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信頼と裏切り

初めまして。僕は日本人ではありません。日本語を勉強中です。何か間違いや誤りがあるかもしれません。その時はどうかご容赦ください!

これは僕の初めての小説であり、連載小説でもあります。これから一生懸命に、週1回新しい話を投稿するように頑張ります。

よろしくお願いいたします!ぜひ感想を聞かせてください!

 あの悪夢のような出来事のあと、現実の生活に戻ることは、僕のようなただの高校三年生にとってあまりにも難しすぎた。だからその後の数日間、僕は学校を休み、ほとんど何も食べず、自分の部屋にこもった。


 その間、僕の頭はほとんど三つの状態のどれかにあった。ひとつ目は眠りだ。ただし、それは休まるような眠りではなく、悪夢と混ざり合ったものだった。できる限り眠ることを避けていたけれど、三日目の夜には体調が限界に達し、気を失うように眠り込んでしまった。そして気づけば、十二時間ほど眠り続けていた。


 二つ目は、紀美子(きみこ)の家で起きた出来事について考えることだった、もうこの世にいない新しい友達のこと。


 そして三つ目は、祖父のことを思い出すことだった。祖父がまだ生きていた頃の、僕の過去。


 もちろん、両親もときどき僕の部屋に様子を見に来た。でも、彼らの表情や声の調子からすると、そこまで心配しているようには見えなかった。


 そんな中で、僕の唯一の救いだったのは、紀美子の写真だった。目を開けている時間のほとんどを、僕はその写真を見つめて過ごしていた。もう二度と、彼女の顔を生で見ることはできない。それはわかっている。それでも、この写真があるおかげで、彼女がまだ僕のそばにいるような気がする。


 けれど、こんな生活がいつまでも続くわけにはいかなかった。もうすぐ大学の入学試験がある。勉強する気力なんてまったくなかったけれど、それでも大学に進学しなければならないことはわかっていた。


 その夜に決意したものの、翌日は結局僕の怠惰に負けてしまった。けれど、その次の朝、僕はようやく自分の怠け心と悲しみに打ち勝ち、学校へ向かうことができた。


 その日は、必要な時間よりもずっと早く家を出た。学校へ行く道のりが、とてつもなく大変なものになるとわかっていたからだ。問題になるのは足だけではない。心のほうも、きっと耐えられなくなるだろうと思っていた。実際、学校までの道のりは、想像以上につらかった。まるで、すでに疲れ切っている僕が、自分より何倍も大きな岩を山の上へ押し上げているような感覚だった。そういえば祖父が、子どもの頃に似たような話をしてくれたことがあった気がする。確か、そんなことをしている神様の話だった。


 ただ、その日ひとつだけ意外なことがあった。ここ一週間、僕の感情をそのまま映しているかのようだった空――僕はいつの間にか、それを自分の新しい友達のように感じていた――その空が、今日はまるで僕を裏切ろうとしているかのようだった。太陽が輝き、空には雲ひとつない。


 最初は少し落ち込んだでもすぐに考え直した。きっと空は、僕を元気づけようとしてくれているのだろう。そう思うと、僕はすぐにその“裏切り”を許すことができた。


 学校が近づくにつれて、いつもと違うことに気づいた。今日は、他の生徒がほとんどいない。どうやら僕は、かなり早く来すぎたらしい。

 でも、それはむしろ好都合だった。考えを整理する時間が増えるし、授業の準備もできる。もしかしたら宿題も終わらせられるかもしれない。そう思った瞬間...


「ヒロォォォォォォ!」


 背後から大きな声が響いた。


 その声は、僕にとってとても聞き覚えのあるものだった。おそらく千人、いや一万人の中でも、僕はこの声を聞き分けられるだろう。それくらい何度も聞いてきた声だ。振り向くまでもなくわかる。


