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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
名を持たぬ氷

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9/20

冷房の箱の中で、

ペルは、じっと待っていた。


夜。


外気が下がり、

世界そのものが、少し冷える時間。


(……今なら……

 外から……もらえる……)


凍理に、そっと意識を向ける。


《凍理:外界干渉準備》

《条件:微弱》


(微弱でいい……

 ほんの少しで……)


《凍理:受理》


空気が、動いた。


箱の内側――

冷気が、ゆっくりと集まる。


だが、その瞬間。


――ピキ。


小さな音。


(……っ)


ペルは、凍りついた。


(今……

 鳴った……?)


《警告:結晶応力偏差》


(やば……

 割れる……?)


必死に、制御しようとする。


《凍理:自動補正》


――キィ……ン。


今度は、

はっきりとした音だった。


澄んだ、鈴のような、

だが確かに――


“氷の音”。


(……あ……)


外で、何かが止まった。


足音。


衣擦れ。


「……今の……?」


少女の声。


(聞こえた……

 完全に……)


箱の蓋が、ゆっくりと開く。


淡い光。


少女は、息を潜めて、

中を覗き込む。


「……鳴った……よね……?」


(やばい……

 やばいやばいやばい……)


ペルは、必死に凍理を抑える。


《凍理:抑制》

《存在安定度:低下》


(抑えすぎるな……

 壊れる……)


霜が、わずかに震えた。


――チリ。


「……!」


少女は、目を見開いた。


「……今……

 返事……した……?」


(返事じゃねぇ……

 事故だ……)


だが。


少女は、怖がらなかった。


箱の縁に、そっと手を置く。


「……ペル……

 聞こえてる……?」


(聞こえてる……

 聞こえてるけど……)


声は出せない。

だが、もう――


音は出てしまった。


《凍理:不可逆変化を確認》


(……不可逆って……

 そういうの……

 やめろ……)


少女は、しばらく黙っていたが、

やがて、小さく笑った。


「……やっぱり……

 生きてる……」


(……信じるの早ぇな……)


だが、同時に――

救われた。


少女は、蓋を閉じる前に、

小さく囁く。


「……明日……

 誰かに……聞いてみる……」


(……誰か……?)


《警告:外部介入確率上昇》


(……来たな……

 ここで……)


音を出した。

気づかれた。

世界が、近づいてきた。


もう、

箱の中だけでは済まない。


冷房の箱の闇の中で、

ペルは、静かに覚悟する。


(……次は……

 隠れるか……

 賭けるか……)


氷は、

選ばされる。

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