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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
名を持たぬ氷

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凍理. 発動

冷房の箱の中。


ペルは、意識を研ぎ澄ませていた。


(……できる……気がする……)


第六話で感じた“応答”。

凍理は、もう沈黙していない。


《凍理:待機》

《意志入力を検知可能》


(入力、入力って……

 コマンドじゃなくて、感覚か……)


ペルは思い出す。


溶ける恐怖。

形を失う不安。

砕かれ、食われ、消えかけた記憶。


(……もう……

 あんなの、嫌だ)


冷たく在りたい。

崩れずに、ここに居たい。


ただそれだけを、強く願った。


《意志入力:確定》

《凍理:局所干渉を開始》


――カァン。


音がした。

金属でも、氷でもない、澄んだ音。


(……来た……)


冷房の箱の内側。

空気が、ゆっくりと沈む。


温度が――下がる。


だがそれは、

“凍らせる”ほど強引なものではない。


奪うように、

持っていくように、

熱だけが抜け落ちていく。


《局所温度:安定域へ移行》


(……これが……

 凍理……)


ペルの輪郭が、はっきりする。

表面の霜が揃い、

欠けていた部分が、静かに埋まっていく。


(……回復……?

 いや……再構成……?)


そのとき。


箱の外で、

誰かが息を呑む音がした。


「……え……?」


少女だ。


箱に手を触れた瞬間、

指先から、白い息が漏れる。


「……冷たい……

 さっきより……」


(やべ……

 やりすぎた……?)


少女は慌てて手を離すが、

恐怖ではなく、困惑の表情だった。


「……ペル……

 あなた……」


箱の中で、

ペルは必死に制御を試みる。


(止まれ……

 これ以上、冷やすな……)


《凍理:制御入力受理》

《干渉範囲:縮小》


冷気が、すっと引く。


「……戻った……?」


少女は、しばらく箱を見つめてから、

小さく息を吐いた。


「……びっくりした……

 でも……」


箱に、そっと布をかける。


「……大丈夫……

 ちゃんと……生きてる……」


(生きてる、か……)


その言葉が、

ペルの内側で、静かに響いた。


《凍理:発動成功》

《存在安定度:上昇》


(……やっと……

 “できること”ができた……)


凍理は、もはや表示ではない。

応答でもない。


発動した。


小さく。

静かに。

だが確実に。

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