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最後に3つの願いを聞いてください  作者: 柚杏


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3/4

優しい人だよ

学園の授業中、机に座って窓の外を見る。今日は雲が多く、冬目前だからか空気が冷えて風が強い。木々に僅かに残る木の葉も、風に吹かれて揺られながら落ちていく。


寒い中外に居たグレイスは、体調を崩していないだろうか…。


今日はグレイスに来なくていいと言われた事で予定が無くなり、何をしようかと考える。

何をしようかと考えてもこれといったことが浮かばず、先週まで何をしていたんだろうと思い考える。

放課後はコニーとの特訓という自主練を行い、帰ったら授業の予習復習を行って就寝していた。本当毎日のように同じスケジュールをこなし、平穏な日々を送っていた。


ここ数日グレイスの元に通い、振り回されていたことがイレギュラーな日々なのだと。

だがただ振り回されただけでなく、自分でも様々な気付きがあり有意義な時間でもあった。


今後騎士になる為には大切な事に気が付くものもあった。


騎士になるという夢は、幼い頃からの夢である。

騎士を多く排出する家柄もあり、漠然と騎士になるということが念頭にあった。


そして幼い頃、あの女の子との約束もある。

最近思い出す事が多かったからか、朧気だった思い出が以前より形を持ち、大半を思い出された。


両親に連れられどこかのお屋敷に行った時、暇を持て余した俺は探検と称し、屋敷の中を歩き回った。今考えると屋敷を勝手に歩き回るなど有り得ない事だが、当時の俺は幼く見逃されていたのだと思う。

屋敷を歩き回った後、見事な庭園に降り走り回る。我が家とは比べれないほど広い庭園は、見事に刈り揃えられており、幼い俺にとって大きな迷路のように見えた。

探検だと張り切り宛もなく歩き回った結果、今自分のいる場所が何処なのかも分からず、帰り道を見失った。

どこをどの様に走り回ったか分からず、このまま戻ることも出来ないのではと心細くなった事は今でも覚えている。


このままここで朽ちるのではと恐怖した俺は、なりふり構わず生垣の下を潜り抜けたりしながら進んだ。


何度目かの生垣を潜り抜けたり先に、広がった屋敷の中庭にたどり着いた。

屋敷という事は誰かに助けを求めれると、ホッとして泣きそうになっている俺に声をかけられた。


「貴方は誰?」


声のした方を見ると、屋敷の傍に引かれた敷物の上に置かれたクッションに埋もれるように幼い少女が座っていた。


「俺はライナー、ライナー・アシュリーだ。」


少女の方に歩み寄り、少女を見下ろす位置まで近くに行った。


「ライナーっていうのね。」


金色の髪を纏めずそのまま流し、カーテシーもしない貴族令嬢らしからぬ令嬢だと思った。


「どうしてここに居るの?」


「冒険をしていたら、ここにたどり着いたんだ。」


「冒険!素敵ね。この絵本みたいに、旅に出ているの?」


少女が抱えている絵本は、この国で幼い子がよく読む絵本「蕾姫と騎士」だった。


ある国に、国民にも祝福された姫が居ました。お姫様は成長したら大輪の花の様に美しくなると、今は花開く前だから蕾姫と呼ばれてた。

愛される蕾姫を妬んだ醜い魔女が、皆に忘れられると消えてしまう呪いをかけた。皆に愛される蕾姫を国民が忘れるはずが無いと思っていた、しかし国の端に住まう人々が蕾姫を忘れ始めた。段々と王都に向かって、蕾姫を忘れる人が増えていく。

蕾姫はいつか消えてしまう事に怯え、泣き暮らしていた。そこにまだ幼く、未熟な新米騎士がやってきて聞いた。姫様姫様、何故泣いているのですか?と。

蕾姫は皆に忘れられて消えるのが寂しくて辛くて悲しいのと泣きながら答えた。

姫様姫様、僕がきっと凄い騎士になって戻ってきます。そしたら姫様の騎士にしてください、姫様が寂しい時は傍に居ます。姫様が辛い時は支えます、姫様が悲しい時は悲しくならないように守ります。きっと姫様を、世界で一番幸せな姫様にします。

約束した新米騎士は凄い騎士になる為に、冒険に旅立ちました。

蕾姫も新米騎士との約束を胸に、泣き暮らすのを辞め、王都の人たちと交流を重ねたりと様々な行動を起こしました。

それから数年経ち、とうとう城の中の人まで蕾姫を忘れ始めました。国王が忘れ最後に王妃も忘れた瞬間、蕾姫涙を流し倒れそうになった瞬間、腕を強い力で引っ張られました。驚いて見ると、そこには立派な騎士が居ました。