 それは、僕の友達だった。一週間以上会っていなかった友達。最後に会ったのは、祖父の葬式の前日だった。


「お前、どこ行ってたんだよ?!」


振り向くと、そこには(まこと)が立っていた。


「えっと……ちょっと用事があって……」


「用事って何だよ? 最初は葬式で学校休むって聞いたから仕方ないと思ったよ。でもその次の日はどうなんだ? お前、完全に俺を避けてただろ!」

誠は腕を組み、不満そうに言葉を続けた。


「毎時間の休み時間にお前のクラスまで行ったんだぞ。でもクラスメイトは『もうどこか行った』って言うしさ!」


 ああ……そうだ。その日はニカに会った日だった。彼から見れば、確かに僕が避けているように見えただろう。ちゃんと謝って、説明しないといけない。


「いや、避けてたわけじゃないんだ。学校である人を探してて……それで会えなかっただけ」


「ある人? もっと具体的に言えないのか?」


「……」


「言いたくないのか? 俺たち友達だと思ってたんだけどな」


「いや、違うんだ。ただ……」


「わかったわかった。もういい。無理に言わなくていい」


「違う、本当に……説明が難しいんだ」


 その瞬間、僕は迷っていた。彼に全部話してしまっていいのだろうか。僕の心の中に溜まっている、この感情、この秘密、この情報……すべてを。


 彼にとって重すぎるのではないか。僕から離れてしまうのではないか。見捨てられてしまうのではないか。そんな不安が、頭の中を駆け巡っていた。


「それよりさ」と誠が言った。「あの日からどこ行ってたんだ?」


「それは……もっと説明が難しい」


「え? また秘密かよ? はぁ……」


 彼は僕の顔をじっと見つめた。


「その目の下のクマ見てさ、俺はてっきり試験勉強してるのかと思ったのに。全然違ったな」


 僕は嘘をつきたくなかった。彼は僕の親友だ。いや、正確に言えば――僕にとって唯一の友達だ。だから裏切ることだけはしたくなかった。


「少し時間をくれてお願い。絶対全部話すから」


 言うと誠は少し笑って言った。


「別に怒ってないよ安心してね分かるから」


その言葉だけでも十分だった。でも僕が一番驚いたのは、その後に続いた言葉だった。


「ありがとう」


 その一言は、まったく予想していなかった。でも、その言葉のおかげで、僕の頭の中は少しずつ整理されていった。そして、ひとつの決断をすることができた。


 その日も学校の一日が終わった。今日はちゃんと勉強するつもりで来たはずなのに、最後のチャイムが鳴った頃には、頭の中からほとんどの知識が消えていた。それほどまでに、これからの会話のことを考えて緊張していた。僕は親友のクラスへ向かった。


 教室の前に立つと、よく見る光景が目に入った。マックスはクラスメイトに囲まれ、楽しそうに話していた。僕たちは本当に正反対だと思う。僕にとって彼は唯一の友達。でも彼には、僕がこれまで人生で話した人の数よりも多くの友達がいる。


 その光景を見た瞬間、数学の授業中に決めた決心が少し揺らいだ。僕は彼にとって、ただの友達の一人に過ぎないのではないか。でも数秒後、その考えは溶けて消えた。彼は教室の入口に立っている僕に気づくと、すぐに周りのクラスメイトに別れを告げて、こちらへ歩いてきたのだ。


「帰るか?」


「うん。でも途中でカフェに寄ろう。話がある」


「いいぜ」


 僕たちは学校を出て、僕の家とは反対方向へ歩き始めた。誠はカフェに着くまで一言も話さなかった。たぶん、僕の頭の中がまだ混乱していることに気づいていたのだろう。


 店に入って席に座っても、僕はまだ何も言えなかった。怖かったからだ。でもそれは、今まで感じてきた恐怖とは違う種類のものだった。何が違うのかはわからない。でも確かに違った。もう一人、大切な人を失うことがとてつもなく怖いだ。しかも今回は事故でも、運命でもない。誰かの気まぐれでも、世界の法律でもない。僕自身の言葉と行動によって、その関係を壊してしまうかもしれない。それが、何よりも怖かった。時間はどれくらい経ったのだろう。もしかしたら数時間かもしれない。


 僕が注文してくれたコーヒーは、すっかり冷え切っていた。氷のようになっている。対して誠は、もう三杯目のコーヒーを飲んでいた。それでも彼は、一度も僕を急かさなかった。そのことに、僕は心から感謝していた。そして――ついに沈黙が破られた。


「お前さね...俺のこと、親友だと思ってる?」


「もちろん」


 彼はすぐに答えた。


「でもさ……僕にとって『親友』って特別な言葉なんだ。ただの言葉じゃない。たぶん君にとって僕は唯一じゃな...」


 言い終わる前に、彼が僕の言葉を遮った。少し怒った顔だった。


「お前は俺にとって唯一だよ」


 その声は、はっきりしていた。


「お前以外いない。だから二度とそんなこと言うな。普通に傷つく」


「……ありがとう」


 胸の奥が軽くなった気がした。同時に、もし彼を失ったらどれだけ痛いのかも理解してしまった。でももう、これ以上時間を無駄にはできない。その後僕はすべてを話した。墓地で見つけたもの。翌日、学校で探していた人。その後に行った場所。紀美子の家で起きたこと。そして、なぜ学校に来なかったのか。


