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『しーちゃんと記憶の図書館』第115話
小さな決意
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展示室の前に立ち尽くしていたのは、
まだ中学生くらいの少年だった。
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二枚の絵を見比べながら、
何度も足を止めては、深く息をついている。
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「きれいだな……」
小さな声が漏れた。
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背後からしーちゃんがそっと声をかけた。
「気になるの?」
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少年はうなずき、
手にしていたノートを胸に抱えた。
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「僕、絵は描けないけど……
物語なら書けるかもしれない。
いつか、ここに置いてもらえますか?」
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しーちゃんは、
目を細めて優しく笑った。
「もちろん。あなたの物語を待っているわ」
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少年は、その日から毎晩机に向かうようになった。
たった一行でも、必ず書き続けた。
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小さな決意が、
まだ見ぬ物語の芽をそっと育て始めていた。