姫様姫様、約束通り凄い騎士になって戻ってきました。姫様の騎士にしてください。

蕾姫はありがとう騎士様と言いながら、嬉しくて泣いてしまいました。

そこに蕾姫が消えたのを確認に、醜い魔女が現れた。その魔女を騎士が倒した事で、皆の記憶が戻った。騎士と手をとりあった蕾姫は世界で一番幸せな姫になりました。


「君がこの絵本が好きなの?」


「私?分からないの…。私は蕾姫にはなれないもの、・・・・・にはなれないもの。辛くて苦しくて悲しいのに誰も私のを分かってくれないもの。」


「なら僕が凄い騎士を目指すよ!君をいつか・・・・・にしてあげる。」


「約束よ…。いつか絶対凄い騎士になって、私を・・・・・にしてね。」


朧気な記憶は少女の言葉と顔が、霞がかったように思い出せないのに、風を受けなびく金色の髪だけが心に焼き付き残っていた。


いつかの約束、俺を形作る根本の約束。

いつかあの娘の前で、胸を張って騎士になったと言えるように…。


昨日の感覚を忘れないように、放課後自主練を行うことにした。コニーが何か言いたそうな顔でこちらを伺っていたが、気付かぬ振りをして1人訓練所に向かう。


今まで決められた順でただ打ち込むだけだった形稽古、しかし昨日の形稽古は違った。

ただ形に振るだけじゃない、剣の僅かな重心移動で重さと力を込めて振り抜き止める。型通りの動きを重ね、1セット終えると今までとは違う何かを掴んだ気がした。

今までとは振り抜く音が違う、何より身体にかかる負荷が全く別物だった。

先程の動きを、昨日手合わせした騎士と重ねる。まだ力を乗せきれていないを感じ、振り抜く瞬間の重心を変え打ち込む。

まだ、まだ…。

昨日の動きを思い出せる今だからこそ、妥協などせず目標に近づく動きを探っていく。


再び始めようと構えた時、声をかけられた。


「見違える動きになったね。」


構えを解き、声のした方を向くとダニエル・アルフォード侯爵令息が立っていた。

ダニエルは侯爵家の三男で、既に学年首席で卒業が決まっており、学院卒業後は騎士男爵位を拝命して近衛騎士に就任が決まっている。


この国で騎士爵位は3段階あり、騎士男爵位だと1代貴族扱いとなり。男爵位期間に功績を上げると、子爵位へと爵位が上がる。

騎士子爵位は次代を込2代貴族扱いとなる。子爵位期間に功績を上げると、更に爵位が上がり騎士伯爵位となる。

騎士伯爵位となると3代貴族となり、伯爵位期間に功績を上げると領地を与えられ、騎士爵位がとれ伯爵となれる。

ライナーの生家であるアシュリー伯爵家は騎士爵位から上り詰め、伯爵となった一家である。


近衛騎士は国の花形であり、顔でもある。城の警備から始まり、王族の警護や他国の要人の警護にも着任する。その為一部の任務には純粋な戦闘力のみならず、選考基準に容姿や身元等が絡んでくる。

身元保証の観点から貴族に属する者が選ばれる、その為に家督を相続出来ない貴族の者や、平民の者に救済措置として騎士爵位が存在している。

通常は貴族の推薦人2人連名で綴られた推薦状を国に提出し、騎士として身を建てれる実力を認められて初めて国王から騎士爵位を拝命される。

近衛騎士でなければ爵位を持たなくてもなれるが、出世の道は閉ざされるので皆騎士爵位を目指している。


唯一の例外が、騎士学院の総合評価で決まる首席卒業者への騎士爵位の推薦状である。

学院入学時点で身元保証されているので、この推薦状があれば学院が保証人となり、推薦貴族の署名が不要となる。

平民出身者に貴族の伝等ある訳もなく、学院に通っている間に自身を売り込むか、友人となった者の親に頼むしかない。

実際ライナーも何人かに頼まれたが、親が署名した人間は少ない。学院在籍中の評価や人となりを把握して、保証できる人間にしか保証出来ないのは当たり前だとライナーも思っている。



