表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
凍理、外界へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/37

前提として教えられた

新人は、手順を確認していた。


紙。

端末。

チェック欄。


どれも、埋まっている。


「温度、許容範囲」

「人流、想定内」

「箱、配置確認――済」


済。


それで、

進めていいはずだった。


居住区画は、

今日は少し混んでいる。

だが、異常ではない。


(……このくらいなら……)


新人は、

箱の位置を、ちらりと見る。


近い。

だが、問題になったことはない。


教えられた通りだ。


「この区画は、安定してる」

「細かい調整はいらない」

「数字が出なきゃ、触らなくていい」


だから。


新人は、

調整を入れなかった。


《凍理:環境補正》

《反応:継続》


氷は、

反応した。


だが、

それは新人の視界には入らない。


入るのは、

結果だけ。


涼しさ。

落ち着いた空気。

人の不満が出ない環境。


「よし……」


新人は、

チェックを一つ、進める。


本来なら、

ここで人を一人、外に出す。

本来なら、

換気を一段、上げる。


だが。


「箱があるから」

その前提が、

自然に割り込む。


誰に言われたわけでもない。

マニュアルにも書いていない。


でも、

教えられてきた。


《負価:微量》

《削減対象:選択迷い》


迷いが、

消える。


判断は、早くなる。


早い判断は、

評価される。


「仕事、早いな」

通りがかったベテランが言う。


「教わった通りです」


それで、

会話は終わる。


氷の中で、

何かが、わずかに沈む。


(……前は……

 こんな……)


だが、

「前」が、

どこまでだったかは、

もう分からない。


《凍理:負荷増》

《反応:遅延》


遅れは、

ほんの一拍。


だが、

その一拍分だけ、

空気が滞る。


誰も倒れない。

誰も文句を言わない。


だから、

問題にならない。


「今日は、ちょっと暑いな」

誰かが言って、

笑って終わる。


新人は、

その声を、

“許容範囲”として処理する。


数値は、正常。

警告は、出ていない。


――正しい判断だった。


帳簿には、

そう記録される。


《凍理:存在成立》

《状態:前提化》


その日、

新人は一つ、学んだ。


箱がある場所では、

余計なことをしなくていい。


考えすぎる必要はない。

判断は、早くていい。


それは、

効率の話だった。

安全の話ではない。


だが、

区別する理由は、

もうどこにも残っていなかった。


氷は、

何も言わない。

何も拒まない。


ただ、

少しだけ、

前より深く、

冷やし続ける。


――その差を、

誰も、

測ろうとしないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