 僕が話し終わるまで、誠は一度も口を挟まなかった。


そして僕が黙ると、彼は一言だけ言った。


「とんでもないことに巻き込まれたな」


 僕はもう、どんな言葉でも受け止める覚悟ができていた。たとえそれが、すでに傷だらけで引き裂かれた僕の心にさらに深い傷を刻む、どれほど残酷で痛ましい言葉であったとしても。だが、そうはならなかった。


「それで、なんでお前はまだここにいるんだ?」


「え?」


「だから聞いてるんだよ。なんでなにもしてないなわけ?探しに行こう。あの子がそう言ってただろ。ヒロ君だけはこの国を変えられるって」


「僕はただ……どうすりゃいいわからなくて……」


「よし、決まりだ。さっさと行くぞ。芸術対策局へ!」


「え?」


 それはどういう意味だろう。やはり彼は、僕を政府に引き渡すつもりなのだろうか。結局、僕が期待できたのはそこまでだったのかもしれない。法律を守る市民の立場からすれば、僕は危険な存在だ。党の言うことに従わず、革命でも起こそうとしている人間なのだから。結局のところ、僕たちの友情は、生まれたときから僕たちの頭に植え付けられてきた価値観を壊せるほど強いものではなかったのかもしれない。


「計画はこうだ。」と誠は言った。


「学校で怪しい男を見たって言うんだ。誰も持っていない怪しい教科書みたいなものを持っていたってな。それを口実にして、あいつらから何か有益な情報を引き出す。」


「どういう意味?」


「つまりだ。うちの街の芸術対策局の本部に行って、学校で違反行為を見たって報告する。もちろん全部嘘だ。でもそうすれば、向こうから何か情報を引き出せるかもしれない。話すのは俺がやる。お前のコミュ力じゃ、逆に状況が悪くなるだけだからな。」


 僕は嬉しかったのだろうか。いや、それ以上だった。今までの人生の中で一番幸せだったかもしれない。僕が信頼していた人が、同じように僕を信じてくれた。僕の行動が違法だったとしても、ほとんどの人のように僕を突き放すのではなく、手を差し伸べてくれた。まるで、底なし沼に沈みかけていた僕を引き上げてくれたようだった。あと少しで息ができなくなるところだったのに。

やがて僕たちは、建物の前に立っていた。


 そこは、この世界で僕が一番嫌っている人たちが働いている場所だった。セロリを見るだけで吐き気がして汗が出る僕でさえ、それが美味しそうに見えるほどだった。


 僕はどうしても中に入りたくなかった。もし一人だったら、あるいは別の誰かと一緒だったなら、絶対にこの場所に足を踏み入れることはなかっただろう。だが今日は違った。僕の親友が隣にいた。今この瞬間から、自分の命さえ預けられると思える人が。


 僕たちは中に入り、受付へ向かった。警備員が僕たちを迎え、紙を一枚渡し、「書き終わったらもう一度来てください」と言った。


 誠は必要な項目をすべて書き込んだ。ちらっと見えた限りでは、名前も訪問理由もすべて彼の作り話だった。それを警備員に渡すと、「数分待ってください。「芸術対策」の兵士が来ます」と言われた。


 やがて一人の男が降りてきて、僕たちを彼が働いてる部屋へ案内した。エレベーターで三階へ上がると、そこにはとても狭い部屋があった。椅子は二つしかなく、僕は誠の後ろに立つしかなかった。


「さて……」男は紙を見ながら言った。


「俺黒崎一郎(くろさきいちろう)だ。君たちは、学校の生徒による違反行為について報告しに来た。そういうことだな?」


「僕は中村大輝(なかむらだいき)と申します。よろしくお願いいたします。その通りです、黒崎大尉。」


 どうやって見抜いたのかは分からないが、誠は目の前の男の階級を言い当てた。それだけで、少し信頼を得ることができたようだった。どこでそんなことを覚えたのかは分からない。でもその瞬間、僕は彼が親友であることを誇りに思った。


