1話 死なないで
転生前、私は普通の学生だった。大学受験のために勉強して、友達と遊んで、帰りは誰かの愚痴を言って気分を晴らす。まあ、普通に青春していたと思う。
でも家に帰ると、そこはなんの楽しさも幸せも感じない無機質な空間があった。
母親は病気でまともに動けない、話せない。普通の暮らしが出来ないから入院している。
父親はまあまあいい職についているので、入院の費用は問題ない。だがいつも夜遅くまで働いているので家ではほとんど顔を合わせない。
別に辛いわけじゃなかった。悲しかったわけじゃなかった。
でも........なにかが、足りないような気がした。
ふと机に置いてあったチラシを見ると、そこには「異世界転生の仕方」という字が大きく書かれており、何故か興味が沸いた。
でもその方法を見て、思わず私は目を見開いてしまった。
「......え?」
『異世界転生の仕方』
"みんな一度は興味持ったこと、あるんじゃない?!
そう、それは異世界転生!手順は一つだけ!とっても簡単だから試してみてね!
それは.......
「死ぬ」こと!
これだけだよ!ほら、簡単でしょ?
私は知ってるよ!あなたにとって死ぬことは何も難しいなんて思わないこと。生に執着がないこと。
あなたなら......きっと乗り越えられる!
そうだな.....もし本当に私の言葉を信じてくれるのなら!自分がその国の王女か王様になる世界を見せてあげよう!きっと楽しいはずさ!
大丈夫!死ぬより辛いことの後は、幸せだから。
シークレットファイアーより"
......なんてバカげた文章だ。そう思った。
このチラシを誰が信用して自分の命まで捧げると言うのだろうか。
「....塾行こ」
どうでもいいや。そう思い、玄関の扉を開け外へと足を踏み出した。
塾へ行く途中、宿題を持ってきていないことに気が付いた。仕方なく家に戻ろうとし、後ろを振り返った時だった。
眩しい光に包まれ、大きな衝撃とともに私は意識を失った。




