人だけど? 」
「申し訳ございません。規則ですので」
「だっるっ! 」
バンッッ!!
目の前の人間はレジの画面をゲームセンターのパンチングゲームかの如くパンチする。
「ありがとうございます。こちら、お品ものでございます」
バシッッ!
こちらに目を合わせる事無く強引に商品を詰めた袋を奪い、笑い声を上げて退店し風除室の扉をまた蹴って帰って行った。
(うーん)
私はモヤモヤを押し殺し、連休折り返しの夜の騒乱を捌いて行くしかなかった。
▼▼▼▼
深夜0時、1日がリセットされる時間帯に夜勤と交代した私は退勤スタンプを押して帰宅する。
車で家への帰路を走る。真っ暗で昼間の渋滞はウソのようにスカスカだ。
家に帰った私は直ぐに寝る訳では無い。洗濯の後にご飯を食べて風呂に入る。大学が休みだから出来る事ではあるが。
洗濯が終わると、また車を走らせコインランドリーへと向かう。服を乾燥させるのだ。
しかし、やはり連休中。どこの深夜営業のコインランドリーも車が多く停まってる。リア充のカップルや家族連れがたたみ台で服をたたみ、私のような仕事終わりであろう一人客が気まずく車の中でスマホを弄ってる。
バイトの対人疲れもあり、出来るだけ人と会いたくない状況。市内の深夜営業のランドリーは全て回ったがどこも同じ状況だ。
諦めて家で干すかと思った刹那、ヒッソリとしたランドリーを見つけた。巨大なバイパスに出る直前に有る······昼間はファーストフード店やラーメン店に洋服チェーン等のファミリー層にカップル達で賑わう場所だが、夜はゴーストタウンの如くの不気味さを放つ。そんな建物達の中に光輝くランドリーがあった。。
ランドリーに入った私は乾燥機に濡れた服を入れて、コインを投入する。
スマホでSNSのタイムラインチェックをしようと思ったが、ランドリー内を見渡すと他の店舗とは少し違う様相に視線を引かれスマホをバッグに入れる。
本棚には昭和の漫画······まぁコレは結構他所でも見るけど紙コップのコーヒー自販機に小上がりの畳には将棋盤まで置いてある。ルール知らんけど。
(昭和レトロって感じかぁ? 」
しかし、私がそれ以上に気になったのは立ち入り禁止とされている部屋。ガラスからうっすらと覗くと給湯室だった事は伺える。
『乾燥が終了しました』
乾燥機が乾燥終了のアナウンスを行い、私のランドリー内見学は終わりを告げた。あっという間の30分だったと感じた。
畳み台で服をたたんでランドリーバッグにしまう。記念にコーヒー自販機でコーヒーを買ってみた。レギュラーサイズ100円と言う破格の安さだ。このご時世に、ね。
「帰りますか~」
ラージサイズを買った私は車にエンジンをかけて出発する。深夜2時近いが他のランドリーは未だに車が多く停まってる。眠らぬ要害だ。
私は良い穴場のランドリーを見つけたと思い、帰路を急ぐ。
▼▼▼▼
遂に連休が終わる。私の戦いは終わりを告げた。無論、大学の夏休みも終わりに近付いてる事の証明ではあるのだが。
連休最終日は昼からの出勤。遠方組は前日にUターンラッシュに入ったであろうため、隣県組のUターンラッシュといった所か? さながらね。昼間のレジは、今日で連休が終わり明日から現実に引き戻される人達の焦燥感のような物が伝わってきた。私達に当たられても困るんだけどね······
「お疲れ様でした~! 」
颯爽と引き継ぎを済ませて退店する。スマートだ。店で買い物は一切しない。一秒でも早く離れたかった。
----
豪遊してしまった。日付は変わっており、0時を越えていた。
一旦、家に戻り洗濯を済ませて、再び街へと舞い戻る。
街は未だに光を放っていた。明日から当たり前に戻るのが名残惜しいからか、悪足掻きなのか······24時間営業のコンビニや飲食店は未だに人で賑わっていた。
それはコインランドリーとて同じ。
そんなに恐いのかい? 平日が?