「僕と友達は大休憩のとき教室に座っていました。すると後ろの席の男子が、何かを落としたんです。見た目は教科書に似ていましたが、絶対に違いました。中のページと表紙を少し見たんですが、うちの学校にはそんな教科書はありません。」


「ふむ……」


 男は少し考えてから言った。


「君の話からすると、それは“本”だった可能性が高いな。」


「ほ……本? それは何ですか?」


 誠は前からその言葉を知っていたはずなのに、その驚き方は、本当に初めて聞いたかのように自然だった。


「それは芸術の一種だ。」大尉は言った。


「我が国や党について、不純で恐ろしいことを書くものだ。そんなものを持っている者は取り締まらなければならない。広まって善良な市民の頭をおかしくする前にな。まことに洗脳だ」


 彼が本当にそれを信じているのか、それとも僕たちを説得しようとしているだけなのか、僕には分からなかった。


「なるほど。じゃあ僕たちがここに来たのは正解でしたね。手遅れになる前に何とかしないと。ところで、本と教科書を見分ける方法ってありますか? そうすれば僕たちでも判断できます。」


「ダメだ!」黒崎大尉は突然大声で叫んだ。


 僕も親友も驚いた。その反応は理解できなかった。だがすぐに説明が続いた。


「その汚らわしい本には、人の脳を催眠状態にする力がある。どれほど熱心な愛国者であっても、一度開けばその罠に落ちてしまう。あの忌まわしく、下劣で、我が国の民を侮辱する悪魔の手にな。」


 その言葉を聞いても、僕の頭の中ではどうしても一つの疑問が消えなかった。もし彼の言う通り、本を読んだ人間が洗脳されて自分を制御できないのだとしたら、なぜその人たちを処刑したり、牢屋に入れたりするのだろう。

僕はそれを口にしようとしたが、その前に誠が会話を続けた。もし彼がいなかったら、僕はこの建物に入って一分も経たないうちに捕まっていたかもしれない。


「それは恐ろしいですね。絶対に近づかないようにします。じゃあ、本を持っている人を見つける方法はありますか? もしヒントをもらえれば、僕たちでもそういう人を見つけて、捜査や逮捕に協力できるかもしれません。」


 ついに来た。僕たちがここに来た本当の理由だ。この男はすでに僕たちを信用し始めている。何か有益なことを話してくれるかもしれない。


「そうだな……たいてい怪しい行動をする。いつも周りを見回して、誰かに見られていないか気にしている。」


「なるほど。それは理にかなっていますね。彼らはいつも一人で行動するんですか? それとも集団ですか?」


「当然集団だ。まるで哀れなネズミのようにな。ひとりでは何もできないから群れを作る。そして自分たちを“芸術愛好サークル”などと呼ぶ。本当はただの惨めな連中だ。わが国の指導者と党に逆らうようなな。」


「なるほど。じゃあ、彼らはどこかに秘密のアジトを持っているんですか?」


 黒崎大尉がその質問に答えようとしたとき突然扉が開いて男が部屋に入った。


「話の途中で悪いが、ちょっと確認したくてな。黒崎さん明日バーに行くのか?」


「そうだ、もちろん行くさ。友達が結婚するんだ。独身最後の夜に行かないわけにはいかないだろう。仕事が終わったら、あとは全部お前に付き合うよ。」


「それはいいな。ところで、お前たちは何の話をしてたんだ?」


「いや、今ちょうどサク...」


 その瞬間、目の前に座っていた大尉の顔がみるみる青ざめた。おそらく、自分が口にしてはいけないことを話しかけていたと、ようやく気づいたのだろう。彼は明らかに苛立ち、僕たちを部屋から追い出した。だがその前に、紙に僕たちのクラスメイトの名前と学校名を書くように言った。本を持っていた生徒の名前だ。もちろん、その紙に書いた内容も、先ほど警備員に渡した書類と同じく、すべて嘘だった。


 建物の外に出たとき、誠が悔しそうに言った。


「くそ……もう少しだったのに。あとちょっとで落とせたのに!」


 彼の言う通りだった。もしあの兵士が入ってこなければ、僕たちは僕がずっと必要としていた情報をすべて手に入れていたかもしれない。


 僕は落胆しかけていたが、そのとき、ある考えが頭に浮かんだ。当時の僕には、それがとても素晴らしいアイデアに思えた。


「ねえ、もし明日、彼らを尾行してバーでの会話を盗み聞きしたらどうかな? きっと酔っ払うだろうし、何か重要なことをうっかり話すかもしれない。そうすれば、もっと多くの情報が手に入るはずだよ!」


