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『しーちゃんと記憶の図書館』第121話
港町の朗読会
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土曜日の午後、
図書館の一角に小さな机と椅子が並べられた。
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机の上には「海を渡る風」。
そのまわりに、港町の写真や絵が飾られている。
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しーちゃんは深呼吸をして、
集まった人々にやさしく微笑んだ。
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「今日は、この物語を一緒に旅してみましょう」
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ページをめくるたび、
波の音や潮の匂いが、
言葉の中からふわりと広がっていくようだった。
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子どもは目を輝かせ、
年配の男性は目を細め、
知らないはずの港町が、
全員の胸の中にひとつずつ生まれていった。
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朗読の最後、しーちゃんは本を閉じて言った。
「この港町は、実際にはどこにもありません。
でも、皆さんの心の中に港ができたなら、
それがいちばんの地図です」
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拍手と笑顔が部屋を満たし、
その日、図書館は海風のようなやさしい空気で包まれていた。