「さっさと帰って休めば良いのにねぇ······足掻こうが来るんだから、明日は」
ま、どうでも良いけどね。私は、新たに発掘した穴場コインランドリーに直行した。
昭和レトロな雰囲気で味わう休み前も乙なモノですな······
······と言う勝ち確宣言はフラグだったようだ。
あらあら。ヤンチャな人達に占領されてるよ。当然の如く酒盛りしてらぁ。
う~ん。てかアイツ等この前に店で騒ぎやがったチンピラ共じゃん。
結局最後まで私を苦しめるのか······と、それでも私は明日が休みと言うアドバンテージを活かし、3時頃までガラガラの道の駅で活字を読んで時間を潰した。こっちは流石に居ないみたいよ~ん。
そして3時半、最早明日と言っても差し支えない時間帯。早く出る人は起きて準備してる時間帯に私は他のランドリーで乾燥を終えてマイホームへの帰路に。
▼▼▼▼
そして私の連休も終わり、大学が始まった。
サークルの友達とシャレオツな喫茶店で珈琲を飲んでいると、店主が眺めていたテレビの液晶画面は夕方のニュースを映し出した。
『○○川で遺体が発見された事件に関して、県警は······』
あれ? 地元やん。画面に映し出された現場は花火大会や鍋祭りなどで遊びに行っていた河川敷だ。
『被害者の身元が判明し······』
んんっ!? コイツら連休中に私にレジで悪態ついたチンピラ共じゃないか!?
この憎たらしい顔······間違いない。
「うわ······バラバラってコワっ」
「○○市ってお前の地元じゃん? 」
友人に心配される。そもそも、この川の近くのランドリー最近使ってたんだよなぁ······
「マスター。この事件って今日報道されたの? 」
「いや。連休明けの夕方にはニュースでやってたよ」
喫茶店のマスターに聞いた私は、恐ろしい事に気付く。
って事はコイツ等、私が最後に穴場ランドリーで見掛けた直後に殺されててもおかしくなかった訳だよな? タイミング的に。
----
私は駅から降りると駐車場に急ぎ、車で穴場のコインランドリーへと向かった。
夜とはうって変わって、近隣の住宅地から来た多くの利用者で賑わっていた。
管理者であろう老夫婦が事務室から出てきた。私は思い切って事件の事を聞いてみた。
「近くの川で遺体が見つかった件って知ってます? 」
「ええ、知ってますよ。警察の方もウチにいらしたので」
「監視カメラとか見られたりとか? 」
「いえいえ。単に気を付けてとだけ」
流石に「事件前夜、被害者の人達ココに居ましたよ」·····なんて言える訳が無い。
私はサークル活動で使っているシューズを乾かし終えてランドリーを出た。
立ち入り禁止の部屋を最後にチラっと覗くと、以前来た時と違ってダンボールで覆い隠されていた。
▼▼▼▼
その日の夜は、両親の居る実家に泊まる事にした。例の件があり、一人では心細かったからだ。
夕食が終わりリビングでバラエティを見てる父に例の事件を聞いてみた。
「とーちゃん、例の事件なんだけど······」
「あー。河川敷のなー。死んでた奴等かなり評判悪かったからなぁ······正直······」
「止めなさいな······亡くなった方の事を悪く言うのは······」
母がリビングに戻ってきて父に注意する。
「でもさー、あの河川敷、昔からケッコー有るんだワ。そう言うの」
父が気になる事を口にした。
私は「詳しく」 と前のめりに聞いてみた。
「ここ最近······まぁ、お前が子供の頃あたりからは落ち着いてたけど、俺と母さんが子供の頃は何回か死体が見つかってんだワ。知ってる奴から身元不明の奴まで······な」
「暴走族とか不良の溜まり場だったのよね······ケンカが加熱して死んじゃったのかなって皆思ってたんだけど······」
「結局、警察の捜査は進展しなかったらしくて、どれも未解決で終わったよ。ただ、河川敷の整備が始まってからはパッタリ無くなったんだよなぁ」
----
両親から思いもがけない話を聞けたが、謎自体は何も解けてない。
