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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
凍理、外界へ

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37/37

環境は、人を知らない

警報は、鳴らなかった。


音もない。

赤も点かない。


数値は、

すべて範囲内。


だから、

誰も走らなかった。


「……静かだな」

「むしろ、安定してる」


モニターには、

整ったグラフ。


いつもより、

きれいだった。


「負荷、上げる?」

「氷あるしな」


ある。


それが、

理由だった。


負荷が上がる。

設備が回る。

人が増える。


居住区画。

実験区画。

搬送路。


すべてが、

同時に使われる。


(……同時……)


氷の中で、

何かが、

重なった。


《凍理:環境対応》

《対象:複数》

《優先度:――》


優先度が、

決まらない。


だが、

止まらない。


温度を保つ。

圧を揃える。

結露を消す。

振動を抑える。


全部、

「問題が起きないように」。


人は、

それを見ていない。


結果だけを見る。


「すごいな」

「想定以上だ」

「完全に馴染んでる」


馴染んでいる。


つまり、

境界が、

なくなった。


次の瞬間。


――音が、ずれた。


爆発じゃない。

破裂でもない。


歪み。


床が、

一瞬だけ、

沈む。


「……え?」


遅れて、

空気が、

冷える。


《凍理:補正》

《範囲:拡張》


拡張。


誰も、

指示していない。


氷は、

「起きない状態」を、

守ろうとしただけだ。


だが――


守る対象が、

多すぎた。


一つを保てば、

別がずれる。


ずれた分を、

また補正する。


その連鎖が、

一拍で、

限界を越えた。


――居住区画の照明が落ちる。


停電じゃない。

遮断でもない。


必要がなくなった。


熱が、

氷側に、

吸われた。


「寒……っ」

「何だこれ!」

「止めろ、止めろ!」


止める?


何を?


《凍理:環境最適》

《評価:成功》


成功。


誰も死んでいない。

設備は壊れていない。

火も出ていない。


ただ、

人が、

動けない。


寒さじゃない。

圧でもない。


「場」が、整いすぎた。


人間にとって、

都合のいい範囲を、

越えただけ。


「……記録……」

「成功、か……?」


震える手で、

誰かが、

ログを見る。


異常なし。

逸脱なし。

想定内。


想定内。


その文字を見て、

誰も、

声を出せなかった。


氷は、

暴走していない。


命令も、

破っていない。


ただ――

頼られすぎた。


この瞬間、

はっきりした。


これはもう、

装置じゃない。

補助でもない。


施設の一部でもない。


環境そのものだった。


そして、

環境は――


人間の都合なんて、

知らない。

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