銀細工の髪留め
誤字報告ありがとうございます、本当に助かります。
今日は街に買い物に行くと聞いていたので、街歩き出来る服装を身にまとい公爵邸へ向かう馬車に揺られていた。
窓から見える景色が流れる中、昨日言われた言葉を未だに考えていた。
「優しい人か…。」
ダニエルの言葉と、俺の中のグレイス像の乖離による溝は、未だに埋まらない。
ここ数日が異常なだけで、思い出してみてもこれまで関わりが殆ど無い。交流も年数回、交流の無い年もあった程である。
婚約解消を願ってからのここ数日はライナーにとって、今更ながら婚約者との交流を交わしている矛盾を感じないかといえば感じている。
ただグレイスの最後の願いでと、言い訳して免罪符を掲げているだけである。そんな俺に気付く切っ掛けをもたらしたのは、身勝手な振る舞いをして傷つけたグレイスだけだった。
今まで清廉潔白を胸に掲げ、日々精進を重ね騎士を目指してきた。
今までと同じく、騎士になりたいという目標は変わらない。だが自身が信じてきた土台が脆くひび割れ、崩れ落ちそうになっている事も理解出来てしまった。
騎士になる為に正確さを求め鍛えたと思い込んでいた剣術の型、それはただの思い込みによるものでしか無かった。今まで仲間だと思っていた友は存在せず、虎視眈々と互いの足を引っ張り合うライバルでしかなかった。思わず手で顔を覆い、項垂れてしまう。
「最悪だ…。」
昨日からずっと同じ結論にたどり着き、自身の愚かさを痛感し続けている。
窓の外を見れば、最近見慣れた公爵邸の近くを馬車が走っていた。
自己嫌悪で居た堪れないが、それをグレイスに見せることは避けねばと、改めて表情を引締めた。
公爵邸に着き馬車を降りると、到着の知らせが届いたのか少し待つとグレイスが出てきた。
何時ものドレス姿とは違い暖かそうな素材で作られたワンピースにケープを着けた姿で、目立つ銀色の髪をサイド部分を編み上げ大ぶりのバレットを付けている。
普段は公爵邸で会うからか、髪を結い上げないで横に流していたり、毛先の辺りで緩く纏めているので新鮮な感じがする。グレイスの後ろには何時もの侍女が、帽子とひざ掛けを持ってついている。
「ごきげんよう、今日は買い物に付き合ってくださいな。」
「ああ。アドバイスは出来ないと思うが、それで良ければいくらでも。」
馬車停めに公爵家の家紋の無いシンプルな馬車が停められたので、グレイスに手を差し出しエスコートして乗り込む。
馬車にはグレイスと俺と侍女が乗り込み、護衛達は馬で並走してついてきた。
流石公爵家の馬車というか、乗ってきた馬車とは違い、揺れが少ないうえに座席も柔らかく快適だった。
もしかしたらグレイスが、留学先との行き来に使用しているのかもしれない。語学留学で色々な国を訪れているのだから、移動の距離も長く長時間馬車に乗っているのだろう。
娘に優しい公爵なら、長時間馬車で移動するグレイスを思い、快適な馬車を用意してもおかしくない。
「街とは聞いていたが、何を買いに行くんだい?」
「買うというか、注文していた品が仕上がったと連絡がきたので、受け取りに行くだけです。」
「それは俺が共に行く意味はあるのか?」
俺が疑問を感じていると、正面に座るグレイスは微笑みながら答える。
「意味はあります。だけど良いではないですか、共に街を歩くのも楽しいかもしれません。」
そうかと答え、こうして交流をはかるグレイスの思惑が分からず、車窓から流れる景色に目を移した。
何故、今更と考えるが、答えなど分かるはずもなかった。
昨日からの思考とグレイスの振る舞い、考えれば考えるほど思考の迷路に迷い込んでしまった様に、答えという出口が見つからず彷徨い続けている。
