表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/77

第8話 狼を切り裂く二刀流

 カドラスへの道は、思いのほか険しかった。

 木々が生い茂る森を抜け、小さな丘を越える。

 ようやく見えてきたのは、せせらぎが響く小さな川だった。


「ここらで休むか」


 ジークが立ち止まり、荷物を下ろす。

 結衣も疲れ果てた様子で、草の上に座り込んだ。


「ふー、疲れたー」


「まだ半日しか歩いてねぇだろ」


「だってー、こんな長時間歩くなんて初めてだしー」


 ジークは呆れた顔で水筒を取り出した。


「水、汲んでくる」


 川に向かうジークの背中を見送り、結衣は空を見上げた。

 青い空に白い雲が浮かんでいる。

 異世界でも、空の色は変わらない。


(ねぇ蒼、本当に魔王の情報、カドラスで手に入るかな?)


(きっと大丈夫だよ! 交易都市なら情報も集まるはず!)


(そうだといいけどねぇ……)


---


 川辺で水を汲んでいたジークが、ふと顔を上げた。

 鋭い目が森の奥を警戒している。


「獣の気配が濃いな……」


 結衣の肩に止まる蒼も、突然羽を震わせ始めた。


(結衣、近くで何か動いてるよ! ヤバい気配がする!)


 蒼の小声に、結衣は身を固くした。


(え? 何?)


 その時、茂みがガサガサと揺れ始めた。

 木々の間から風が吹き抜け、葉擦れの音が不気味に響く。

 ジークが素早く立ち上がり、結衣を振り返る。


「結衣!」


 警告と同時に、茂みから灰色の影が飛び出してきた。

 鋭い牙、赤く光る目、低く唸る声。

 ウルフだ。

 一匹ではない。二匹、三匹……計七匹が次々と現れる。

 川の水面がその足音で揺れ、土が舞い上がる。


「うわっ!」


 結衣が悲鳴を上げた。

 ウルフたちはジークを狙い、一気に飛びかかる。


「結衣、下がってろ!」


 ジークは両手にダガーを構えた。

 右手には使い慣れた無骨なダガー。

 左手にはゴルドが修理した、陽光を反射する鋭利な刃。

 二刀流の構えが決まる。


「気をつけてね!」


 結衣は叫び、近くの大きな木の陰に退避した。


「ガオオォォッ!」


 先頭のウルフがジークに襲いかかる。

 牙を剥き、唸りながら突進してくる。

 ジークは一歩も引かず、前に踏み込んだ。


「来い!」


 右のダガーが風を切り裂く鋭い音を立て、横に薙ぐ。

 刃がウルフの首筋を捉え、鮮血が噴き出した。

 左のダガーが喉元を突き刺す。


 ゴリッ!


 骨が砕ける感触が手に伝わる。


「ガルルッ!」


 悲鳴と共にウルフが地面に崩れ落ちる。

 だが、戦いは始まったばかりだ。


 別のウルフが側面から襲いかかった。


 ガキンッ!


 ジークは左のダガーで牙を受け止め、弾く。

 刃に反射した光がウルフの目を眩ませる。


 ザシュッ!


 その隙に右のダガーが胴を切り裂いた。

 肉が裂ける音と共に、内臓が地面にこぼれ落ちる。


「ジーク、後ろ!」


 結衣の叫びに、ジークは素早く身をひねる。

 背後から飛びかかってきたウルフの牙が肩をかすめた。


「チッ!」


 痛みに顔をしかめつつ、両手のダガーを交差させる。

 首を挟み込み、刃を引き抜く。


 ズシャッ!


 ウルフの肉が裂け、断末魔が森に響き渡る。

 血しぶきが木々の間から漏れる光に照らされ、赤く輝く。


 残りの四匹がジークを取り囲んだ。


「ガルルルルル……」


 円を描き、距離を測るように唸っている。

 ジークは冷静に息を整え、構え直す。


「一気に来い……」


 挑発するように呟くと、ウルフたちが一斉に飛びかかる。

 ジークの動きが加速した。


 ビュンッ!


 体を回転させ、両手のダガーを振り回す。

 刃が風を切り裂く音が連続し、まるで嵐のようだ。

 右のダガーが一匹の牙を払い、左が目を抉る。


「ギャンッ!」


 悲鳴が上がり、ウルフが後ずさる。

 だが、ジークは止まらない。


 ズシャッ! ドシャッ!


 左のダガーで別のウルフの腹を突き刺し、右で胴を真っ二つに切り裂く。

 血と肉が飛び散り、土が赤く染まる。


 三匹目が怯んで尻尾を下げた瞬間、ジークが間合いを詰める。


 ズシャァァァッ!


 両方のダガーを振り上げ、背中から首まで一気に切り裂く。


 最後のウルフが逃げようと背を向ける。

 ジークは冷たく見据え、一歩踏み込んで右のダガーを振り下ろす。


 ドゴンッ!


 ウルフの頭蓋が砕け、地面に沈んだ。


 刃の鋭い音とウルフの唸り声が響き合い、数分で群れは全滅した。

 森が再び静寂に包まれる。


 ウルフの死骸が街道に散らばっている。

 ジークは息を整えながら額の汗を拭った。


「ジーク、大丈夫? 怪我してない?」


 結衣が木の陰から駆け寄ってくる。

 役に立てないのがほんのちょっと悔しかった。


「かすり傷だ。問題ねぇ」


 ジークは肩の傷を応急処置した。

 そしてウルフの死骸に近づく。

 ナイフを取り出し、牙を一本ずつ抜き取る。

 その手つきは慣れたものだ。


「何するの?」


「ウルフの牙は鍛冶屋がダガーや小剣の柄に使うからな。高値で売れる」


 さらに毛皮を丁寧に剥ぎ取っていく。


「これもいい金になる」


「すごいね、ジーク。戦闘だけじゃなくて、こういうことにも詳しいんだ」


「そりゃこれで食ってるからな」


 結衣が感心した様子で見ていると、地面に転がるいくつかの青い小石が目に入った。


「あれ? これ、綺麗だね」


 結衣は小石を拾い上げ、光にかざす。

 前にゴブリンが持っていた赤石に似ている。


「どれ?」


 ジークが覗き込み、軽く頷く。


「例のクズ石か。もしかしたらお前の武器になるかもな」


 蒼が結衣の耳元で小声で囁いた。


(その青い石、拾って!)


(えっ?)

 

(アイススピアっていう魔法の石! 一回だけ氷の槍を放つ力があるから、持っておいて!)


(マジ!? やったぁ! アイテムゲット!)


 結衣は嬉しそうに数個の青石をバッグにしまった。


「次は私も戦えるよ、ジーク!」


 ジークが苦笑する。


「小石くらいで現金なもんだな。ま、多少はアテにしてるよ。ほら行くぞ」


 ダガーを鞘に収め、ジークは荷物を背負った。

 結衣も立ち上がり、埃を払う。


「ねぇ、ジーク」


「ん?」


「さっきの戦い、すごくカッコよかったよ」


 結衣の素直な感想に、ジークは少し目を逸らす。


「……うるせぇな。当たり前だろ」


 結衣がクスクス笑う。

 ジークは先に立って歩き出した。

 結衣が追いかける。


(ねぇ蒼、アイススピアってどう使うの?)


(投げるだけだよ。氷の槍になって飛んでいくんだ)


(ファイアボールと同じ感じか。簡単で助かるわ)


 カドラスまではまだ遠い。

 だが、結衣の足取りは少しだけ軽かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