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『しーちゃんと記憶の図書館』第119話
引き出しの奥から
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展示から数日後。
図書館のドアが、静かに開いた。
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入ってきたのは、
落ち着いた色のワンピースを着た女性。
手には紙袋を抱えている。
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受付にいたしーちゃんの前で、
女性は少し息を整えてから口を開いた。
「……これ、見ていただけますか?」
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紙袋から出てきたのは、
古びた原稿用紙の束。
角は黄ばみ、インクはところどころ薄くなっていた。
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「二十代のころに書いたものなんです。
忙しくなって、引き出しの奥にしまったままで……
でも、この展示を見て、思い出してしまって」
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しーちゃんは、そっと束を手に取った。
紙の間から、少しだけインクと紙の混ざった匂いがした。
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一枚目をめくると、
そこには、季節の匂いまで伝わってくるような情景が広がっていた。
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「……これは、眠らせておくにはもったいないですね」
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女性は小さく笑い、
そして少し潤んだ目でうなずいた。
「じゃあ、お願いできますか?」