昔は殺されたアイツ等みたいなワル達がしょっちゅう死体で見つかってたけど、河川敷が整備されて老若男女が立ち寄れるようになった後はパッタリ無くなった。
しかし、まさかの令和の現代になって再び起こった。
昔はワル達の抗争が行きすぎて死人が出てたって言う説も有るけど、そう言うのは絶滅した現代では有り得ない。
「アイツ等が恨みを買ってたのかなぁ? 」
考えてもラチが開かずに、私は眠りに就いた。
▼▼▼▼
数週間後。すっかり秋の涼しさが寒さに変わってきた頃。私は例のコインランドリーに車を停めて、乾燥機を回してる間の時間潰しに河川敷の方へと歩いて向かってみた。
事件はすっかり風化していたが、両親の話を聞いてモヤモヤしてた何かを払うために。
「ちょっと! 何やってんの! 」
河川敷に降りようとした時、自転車から降りた警察官のおじさんに呼び止められた。
「この時期の川は野生動物がうろついてるから危ないよ! それに······あんな事件もあった後だし······」
警官に止められて、もう河川敷に行けそうに無いと悟った私は引き返す事にする。
「捜査の方は進んでます? 」
「教えられる訳無いでしょ。はい帰った帰った! 」
ランドリーまで引き返すと店主のおじいさんが私の車の横に立っていた。
穏やかに微笑んでるように見えたが、目は笑ってない。
「お客さん。乾燥終わりましたよ? 」
「すみません! ちょっと出掛けてまして·····駐車場ご迷惑でした? 」
「いえいえ。警察の方から電話で近くの河川敷に行こうとしてた人が居たから、ウチのお客さんじゃないかって······あそこは野生動物も出るから今の時季は近寄らない方が良い」
警察官のおじさんと同じ事を言うおじいさん。私はおじいさんに話を聞いてみた。
「そう言えば近くの川······河川敷が整備される前は死体が結構見つかってたって聞きましたけど······何ですかね? ヤバい祠でもあって開発と同時に何処かに移されたとか······」
「例えばそちらのランドリーの立ち入り禁止の部屋に」 とは言えなかった。おじいさんは笑顔で聞いてくれてるが······感じるのだ、それ以上は言うなと。
「わはは。面白い仮説ですね! ······ただ、私も長く住んでますけど、そう言うのがあるとは聞いたこと無いですね~」
「ですよね~! すみません! 変なこと······」
私は乾燥が終わった衣服をたたんでランドリーを出た。
発車の寸前までおじいさんが笑顔でお見送りしてくれたけど、左ウインカーを出してバックミラーを覗いて見ると笑顔は消えていた。
河川敷方面へ右折しようとしたら警察官のおじさんにまた連絡するつもりだったのだろうか?
この件はもう立ち入らない方が良いと、私は判断した。漫画の主人公であれば、仲間と捜査して全ての謎を明らかにしてハッピーエンドなのだろうが、私にはそんな度胸は無い。
私の物語の主人公は私だが、この河川敷の物語は私は画面外のモブだ。心霊かヒトコワか動物パニックかなんてのはどうでも良い、関わってはいけないと本能が私の好奇心を殺しにくる。
私は私自身を信じる
▼▼▼▼
数年が経ち、私は大学を卒業と同時に就職のため地元を離れた。その後は結婚して子供も生まれて東京で暮らしている。両親は理由をつけては孫に会いに月一ペースで東京に来ている。
ふと、気になって例のコインランドリーの口コミサイトを開いてみると息子さん夫婦に代替わりして続けているらしい。
主人公は女子大生、地元で一人暮らし、免許と車持ち、大学へは電車通学です。テニサー所属です。
過去に不良達が祠にイタズラして死んだ→河川敷整備で祠が近くのランドリーに移される→立ち入り禁止の給湯室にチンピラ達が入るも祠がそこに移されてて死ぬ
↑主人公の考えはこんな感じでしたが、根の深さのようなモノを感じて撤退したと言う話でした。
何も解決しないし理由もわからない。
ぶっちゃけ怪談ってそう言うモンよね。




