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第9話 薬草使いのお嬢さん

 カドラスへの街道。

 森の木々がまばらになり、遠くに街の輪郭が見えてきた。

 太陽は容赦なく照りつけ、ジリジリと肌を焼く。


「あー、疲れたー」


 結衣が汗だくで呟く。

 ジークは無言で荷物を背負い、黙々と歩く。


「ねえ、そろそろ休憩しない?」


「……うるせぇ。さっさと歩け」


 ジークの返事は素っ気ない。

 だが、その顔は青ざめていた。


「ジーク? 大丈夫?」


 結衣が心配そうに声をかける。

 その瞬間、ジークの足が止まった。


「くっ……」


 肩から血が滲み、荷物がドサリと落ちる。

 ジークが膝をつく。


「ジーク!」


 結衣が駆け寄る。

 蒼が慌てて飛び回る。


(ヤバいよ! さっきの傷が悪化してる!)


(え!? それってマズいんじゃないの!? 何か使えそうなアイテム……なんてないよ!)


 結衣がバッグを漁りながらオロオロする。

 蒼が(僕は何もできないよ!)と叫ぶ。

 本当に使えない鳥だ。


「大したことねぇよ……」


 ジークは強がるが、顔色は蒼白だ。


「どうしよう! どうしよう!」


 結衣が途方に暮れていると――


「まあ、大変!」


 少女の声が響く。

 振り返ると、薬草を抱えた小柄な少女が立っていた。


 白い外套の下に、緑のワンピース。

 腰のベルトには薬草袋と薬瓶を下げている。

 歳は、ジークより少し上くらいだろうか。

 なかなかの美少女だ。


「怪我人ですね、私が手当てします!」


 少女は薬草袋から軟膏を取り出し、ジークに近づく。


「触るな!」


 警戒心剥き出しのジークが、少女の手をはねのけた。

 だが少女は怯まない。


「大人しくしてください! 放っておくと死にますよ!?」


 少女の一喝に、ジークは思わず固まった。

 結衣も驚いて目を丸くする。

 ジークが睨みつけるが、少女は意にも介さない。

 肩の傷に軟膏を塗り、手慣れた様子で包帯を巻いていく。


(すごい! 手際いいね!)


(本当だね! プロみたい!)


 結衣が感心すると、蒼も結衣にささやく。


---


 数分後、ジークの痛みは和らぎ、立ち上がれるようになった。


「ありがとう! ジークを助けてくれて!」


「ふふ、よかったです。私はミリアと言います」


 結衣が礼を言う。

 少女はふわりと笑った。

 緑色の長い三つ編みが揺れる。

 優しげな目元が印象的だ。


「私は結衣! で、こっちの無愛想なのがジーク」


「…………」


 一応感謝はしているのか、ジークは無言で会釈した。


「ミリアはどこへ行くの?」


「カドラスです。薬草を売りに行くんです」


「そうなの!? 私たちもカドラスへ行くの!」


 結衣の目が輝く。


「じゃあ、一緒に行こうよ!」


「そうですね。私も心強いです」


「……好きにしろ」


 ミリアが頷く。

 ジークは目を逸らすが、反対はしなかった。

 こうして三人の道中が始まった。


---


 カドラスへの道中、街道にコボルトが現れた。

 ネズミのような顔に、小さな体。

 だが、鋭い爪と牙を持つ厄介な魔物だ。


「くそっ……」


 ジークが二刀流で応戦する。

 が、本調子が出ない。

 動きが鈍い。


 グサッ!


 コボルトの爪を避けきれず、肩の傷をかすめられてよろける。


「ジーク、危ない!」


 結衣は叫び、咄嗟に青石を投げる。


 ビュンッ!


 青い光が走り、アイススピアの氷の槍がコボルトを貫く。


「やった!」


 結衣が飛び上がって喜ぶ。

 戦闘で役に立てた実感が、胸を熱くする。

 ジークは驚いた顔で結衣を見た。


「お前、それ……」


「えへへ、さっきの青石だよ」


 戦いが終わり、結衣はいくつかの赤い石を見つけた。


「おっ、ファイアボールの石だ!」


 結衣はニヤリと笑い、赤石をバッグにしまう。

 ジークは息を荒げ、肩を押さえている。


「また無茶をしましたね」


 ミリアが近づき、再び手当てを始める。

 今度はジークも「……チッ」と舌打ちするだけで、大人しく受け入れた。


「ミリア、すごいね! 誰に教わったの?」


「薬草使いだった母から知識を教わりました」


 結衣の質問に、ミリアが笑顔で答える。


(ミリアがいてくれて助かったね!)


(たまにはマトモなこと言うじゃん)


 蒼がパタパタ飛び回り、結衣が小声で返す。

 ジークは黙って歩く。


---


 やがて、カドラスの入り口が見えてきた。

 街の門が近づき、市場の喧騒が遠くから聞こえる。


「やっと着いたー!」


 結衣が両手を上げて喜ぶ。


「私は薬草を売りに行きますね。ではこれで」


 ミリアが荷物を肩にかけ、笑顔で一礼する。


「ありがとう、ミリア! また会えるよね?」


「はい、きっと!」


 ミリアは市場の喧騒に消えていった。


 ジークは無言で肩を軽く動かす。

 痛みはほとんどなく、 肩の軽さに驚いた。


「ミリアがいて助かったよね。ねえ、ジーク?」


 結衣が笑顔で聞く。


「……まあ、怪我した時くらいは役に立つかもな」


 ジークは呟き、先に歩き出した。


「もう、素直じゃないんだから」


 結衣はクスクス笑いながら、ジークの後を追う。


 カドラスの街を歩くふたり。

 魔王討伐の旅、まだまだ先は長かった。

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