ダニエルとは今までまともに交流が無く、大会等で顔を合わすか、すれ違う時挨拶を交わすだけの付き合いしかない。

そんな彼に意識が変わり、変えた剣筋を気付かれた事に驚きを覚えた。


「色々考える事があり、自身の動きを見直す事になりました。」


「そう、考え始めた切っ掛けは自身で掴んだのか?」


「いいえ…、切っ掛けは婚約者の言葉でした。」


婚約者の事を話すのは、学院で2人目だと思った。

この学院は騎士養成の為の機構だ、即ち受け継ぐ爵位の無い者や平民が大半を占めている。後継者で所属しているのは騎士爵位の者や、元騎士爵位だった家の者しかいない。

将来が確定していない者に婚約する者は居らず、学院内で婚約者が居る者など極小数になる。よって婚約者の存在を言う者は居ない、禁止はされてはいないがタブー扱いになっている。


「そうか、その婚約者は優しいのだね。」


婚約者が優しい?何時もこちらを省みることが無く、自身の思うままに振る舞うグレイスが?

困惑伝わったのか、ダニエルが苦笑する。


「君はこの学院に通いながら、共に学ぶ者をどう感じているのかい?」


「共に学ぶ、同じ夢に向かう仲間だと思っています。」


「危ういな、その認識は改めた方が良い。」


学院で共に励まし合い、共に研磨し続けた仲間なのに何を言っているのだとダニエルを見てしまう。


「この学院に在籍する者は、皆敵でありライバルだ。隙を見せれば足を引っ張り、蹴落とそうとタイミングを伺っている。」


カッと怒りが身体を駆け巡るが、キツく練習用の剣を握りしめて耐えた。


「何を言っておられるか、俺には分かりたくも理解したいとは思えない。切磋琢磨した仲間を侮辱するのは辞めて頂きたい!」


「では聞く。婚約者の言葉で気がついたと言うが、共に学び共に活動していた者からは切っ掛けになる言葉を受けたかい?今までの正確さの剣と、今日行っていた剣では違うものを求めている。今までの君の剣は演舞の様に美しさしか追い求めていない、戦い前提の騎士の剣では無かった。」


正論だった。何時も仲間達は正確に打ち込むことを目指す俺には、綺麗な剣筋だったと褒めるだけだった。


「いいえ…、ありませんでした。」


「基礎能力があるのは分かっていて、剣の違いに気が付き、爵位を継ぐ君に上にいかれると皆困るからね。学院を卒業しても全員が騎士になれる訳では無い、騎士となれるのはひと握りの上位の人間だけだ。他のものは兵士か、傭兵になる者が大勢居る。」


ダニエルの言う事は本当で、多くの者が卒業後騎士になれずに諦め消えていく。


「だから君の間違いを気が付いていても、君に親切で伝える事は無い。そして打ち込み稽古の時、誰か君に強く打ち込んだことは無いだろう。皆で君が違いに気が付かないように、秘匿してその様に振舞っていたのだから。気が付かない者が、愚かで悪いと。」


グレイスの言葉を受け、護衛騎士との手合わせで気が付いた剣の違い。確かに卒業まで数ヶ月の俺は、学院で相手の剣を受け違いに気付くことは今まで無かった。まるで頭を蹴られたように衝撃を受け、自身の甘さを痛感した。


「だから切っ掛けを告げた人は、君の事をしっかり見ていて、手を差し伸べて助けた優しい人だよ。」


優しげな表情を浮かべ、微笑むダニエルの言葉を俺は受け止めきれていなかった。

ダニエルがまたねと言い残し去っても、剣を握りしめただ立ち尽くし動けなかった。


俺の中のグレイスのイメージと、ダニエルに言われたグレイス像の乖離。

言われた事を認めたくない俺も居るが、ストンと心が認めてしまった現実。


しっかりと俺を見て手を差し伸べてくれたグレイスに、数日前俺はグレイスに何をした。

自身の軽はずみな行いで傷つけたかもしれない、そんな後悔を感じても今更なのだと痛感する。


清廉潔白であろうと振る舞う自身の身勝手さに嫌気がする、ただの身勝手な振る舞いを正当化する綺麗な言葉を並べただけだ。


日が落ち気温が下がり冷える風が吹く中、俺の中にも凍える程の隙間風が吹いていた。

色々と消したり書き直したりを繰り返していたら更新が遅くなりました。

最初はもう少し後の所で、短編のプロットだとチョロっと出番だったダニエルの出番を、連載にしたので増やしてみたりです。

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