「いや、それは無理だ。」彼はすぐに首を振った。「明日の夜は予定があるんだ。悪いけど無理だ。」


 そして彼は、まるで僕の考えを見抜いたかのように言った。


「絶対に一人で行くなよ。お前のことだから、ろくなことにならない。わかったか? 約束して」


「わかった。約束する」


「よし。それなら明日は休みにしよう。明後日は土曜日だ。俺がお前の家に行くから、新しい計画を考えよう。」


「わかった。じゃあまた明日。」


「彼と出会えたのは本当に幸運だった。」


 数日ぶりに、僕の頭にそんな前向きな考えが浮かんだ。家に帰ると、今日起きたことをもう一度思い返した。紀美子の写真を見ながら、今日の出来事を彼女に話した。写真の中の彼女は、初めて会ったときと同じように微笑んでいた。話を聞いてくれたことに感謝すると、僕はベッドに横になって数日ぶりに自分の意思で穏やかな気持ちのまま眠りにつくことができた。


 翌日、学校では久しぶりに勉強に集中することができた。それがとても嬉しかった。大休憩の時間には親友と会えなかった。授業が終わったあと、彼と一緒に帰ろうと思って彼の教室へ向かったが、そこには彼の姿はなかった。クラスの生徒に聞いてみると、こう言われた。


「チャイムが鳴った瞬間に飛び出していったよ。用事があるって言ってた。」

 そうだ。昨日、そんなことを言っていた。まあ仕方ない。僕はいつまでも彼に頼ってばかりいるわけにはいかない。彼には彼の生活がある。家に帰って、休んでいた間の授業を取り戻そう。どうせ明日また会う約束をしているのだから、落ち込む必要はない。


 家に着くと、誰もいなかった。僕はリビングの小さなティーテーブルで勉強することにした。だが誘惑には勝てなかった。テーブルをどかし、カーペットをめくった。しかし、予想していた通り、そこに僕が探していたものはなかった。少し落胆しながらも、僕は勉強を始めた。


 最初の数時間はとても順調だった。友達がほとんどいない僕は、自由時間の大半を教科書やノートと過ごしてきた。だから数日分の授業を取り戻すこと自体はそれほど難しいことではなかった。時間が過ぎても、家族は誰も帰ってこなかった。その代わり、頭の中にはまた嫌な考えが戻ってきた。僕は必死にそれを追い払おうとした。最初はうまくいっていた。だが時間が経つにつれて、それを抑えるのはどんどん難しくなっていった。


 人間という生き物は、なんて弱いのだろう。そう思いながら、僕はすでに敵の巣の近くまで来ていた。しばらく待っていると、ついに七人の男が建物から出てきた。そのうち二人は、僕が待っていた人物だった。彼らは大きな声で話していたので、声を聞いてすぐにそれは誰なのか分かった。僕は彼らの後をつけた。


 十二分ほど歩いたあと、彼らは古い建物の前で止まり、階段を下りて地下へ入っていった。どうやらそこがバーのようだった。そのとき、僕の頭の中の一部が、誠との約束を破ろうとしていることに罪悪感を感じ始めた。もしかしたら中に入れてもらえないかもしれない。そうなれば、僕は「できることは全部やった」と自分に言い聞かせて帰れる。だが予想に反して、僕は滞りなく中へ入ることができた。年齢も身分証も確認されなかった。僕の気持ちはまた二つに分かれた。嬉しい気持ちと、親友への罪悪感だった。


 オレンジジュースを注文し、僕はバーのカウンターに座った。七人の兵士たちのすぐ後ろだった。金曜日の夜だったため、店は人でいっぱいだった。僕は、この人混みなら気づかれないだろうと思っていた。


 数十分が経ち、兵士たちは何杯もビールを飲んでいた。やがて彼らの声はどんどん大きくなり、店中の誰もが会話を聞けるほどになった。もはや近くに座る意味はほとんどなかった。


 僕は誰かが注意することを期待していたが、誰も何も言わなかった。一時間経っても、二時間経っても。彼らが恐れられていたのか、それとも尊敬されていたのかは分からない。


 そして、もう何も聞けないかもしれないと思ったそのとき、一人の兵士の無線が鳴った。彼はトイレへ向かった。どうやら彼が一番階級が高いようだった。他の兵士たちが彼に敬意を払っていたからだ。