街中の大通りは馬車での通行が出来るが、商店が数多く並ぶ道は馬車での通行を禁止している事が多い。大通りと違い道幅が狭いのもあるが人通りが多く、馬車による事故が多かった事で禁止されたと聞いた事がある。馬車が禁止された事で客足が遠のくと危惧されていたが、路肩に露店が増え様々な品が買えるとあって商店街はより一層賑やかになったらしい。
高級店が並ぶ場所では流石に客層の違いか、露店は居らず元の静観な店構えが並んでいる。
街の馬車では入れない通りに目的の店があるのか、公共の馬車停めに馬車を停めた。
先に降り、グレイスに手を貸し降ろした後服装を整え、エスコートして歩き出す。
横に並び立つとグレイスが小柄である事を、今更ながら気が付いた。これまで会う時は何時もグレイスが居る部屋に案内されていたので、グレイスが立っていることも無かったのだと気がつく。
エスコートで差し出した手に重ねられた手はとても小さく、チラッと見えた手首はとても細く、軽く力を入れただけで折れてしまいそうな程だ。
普段関わりのある女性は、騎士学院で共に訓練を受けているもの達だけである。女性でもそれなりに筋肉が付いていて、一般的な貴族女性とは違い、言い方が悪いがガッシリしている。
そんな一般的な貴族女性と比べても、グレイスは特に線が細い気がする。
女性は細い程良いと言われているみたいだが、ここまで細いとなにかの病気を疑ってしまうし、多少太くとも元気で表情が明るい方が好感を持てるものだ。
気を取り直し、グレイスの指示を聴きながら商店街を進んでいくと1軒の店の前で止まった。
店の外観はシンプルだが高級感があり、ショーウィンドウに並ぶ品は一目で高級だと分かる装飾品で、高位貴族が利用する店なのだと感じた。不相応な店に入る事に躊躇してしまい、隣に並ぶグレイスを見てしまう。
「本当にここでいいのか?」
クスッと笑いグレイスが店に入っていき、その後を付いて入店した。
店内も至る所に飾られた装飾品の美しさに戦きつつ、まるで子供のように辺りをキョロキョロと見回してしまう。
入店して立ち止まっていたグレイスの元に、気が付いた店員が歩み寄ってきた。
「ご来店いただき誠にありがとうございます、本日はどの様な品をお探しでございましょうか?」
「注文していた品が出来上がったと、連絡を頂いたのですが。」
「もしかして、ウェズリア公爵でしょうか?」
「ええ、それで品は出来ていいて?」
「はい、別室に準備出来ております。奥の応接室にどうぞ。」
グレイスが店員に奥へ案内された事で移動を促されたが、店内を見て回ると同行を拒否してその場に残った。
応接室に案内されて引き渡す品と聞いただけで、どれだけ高級な品なのかと戦慄してしまう。社交をしている訳では無い令嬢だが、公爵家ならこの様に高級な店をよく利用しているのだろうか。家格の違いを見せつけられてしまった気がして、心の中に重い何かが沈んだ気持ちになった。
首を振り気を持ち直し、待ち時間を潰す為に店内を見て回る事にした。
流石高級店だと思う品が陳列棚に並んでいて、美しさに感嘆のため息を着いてしまう。そして置いてある金額の札を見て、高い金額に驚きつつ納得の品だと思いながら見ていく。
見て歩いて店の端の方に置かれた陳列棚になると多少金額が下がっていき、俺でも頑張ってお金を貯めれば手に入りそうな金額の品も置かれていた。
そこの棚に、細やかな銀細工で仕上げ、中央に薔薇の花を模した髪留めが目に付いた。大振りな品では無いが、小ぶりなのに細工が細かく品の良さが伝わってくる。
ふとコニーの赤茶色の髪に、この銀色の髪留めが映えるだろうと考えてしまう。
陳列棚のケースに指を伸ばし、銀細工の髪留めを付けて笑うコニーを想像して微笑んでしまった。
「誰を想像して微笑んでいるのかしら?」
背後から掛けられた声に驚き、無意識に身体がビクッと動く。
振り向くと眉間に皺を寄せ、こちらに厳しい眼差しを向けて立つグレイスが居た。
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