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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
凍理、外界へ

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31/37

異常なし、ただし

「……少し、気分悪いかも」


居住区画の端で、

一人が言った。


声は低い。

騒ぐほどじゃない。


「大丈夫?」

「座る?」


人は集まるが、

慌てない。


数値が出ていないから。


「室温、問題ないな」

「湿度も範囲内」


端末の表示は、

いつも通りだった。


新人が、ちらりと箱を見る。


そこにある。

今日も、同じ位置。


(……前も……

 大丈夫だった……)


言葉にしない。

必要がない。


「水、飲め」

「立ちっぱなしだったろ」


ベテランが言う。

優しい調子だ。


「最近、人多いからな」

「疲れだろ」


疲れ。


その一言で、

場は落ち着く。


《凍理:環境補正》

《反応:継続》


氷は、

変えない。


変えないことで、

均す。


だが、

均しきれない分が、

一拍だけ残る。


「……もういい」

そう言って、

その人は立つ。


顔色は、

少し悪い。


だが、

歩ける。

笑える。


――問題じゃない。


「記録、どうする?」

記録係が聞く。


「異常なしでいい」

ベテランが答える。


「本人も回復してるし」


新人が、うなずく。


「前の区画でも、同じでした」

「似た感じ、ありましたけど」

「問題になりませんでした」


前例。


それで、

話は終わる。


《凍理:負荷》

《反応:遅延・微》


遅れは、

数字にならない。


だから、

見ない。


「次、行こう」

「時間押してる」


人は散る。

空気は戻る。


箱は、

何も言わない。


何も拒まない。


ただ、

少しだけ、

深く冷やす。


(……さっき……

 違った……)


その感覚は、

すぐに消える。


《負価:進行》

《削減対象:違和感》


違和感は、

共有されない。


共有されないものは、

問題にならない。


帳簿には、

今日も同じ文字が並ぶ。


――異常なし。


誰も、

嘘をついていない。

誰も、

手順を破っていない。


だからこそ。


この日を境に、

「気分が悪くなる人」は、

たまに出るようになる。


だが、

毎回、

説明がつく。


疲れ。

人混み。

体調。


そして、

必ずこう言われる。


「箱があるから、

 致命的にはならない」


それは、

安心の言葉だった。


同時に、

最後の確認を、

消す言葉でもあった。


氷は、

今日も応える。


――人が、

無意識に頼る分だけ。


その重さを、

誰も、

量らないまま。

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