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『しーちゃんと記憶の図書館』第118話
ガラスケースの中で
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翌週、図書館の一角に
小さな展示コーナーが作られた。
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ガラスケースの中には、
少年のノートと、
彼が書いた最初の二行が開かれて置かれている。
『ぼくは、丘の上で待っている。
まだ見ぬ友に、この物語を届けるために。』
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その前に立つ人たちは、
皆しばらく黙ってページを見つめた。
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中学生の女の子が友達にささやく。
「……なんか、私も続きが知りたくなる」
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年配の男性は、目を細めてつぶやいた。
「若いころの自分を思い出すなあ」
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遠くからその様子を見ていた少年は、
耳まで赤くしながらも、
胸の中で何かが膨らんでいくのを感じた。
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しーちゃんは、少年の肩にそっと手を置き、
優しく言った。
「ほらね、言葉はちゃんと届いてる」
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その瞬間、少年は初めて
“書くこと”が自分の居場所になるかもしれない
と思った。