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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
凍理、外界へ

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15/20

分からないから、遠ざけられる

扉が、開いた。


光が差し込む。

強くはない。

だが、長く遮断されていたぶん、氷には十分すぎた。


(……また……

 運ばれる……)


人の足音。

数は少ない。

だが、無駄がない。


「対象はこれだな」

「ああ。番号仮のまま」

「触るな。箱ごと行く」


《凍理:外部指示検知》

《内容:移動》


(……目的は……)


考えようとして、

やめる。


ここでは、

目的はいつも“後付け”だ。


先に決まるのは、

移動。

配置。

隔離。


理由は、

あとから整えられる。


箱が持ち上げられる。

今度は、慎重だった。


揺れはあるが、

雑ではない。


(……前より……

 扱いが……)


丁寧、というより――

警戒。


「冷却手袋」

「距離保て」

「箱、傾けるなよ」


距離。

保つ、という言葉。


それだけで、

氷は理解する。


(……近づきたく……ない……)


未知。

分類不能。

問題は起きていない。


――だから、離す。


《凍理:外部評価推定》

《危険度:低〜未確定》


(……未確定……)


確定していないから、

処分できない。


だが、

確定していないから、

使えない。


その中間に、

自分は置かれている。


建物を出る。

外気が変わる。


街の匂い。

人の生活。

熱と冷えが混じる空気。


《凍理:環境変化》

《反応:抑制》


(……抑えられてる……)


自然にやれば、

周囲はもっと冷える。


だが、

それを“しない”。


理由は、分からない。

いや――


分からなくなっている。


《負価:進行》

《削減対象:行為選択》


(……また……)


選ばなかった。

使わなかった。


それすら、

「自分で決めた」という感覚がない。


馬車ではない。

今度は、別の輸送具だ。


箱は、固定される。

縄。

金具。

揺れ止め。


「ここから先は隔離区画だ」

「関係者以外、入れるな」

「万一があったら、即封鎖」


隔離。


その言葉が、

説明もなく、置かれる。


(……隔離……)


《凍理:語義照合》

《隔離:接触・影響の遮断》


(……遮断……)


自分が、

何かを“与える”可能性。


あるいは、

何かを“奪う”可能性。


どちらも、

確定していない。


だから、

遮断。


輸送が始まる。


揺れは少ない。

速度は一定。


景色は見えない。

だが、距離だけが進む。


《凍理:移動中》

《目的:隔離配置》


(……配置……)


配置される。

使われる前段階。


あるいは――

使われないための場所。


考えている間にも、

距離は減っていく。


山を抜ける。

街を外れる。

人の気配が、薄くなる。


(……遠ざかって……)


誰かから?

それとも、

“普通”から?


《負価:微量》

《削減内容:所属感》


(……あ……)


今、

「遠ざかった」と感じた。


だが、

何から遠ざかったのかが、

分からない。


街?

人?

それとも――

「同じ場所にいる」という感覚?


輸送は止まらない。


誰も説明しない。

誰も問いかけない。


氷は、

ただ、運ばれる。


問題が起きないように。

問題にならないように。


《凍理:存在成立》

《状態:隔離輸送中》


(……なるほど……)


理解だけが、

遅れて追いつく。


自分は、

危険だから運ばれているのではない。


――分からないから、遠ざけられている。


それは、

攻撃よりも、

処分よりも、

ずっと静かな判断だった。


箱は揺れる。

距離は進む。


目的地は、

まだ見えない。


だが、

「戻らない」ことだけは、

もう確定していた。

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