未定義の保管
箱は、建物の中に運び込まれた。
外気が、変わる。
人の声が、近い。
「とりあえず、ここに置く」
「番号は?」
「未定。仮でいい」
紙の音。
炭の擦れる音。
(……書かれてる……)
だが、何を書かれているのかは、分からない。
「冷たいな」
「氷……ではあるんだろ」
「でも、保存用にしちゃ様子が違う」
違う、という言葉だけが残る。
理由は、続かない。
(……違う……?)
氷は、その評価を掴めない。
自分が何かを違えているのか、
そもそも基準が存在しないのか。
《凍理:外部分類》
《結果:該当なし》
(……ない……)
該当が、ない。
「魔道具でもない」
「魔物……でもないな」
「溶けない氷、ってだけか」
――だけ。
その言葉が、やけに軽かった。
(……だけ……)
氷は、そこに含まれなかったものを考える。
意思。
判断。
行為。
最初から、数えられていない。
「危険性は?」
「今のところ、なし」
「触ると冷たいくらいだ」
触られた。
指先が、箱に触れる。
一瞬。
《凍理:反応》
《冷却――》
表示が、途中で途切れた。
(……?)
人が、手を引く。
「……冷っ」
「ま、普通だな」
普通。
その評価が、成立する。
(……普通……?)
氷は、混乱する。
今、何かが起きた。
だが、それは
起きなかったこととして処理された。
《負価:微量》
《削減内容:未確認》
(……何を……)
考えようとした瞬間、
その“考えようとした理由”が、消える。
残るのは、
人が納得した、という事実だけ。
「じゃあ、用途が決まるまでここだな」
「冷蔵区画の端でいい」
「鍵は要らんだろ」
決定。
だが、その決定に、
氷は一度も参加していない。
(……ここ……)
《凍理:位置固定》
《環境:維持》
維持、という言葉だけが明確だった。
理由も、意味も、
説明されないまま。
人は去る。
足音が遠ざかり、
紙の音が消え、
扉が閉まる。
静かになる。
(……終わった……?)
だが、それは
「終わり」ではなかった。
《凍理:待機》
《状態:継続》
待機。
それは、
動かないことではない。
使われる準備が整った、という意味だった。
(……俺は……)
問いが、浮かぶ。
だが、
その問いに必要な前提――
「何者か」という定義が、
最初から与えられていない。
氷は、
冷やしながら、
削られながら、
ここにある。
理解されないまま、
問題にならない形で。
――それが、この場所での役割だった。




