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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
名を持たぬ氷

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隠される白

夜明け前。


家の中は、まだ静まり返っていた。

石台の上で、氷――ペルはじっとしている。


(……朝か……)


窓の向こうが、わずかに白み始めていた。

光は、氷にとって危険だ。

温度が上がれば、溶ける。


(まずいな……

 俺、日光耐性ゼロなんだが……)


少女は寝間着のまま、そっと近づいてきた。

まだ眠そうな目で、ペルを見下ろす。


「……おはよう……ペル」


(おはよう。

 声出ねぇけど)


少女は周囲をきょろきょろと見回す。

家の奥。

扉。

窓。

誰かが起きてくる気配はない。


「……このままじゃ……

 溶けちゃう……よね……」


(その通りです)


少女はしばらく考え、

ふと思い出したように顔を上げた。


「……そうだ……」


棚を開け、箱を取り出す。

厚手で、内側が少し湿っている。


「……これ……

 冷房の箱、みたいな……」


(おお……

 ファンタジー冷蔵庫来た……)


少女は慎重にペルを包み込む。

一瞬、世界が暗くなった。


(……お、意外と……)


箱の内側はひんやりとしていて、

冷気が外へ逃げにくい。


《凍理反応:外部環境安定》

《存在維持効率:微上昇》


(……これ、普通に優秀だぞ……)


少女は包んだまま、

部屋の隅へと運ぶ。


そこには、木と石で作られた箱があった。

側面には薄く刻まれた溝と、

色あせた紋様。


「……ちゃんと動いて……」


少女が箱に触れると、

内部から、ほのかな冷気が流れ出す。


(魔道具か……

 文明レベル高ぇな……)


少女は布ごと、

ペルを冷房の箱の中へと収めた。


――ひんやり。


(……生き返る……)


外気が遮断され、

冷たさが安定する。


《凍理反応:安定領域確立》

《凍帰待機状態》


「……ここなら……

 大丈夫……だよね……」


(命拾いした……)


そのとき。


――ガチャ。


扉が開く音。


「……もう起きてたの?」


低い声。

大人の気配。


少女の体が、びくっと跳ねた。


「え、あ、うん……!」


(来た……)


少女はとっさに、

冷房の箱の前に立つ。


「……なに、そこ?」


「な、なにも……!

 ただの……箱……!」


(嘘下手か)


一瞬の沈黙。


「……朝の水、汲んできてくれる?」


「……う、うん!」


少女は小さく頷き、

ぱたぱたと部屋を出ていった。


扉が閉まる。


静寂。


冷房の箱の中で、

ペルは初めて――


「守られている」と実感した。


(……俺……

 ただの氷じゃ、なくなってきたな……)


氷は、名を得て、

居場所を得て、

そして――


箱の中の秘密になった。

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