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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
凍理、外界へ

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14/20

未定義の保管

箱は、建物の中に運び込まれた。


外気が、変わる。

人の声が、近い。


「とりあえず、ここに置く」

「番号は?」

「未定。仮でいい」


紙の音。

炭の擦れる音。


(……書かれてる……)


だが、何を書かれているのかは、分からない。


「冷たいな」

「氷……ではあるんだろ」

「でも、保存用にしちゃ様子が違う」


違う、という言葉だけが残る。


理由は、続かない。


(……違う……?)


氷は、その評価を掴めない。

自分が何かを違えているのか、

そもそも基準が存在しないのか。


《凍理:外部分類》

《結果:該当なし》


(……ない……)


該当が、ない。


「魔道具でもない」

「魔物……でもないな」

「溶けない氷、ってだけか」


――だけ。


その言葉が、やけに軽かった。


(……だけ……)


氷は、そこに含まれなかったものを考える。


意思。

判断。

行為。


最初から、数えられていない。


「危険性は?」

「今のところ、なし」

「触ると冷たいくらいだ」


触られた。


指先が、箱に触れる。


一瞬。


《凍理:反応》

《冷却――》


表示が、途中で途切れた。


(……?)


人が、手を引く。


「……冷っ」

「ま、普通だな」


普通。


その評価が、成立する。


(……普通……?)


氷は、混乱する。


今、何かが起きた。

だが、それは

起きなかったこととして処理された。


《負価:微量》

《削減内容:未確認》


(……何を……)


考えようとした瞬間、

その“考えようとした理由”が、消える。


残るのは、

人が納得した、という事実だけ。


「じゃあ、用途が決まるまでここだな」

「冷蔵区画の端でいい」

「鍵は要らんだろ」


決定。


だが、その決定に、

氷は一度も参加していない。


(……ここ……)


《凍理:位置固定》

《環境:維持》


維持、という言葉だけが明確だった。


理由も、意味も、

説明されないまま。


人は去る。


足音が遠ざかり、

紙の音が消え、

扉が閉まる。


静かになる。


(……終わった……?)


だが、それは

「終わり」ではなかった。


《凍理:待機》

《状態:継続》


待機。


それは、

動かないことではない。


使われる準備が整った、という意味だった。


(……俺は……)


問いが、浮かぶ。


だが、

その問いに必要な前提――

「何者か」という定義が、

最初から与えられていない。


氷は、

冷やしながら、

削られながら、

ここにある。


理解されないまま、

問題にならない形で。


――それが、この場所での役割だった。

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