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『しーちゃんと記憶の図書館』第117話
はじめての読者
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数日後の午後。
少年は、胸の前でノートを抱きしめながら図書館にやってきた。
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受付にいたしーちゃんが顔を上げる。
「ようこそ」
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少年は少しうつむいたまま、
小さな声で言った。
「……できました。
まだ短いけど、読んでほしいです」
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しーちゃんは、両手でノートを受け取った。
表紙には、拙い字でタイトルが書かれていた。
『丘の上の約束』
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ページをめくるたび、
やわらかい言葉が、風のように心に流れ込んでくる。
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読み終えると、しーちゃんはゆっくり顔を上げた。
「……とてもいいわ。
言葉が真っすぐで、ちゃんと心に届く」
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少年は、安堵の息をもらした。
そして、少し照れくさそうに笑った。
「……じゃあ、続きも書きます」
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その笑顔を見て、
しーちゃんは確信した。
この物語は、必ず誰かの心に届く——。