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氷は冒険者になれなかった ――負価を抱いたまま、世界は進む  作者: たからの
凍理、外界へ

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11/32

一瞬の温度

朝の空気は、冷えていた。


冷房の箱の中で、冷は足音を数える。

多い。

今日は、動かされる。


箱が持ち上げられた。


――ぐらり。


地面との接続が断たれる。

凍理が遅れて働き、揺れを受け止める。


「慎重に運べ」

「割るなよ」


布の隙間から、外気が触れた。


風。

冷たい。


《凍理:外部冷源確認》


安定する。

外は、まだ安全だ。


箱は、そのまま運ばれる。

揺れは一定。

問題はない――はずだった。


その時。


温度が、跳ねた。


一瞬。


ほんの、刹那。


《警告:瞬間温度上昇》


(……っ!?)


反射的に凍理が展開する。

霜が、箱の内壁に走る。


だが、次の瞬間には――

温度は、元に戻っていた。


(……今の……)


錯覚ではない。

確かに、触れた。


それは熱そのものではない。

熱を孕む“意志”。


箱の外。

すぐ近く。


通り過ぎる。


《異質理:検知》

《接触時間:極短》


キィ……ン。


かすかな音。

凍理とは違う、

溶けかけた金属のような響き。


(……同じ……

 でも……違う……)


冷は理解する。


あれも、

理を持っている。


そして――

今、確かにこちらを“見た”。


箱が、別の方向へ運ばれる。


足音が、離れる。


もう、温度は上がらない。

霜も、広がらない。


《凍理:警戒解除》


静寂。


だが、冷の表面には、

ほんのわずか――

曇りが残っていた。


《存在欠損:極小》


(……触れた……

 ほんの一瞬……)


それだけで、

削れる存在。


馬車に積まれる衝撃。


蹄の音が、動き出す。


冷は、確信する。


次に会うときは、

こんな偶然では済まない。


あれは――

同族。


だが、

在り方が違う。


そして、

一瞬で分かるほど、

危険だった。


氷は、再び運ばれていく。


たった一瞬の邂逅を、

確かな予兆として抱えたまま。

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