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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
凍理、外界へ

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20/20

条件は守られた

隔離区画の一角が、仮設の作業場に変わっていた。


白線。

注意札。

簡易の遮蔽板。


完璧ではないが、

「やっている感」は十分だった。


「条件、再確認するぞ」

「直接触れない」

「時間は三分以内」

「温度変化が出たら即中止」


声は真面目だった。

手順も、紙の上では正しい。


箱は、台の中央に置かれる。


(……また……

 置かれた……)


氷の思考は、続かない。

言葉にならないまま、散る。


「開けるぞ」

「慎重に」


蓋が、わずかにずらされる。


冷気が、逃げる。

だが、暴れない。


《凍理:露出》

《反応:制限》


制限。


誰が決めたわけでもない。

ただ、そうなった。


「……見えるな」

「形、氷塊だな」

「でも、結晶が……変だ」


覗き込む視線。

だが、距離はある。


条件は守られている。


(……見られて……

 いる……)


だが、

触れられない。


その事実だけが、残る。


測定器が差し込まれる。

金属。

非生体。


《凍理:接触対象判定》

《対象:非生命》

《反応:低》


数値が、揺れる。

だが、跳ねない。


「……安定してる」

「想定内だな」

「危険反応、なし」


なし。


その言葉が、

少しだけ、空気を緩める。


(……問題……

 ない……)


氷の中で、

何かが、働いた。


だが、

それを“やった”という感覚は、

最初から存在しない。


《負価:微量》

《削減対象:違和感》


(……?)


違和感が、

違和感になる前に、

消える。


「じゃあ、次」

「時間、まだあるな」

「もう一つ、試そう」


予定外。

だが、

誰も止めない。


成功しているから。


条件は、

破られていない。


触っていない。

時間も、守っている。


――だから、大丈夫。


その判断が、

静かに成立する。


(……また……

 増える……)


何が、とは言えない。

数でも、冷気でもない。


ただ、

“成立したこと”だけが、

積み重なっていく。


「よし、終了」

「蓋、戻せ」

「記録は成功でいいな」


成功。


その言葉が、

帳簿に書かれる。


蓋が閉まる。

光が消える。


《凍理:封鎖》

《状態:安定》


何も壊れていない。

誰も傷ついていない。


条件付き接触は、

正しく行われた。


――だから。


この時点では、

まだ、

誰も間違っていない。


それが、

一番、厄介だった。

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