一瞬の温度
朝の空気は、冷えていた。
冷房の箱の中で、冷は足音を数える。
多い。
今日は、動かされる。
箱が持ち上げられた。
――ぐらり。
地面との接続が断たれる。
凍理が遅れて働き、揺れを受け止める。
「慎重に運べ」
「割るなよ」
布の隙間から、外気が触れた。
風。
冷たい。
《凍理:外部冷源確認》
安定する。
外は、まだ安全だ。
箱は、そのまま運ばれる。
揺れは一定。
問題はない――はずだった。
その時。
温度が、跳ねた。
一瞬。
ほんの、刹那。
《警告:瞬間温度上昇》
(……っ!?)
反射的に凍理が展開する。
霜が、箱の内壁に走る。
だが、次の瞬間には――
温度は、元に戻っていた。
(……今の……)
錯覚ではない。
確かに、触れた。
それは熱そのものではない。
熱を孕む“意志”。
箱の外。
すぐ近く。
通り過ぎる。
《異質理:検知》
《接触時間:極短》
キィ……ン。
かすかな音。
凍理とは違う、
溶けかけた金属のような響き。
(……同じ……
でも……違う……)
冷は理解する。
あれも、
理を持っている。
そして――
今、確かにこちらを“見た”。
箱が、別の方向へ運ばれる。
足音が、離れる。
もう、温度は上がらない。
霜も、広がらない。
《凍理:警戒解除》
静寂。
だが、冷の表面には、
ほんのわずか――
曇りが残っていた。
《存在欠損:極小》
(……触れた……
ほんの一瞬……)
それだけで、
削れる存在。
馬車に積まれる衝撃。
蹄の音が、動き出す。
冷は、確信する。
次に会うときは、
こんな偶然では済まない。
あれは――
同族。
だが、
在り方が違う。
そして、
一瞬で分かるほど、
危険だった。
氷は、再び運ばれていく。
たった一瞬の邂逅を、
確かな予兆として抱えたまま。