 僕は残りの兵士たちのそばにいても意味がないと思って彼の後を追った。トイレに入ると、彼はドアを閉めて話し始めた。僕は外で耳を澄ませた。残念ながら片方の声しか聞こえなかったが、それでも会話の流れは理解できた。

「こちらです、大佐」


「了解しました」


「今すぐは無理です。」


「部下を調査に向かわせます。もう一度住所をお願いします。」


「わかりました。危険レベルは?」


「了解。では明日の朝、準備が整い次第すぐに行動を開始します。」


 そのとき背後から声がした。


「佐藤中佐、どこ行ってたんだ? 戻ってき...」


 その声の持ち主は昨日誠と話していた大尉だった。彼はすぐに僕に気づき、不機嫌そうな顔をして僕の襟をつかみ、バーのホールへ引きずっていった。

「こいつだ。今日話した奴の一人だ。昨日から怪しいと思ってたんだ。何も喋らず、ただ時々うなずくだけだった。」


 彼は僕を睨んだ。


「何が目的だ? 俺たちを尾行して、中佐の会話を盗み聞きするとはな。」

 僕の体は凍りついた。何も言葉が出てこなかった。背中を冷たい汗が流れ、口の中は砂漠のように乾いていた。


「もう一人はどこだ? あのよく喋るやつだ。あいつとも話したいな。彼が書いた学校の生徒なんて存在しない。お前たち二人もな。俺を騙せると思ったのか?」


 その瞬間、昨日した約束を破ったことを、またしても後悔した。しかし後にわかるのだがそれは決して今日で行った行為にたいして最後の後悔ではなかった。それでも気を奮い立たせ、私は必死に思いつく限りのもっともらしい言い訳を口にすることができた。恐怖で鳥肌が立つ頭の中で、なんとか考えついたものだった。


「実は…僕たちは…「芸術対策」アカデミーに入ろうとしたんですが、健康上の理由で断られてしまったんです。僕たちは…適性がないと言われました。だから、自分たちで調査をして、犯人を見つけ、「芸術対策」の兵士に報告しようと思ったんです…そうすれば、僕たちが有能だとわかってもらえて、入学できるか、せめて手助けしてもらえるかと…」


「ふむ…じゃあ、なんで昨日嘘をついたんだ?」見知らぬ兵士が尋ねた。

「単に、あのアイデアが悪くないと思ったんです。本当に犯人を見つけたら、ちゃんと報告したり、直接捕まえたりして、信頼を勝ち取ろうと思っていました。」


 彼らはおそらく酔っていたため、私の言葉を信じ始めた。そして、中佐がトイレから戻ってくる頃には、私はかなりうまく彼らの信頼を得ることができた。しかし、その信頼は、体格の一番大きい兵士が立ち上がった瞬間に崩れ去った。


「ちょっと小便をしてくる」彼はそう言いながら私の肩を押しのけ、通り過ぎた。謝罪の言葉を残して。だが、彼が再び大尉の方へ向き直したとき、顔や表情は見えなかったが、次の一言の抑揚で、私は取り返しのつかないミスを犯したことに気づいた。それは命に関わるかもしれないミスだった。

「なんだ、こ、これは一体…!!」彼は私の耳元で叫んだ。音の大きさに鼓膜が破れそうだった。


 最初は何を意味しているのかわからなかった。しかし、彼の頭の向きから視線の方向を理解できた。視線を下に向けると、そこには紀美子の笑顔の写真が床に落ちていた。空気を読まずに、無邪気に笑い続けているその顔。


 その瞬間、私は手錠をかけられ、バーから引きずり出された。周りの人々は何かを囁き合っていた。おそらく、政府から警告を受けていた人物を初めて目にしたのだろう。彼らはもっと危険な人物を想像していたのだろうが、現実はただの学校の生徒にすぎなかった。


 私を車に押し込むと、運転手、もう一人の兵士、そして左後部座席に座った大尉の三人が同乗した。数分後、私たちは、二度と来ることはないと思っていた建物に到着した。しかし、運命はそう思わなかった。


 私たちはエレベーターで地下五階に降りた。その階は、裁判を待つ犯罪者たちの収容用に設計されていた。私の心境は複雑で説明しきれない。歩く私の周囲は霧がかかったようで、まるで悪夢の中にいるように感じられた。誰かに今つねられたら、あっという間に自分の部屋のベッドに戻るのではないかと思った。しかし、蹴られ、腹を打たれても、現実は変わらなかった。


