分からないから、遠ざけられる
扉が、開いた。
光が差し込む。
強くはない。
だが、長く遮断されていたぶん、氷には十分すぎた。
(……また……
運ばれる……)
人の足音。
数は少ない。
だが、無駄がない。
「対象はこれだな」
「ああ。番号仮のまま」
「触るな。箱ごと行く」
《凍理:外部指示検知》
《内容:移動》
(……目的は……)
考えようとして、
やめる。
ここでは、
目的はいつも“後付け”だ。
先に決まるのは、
移動。
配置。
隔離。
理由は、
あとから整えられる。
箱が持ち上げられる。
今度は、慎重だった。
揺れはあるが、
雑ではない。
(……前より……
扱いが……)
丁寧、というより――
警戒。
「冷却手袋」
「距離保て」
「箱、傾けるなよ」
距離。
保つ、という言葉。
それだけで、
氷は理解する。
(……近づきたく……ない……)
未知。
分類不能。
問題は起きていない。
――だから、離す。
《凍理:外部評価推定》
《危険度:低〜未確定》
(……未確定……)
確定していないから、
処分できない。
だが、
確定していないから、
使えない。
その中間に、
自分は置かれている。
建物を出る。
外気が変わる。
街の匂い。
人の生活。
熱と冷えが混じる空気。
《凍理:環境変化》
《反応:抑制》
(……抑えられてる……)
自然にやれば、
周囲はもっと冷える。
だが、
それを“しない”。
理由は、分からない。
いや――
分からなくなっている。
《負価:進行》
《削減対象:行為選択》
(……また……)
選ばなかった。
使わなかった。
それすら、
「自分で決めた」という感覚がない。
馬車ではない。
今度は、別の輸送具だ。
箱は、固定される。
縄。
金具。
揺れ止め。
「ここから先は隔離区画だ」
「関係者以外、入れるな」
「万一があったら、即封鎖」
隔離。
その言葉が、
説明もなく、置かれる。
(……隔離……)
《凍理:語義照合》
《隔離:接触・影響の遮断》
(……遮断……)
自分が、
何かを“与える”可能性。
あるいは、
何かを“奪う”可能性。
どちらも、
確定していない。
だから、
遮断。
輸送が始まる。
揺れは少ない。
速度は一定。
景色は見えない。
だが、距離だけが進む。
《凍理:移動中》
《目的:隔離配置》
(……配置……)
配置される。
使われる前段階。
あるいは――
使われないための場所。
考えている間にも、
距離は減っていく。
山を抜ける。
街を外れる。
人の気配が、薄くなる。
(……遠ざかって……)
誰かから?
それとも、
“普通”から?
《負価:微量》
《削減内容:所属感》
(……あ……)
今、
「遠ざかった」と感じた。
だが、
何から遠ざかったのかが、
分からない。
街?
人?
それとも――
「同じ場所にいる」という感覚?
輸送は止まらない。
誰も説明しない。
誰も問いかけない。
氷は、
ただ、運ばれる。
問題が起きないように。
問題にならないように。
《凍理:存在成立》
《状態:隔離輸送中》
(……なるほど……)
理解だけが、
遅れて追いつく。
自分は、
危険だから運ばれているのではない。
――分からないから、遠ざけられている。
それは、
攻撃よりも、
処分よりも、
ずっと静かな判断だった。
箱は揺れる。
距離は進む。
目的地は、
まだ見えない。
だが、
「戻らない」ことだけは、
もう確定していた。




