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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
凍理、外界へ

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32/37

様子見

会議室は、狭かった。


仮設。

折り畳み机。

壁際に貼られた、注意事項の紙。


正式な場ではない。

だが、雑談でもない。


中途半端な位置に、

人が集められていた。


「じゃあ、始めようか」


進行役は管理担当。

声は落ち着いている。


「結論から言うと、大きな異常は出ていない」

「ただし、軽微な体調不良の報告が三件」


紙が配られる。

数値。

グラフ。

どれも、基準内。


「作業時間の偏りでは?」

「この週、夜勤が多かった」

「冷却値も安定してる」


ベテランが言う。

新人が、頷く。


「ただ……」


一人、言葉を挟む。


記録係だった。

年は浅いが、

数字を見るのは仕事だ。


「環境調整の反応速度が、少しだけ早くなってます」

「意図した変更ではないはずです」


空気が、止まる。


「誤差の範囲だろ」

「前回の更新で計測間隔、変えただろ?」

「比較条件が違う」


正論。

全部、正しい。


「体調不良も、一過性」

「全員、翌日は復帰してる」

「作業は継続可能だ」


“可能”。


その言葉が、

便利に使われる。


「一度、接触条件を戻すのは?」

記録係が言う。

声は小さい。


「戻す理由が薄い」

「成果は出てる」

「管理コストも上がる」


監督権限者が、腕を組む。


「問題が“起きてから”対応すればいい」

「今は、様子見だ」


様子見。


誰も反論しない。

できない。


なぜなら、

全員が“正しいこと”しか言っていないから。


「じゃあ、継続で」

「記録は?」

「現行維持、でいいですね」


ペンが走る。

決定事項が書かれる。


その瞬間、

止めるという選択肢は、

正式に消えた。


「念のため、注意喚起だけ出そう」

「体調管理の徹底」

「無理しないように、ってやつ」


笑いが、少し起きる。


会議は終わる。

早かった。

問題がない会議ほど、短い。


誰も知らない。


この場に、

「間違い」は一つもなかったことを。


そして――

だからこそ。


次からは、

止める理由そのものが、出てこなくなることを。


氷は、会議室の外にある。

ここにはいない。

呼ばれてもいない。


だが、

この会議の結論は、

確実に、

氷の方へ向かっていた。


様子見。


それは、

何もしない、という判断ではない。


――進める、という選択だった。

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