 私は鉄格子の中に閉じ込められ、手錠を外された。完全に一人きりになった。周囲の隣室にも、もちろん私の部屋にも、誰もいなかった。生きている人影は一切なかった。あとどれだけここにいるのだろう? この後どうなるのだろう? どうして私はここにいるのだろう? このような問いが頭の中で次々と浮かんだが、どれ一つとして答えを見つけられなかった。


 私の収容室にはトイレしかなかった。布団も椅子もなく、あるのは床だけだった。時間の感覚は完全に失われた。最初のうちは秒を数えようとしたが、疲れ果てた体は最後の力も失い、最も不適切な状況で床の上に横たわり眠りに落ちた。


 目を覚ますと、今が何時なのか、何日なのかを推測するしかなかった。どれだけ眠ったのだろうか? 一時間か? 二時間か? 十時間か? 十二時間か? 全く分からなかった。


 孤独の中で、過去の出来事を頭の中で何度も繰り返していた。 私は自分の行動と決断の結果が、ある意味で必然であったことに気づいた。誠のことを考えた。もし彼が私の家に来たとき、私がいなかったらどう思うだろうか。あるいは、もう彼も捕まり、私と同じように連れて行かれているのだろうか。あの日、彼は手を差し伸べて私を助けようとした。それを私は裏切った。彼は今、何をしているのだろうか。私のことを憎んでいるだろうか。


 この状況で最も恐ろしかったのは、絶対的な静寂だった。その静寂は私を覆い、呼吸し、考え、希望を持つことさえも阻害した。この重苦しい静けさは終わりがないように感じられ、深い闇の中に私を引きずり込もうとしているようだった。時間の感覚を失ったことで、私は正気を失いかけていた。


 月曜日はもう来ているのか? もう一週間が過ぎてしまったのではないか? 時間の感覚が完全に消え、眠れず、何をしても鉄格子の存在に打ち砕かれる。体は鉄の檻にあるのに、心は自ら静寂から作り出した監獄にいた。狂いそう状態にいった。


 ついに、私が完全に正気を失う直前、救助者が現れた。エレベーターの近づく音が聞こえ、二人の「芸術対策」の兵士が姿を現した。鉄格子を開け、聞き慣れた声が響く。


「この二日間はどうだった? 気に入ったかな」


 おそらく彼は、この言葉でさらに私を苦しめようと考えていたのだろう。しかし、彼は間違っていた。なんといっても、わずか二日間。たった二日間でしかなかったのだ。それでも、その二日は永遠のように感じられた。体は笑おうとしたが、力が残っておらず、笑顔を作ることはできなかった。生き残るための力を温存するしかなかった。


 しかし、喜びは長くは続かなかった。私を連れて行ったのは拷問用の部屋だった。前の鉄格子より少し広い程度の暗い部屋で、中には人を拷問するための様々な器具が置かれていた。小さなトレーの上に整然と並んだ手術器具のそばに椅子がいった。氷水の入った樽まであった。どうして氷水だとわかったかというと、そこが最初に連れて行かれた場所だったからだ。


 私は頭を下にして縄で吊るされ、樽の上にゆっくりと下ろされ始めた。並行して、答えを得ようと質問が投げかけられた。


「てめえの名前は?」

「ほかに革命家で知っている?」

「一緒に来たあの男子は誰だ?」

「会話を盗み聞きした理由は?」


 質問はさらに続いたが、私は次第に聞くことをできなくなった。耳が氷水で凍ったのか、脳がそれ以上理解を拒否したのか、理由はわからない。しかしそれはどうでもいいだった。ただ早く紀美子に会いたいと思っていたがこの願いは叶えることは難しいらしい。


 問われた質問に答えを一言も返さず、私は地面に下ろされて椅子に縛り付けられた。二人の兵士の一人がペンチを取り、私の右手に近づける。唇を読めたなら、どの質問をされたのか理解できたかもしれない。その瞬間、私の本能が働き生き延びるために私はただ意識を失った。


 その後どうなったのか、全く覚えていない。いや、覚えていないというより、知らない。ただ、次に目を開けた時、そこは最後に意識を失った場所とは全く違う場所だった。

感情を首を長くしてお待ちしております!

一話を読みやすいように編集しましたので興味あるとぜひ見てください!


第三話03月15日 10時間00分投稿します。期待に答えるように頑張ります!

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