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第77話 竜殺しの閃光、突破の一撃

 暗い通路を駆け抜けた四人の前に、巨大な石の扉が立ちはだかった。

 扉の向こうから、重い足音が響いてくる。


 ズシン、ズシン――


 それは、人間のものではない。


「……まずいな」


 ジークが舌打ちする。

 扉がゆっくりと開く。

 そこに立っていたのは、三体のドラゴニュート上級兵士だった。


 身の丈は二メートルを超え、全身が黒い鱗に覆われている。

 筋肉は岩のように隆起し、爪は鋼鉄のように鋭い。

 目は黄金に光り、口元からは白い息が漏れている。


「逃げるぞ!」


 カインが叫ぶ。

 だが、背後からも足音が響く。

 振り返ると、さらに二体のドラゴニュートが通路を塞いでいた。


「囲まれた……」


 結衣が青ざめる。

 ドラゴニュートの一体が口を開く。


「劣等種族が……よくもここまで来たものだ」


 低く、威圧的な声。


「だが、ここで死ね」


 石壁の奥から、重い足音が響く。

 空気が一気に冷たくなった気がした。


「逃げ道は……ないな」


 カインが低く呟く。


「……やるしかないか」


 ジークが唇を噛む。


「みんな、気をつけて!」


 結衣が叫んだ瞬間、ドラゴニュートたちが一斉に動いた。


 ドンッ!


 一歩踏み出すだけで床が揺れる。

 その圧力に、思わず膝が震えた。


「ジーク、左から来る!」


「分かってる!」


 ジークがスクラマサクスを抜き、ドラゴニュートの脇腹を狙って跳びかかる。


 だが――


 ギィン!


 金属音が響く。

 刃が鱗に弾かれた。


「なっ……全然効かねぇ!」


 ジークが目を見開く。

 ドラゴニュートは鼻で笑い、拳を振り下ろす。


 ドゴォン!


 石畳が砕け、ジークが転がる。


「ジーク!」


 結衣が青石を握りしめ、ドラゴニュートの顔めがけて投げつける。


「アイススピア!」


 氷の槍が生まれ、ドラゴニュートの首筋に突き刺さる。


 パリィン!


 鱗が白く曇っただけで、傷ひとつついていない。


「マジ!?」


 結衣の手が震える。


「お願い! 効いて!」


 ミリアが麻痺薬の小瓶を投げつける。

 だが、ドラゴニュートは素早く身をかわし、瓶は床で砕けた。


「人間ごときの小細工が、我らに通じると思うなよ」


 ドラゴニュートが冷たい声で言う。

 その目には、わずかな憐れみすら浮かんでいた。


「くそっ……!」


 ジークが立ち上がる。

 だが、ドラゴニュートの一撃が、ジークの腹を打ち抜いた。


「ぐっ……!」


「ジーク!」


 結衣が叫ぶ。

 ミリアが駆け寄ろうとするが、ドラゴニュートが前に立ちふさがる。


「動くな、虫けらども」


 その声は、地響きのようだった。

 絶望が、胸を締めつける。


(だめだ……私たちじゃ、勝てない)


 結衣の頭が真っ白になる。

 ジークも、ミリアも、歯を食いしばるしかなかった。


「終わりだ」


 ドラゴニュートが爪を振り上げる。


 その時――


 カインが一歩、前に出た。


 腰に差した黒曜石の剣が、静かに光を放つ。

 柄には竜の頭、鍔には炎の刻印。

 刀身には古い紋様が浮かび上がる。


「……ドラゴンスレイヤー」


 カインが剣を抜いた。

 刀身の紋様が鼓動のように明滅し、竜の彫刻が低く唸るような音を立てた。

 

 シャキィン――!


 刃が空気を裂く。

 赤い火花が散り、剣身に炎のような光が走る。


「お前たちは、不死身でも最強でもない」


 カインの声は、水を打ったように静かだった。

 だがその背中には、神々しさと鬼気迫る迫力が同居していた。


「何……?」


 ドラゴニュートの目が、初めて困惑の色を見せる。

 カインが駆ける。

 ドラゴンスレイヤーが軌跡を描く。


 ギィン!


 剣が鱗に触れた瞬間、鋼鉄の壁が紙のように裂けた。

 肩から胸にかけて、深い切り傷が走る。

 ドラゴニュートはその傷口に触れ、初めて『痛み』という感覚を思い出したように叫んだ。

 

「ぐああああっ!」


 ドラゴニュートが絶叫する。


「馬鹿な、我らの鱗が……!」


「これが、彼らの想いだ!」


 カインが叫ぶ。

 その腕にドワーフたちの叫びが重なり、剣がさらに輝きを増した。

 ドラゴンスレイヤーが炎のように輝き、もう一度振り下ろす。


 ズバァン!


 ドラゴニュートの腕が宙を舞い、血飛沫が石壁を染める。


「くっ……!」


 残りのドラゴニュートたちが一歩退いた。

 その目に、明らかな戦慄が走る。


「ジーク! 今のうちに!」


「おう!」


 ジークが素早く立ち上がり、結衣とミリアの手を引く。


「カイン、早く!」


「分かってる、先に行け!」


 カインがしんがりに立ちふさがる。

 ドラゴンスレイヤーを構え、ドラゴニュートたちを睨みつける。


「劣等種族ごときが……その力は何だ……!」


 ドラゴニュートが呻く。


「この剣には、仲間たちの想いが込められている。それが、お前たちの『力』を超える!」


 カインが叫ぶ。

 ドラゴニュートたちが一瞬、動きを止めた。

 その隙に、ジークが結衣とミリアを連れて戦線を離脱する。


「行け、必ず追いつく!」


 カインが剣を振り上げる。

 ドラゴニュートたちが再び襲いかかる。


 ガキィン! ギャリィン!


 剣と爪がぶつかり合い、火花が散る。

 カインの動きは、これまでの彼とは違っていた。

 ドラゴンスレイヤーが、彼の力を引き出している。


「ぐああああっ!」


 カインが一体のドラゴニュートの胸を貫く。


「馬鹿な……!」


 ドラゴニュートたちが後ずさる。


「来い、カイン!」


 ジークの声が響く。


「分かった!」


 カインが最後の一撃を放ち、ドラゴニュートたちの間をすり抜ける。


「追え! 奴らを逃がすな!」


 ドラゴニュートたちが怒号を上げる。

 だが、カインの剣の威力に、誰もすぐには動けない。


 四人はそのまま暗い通路を走り抜けた。

 背後で、ドラゴニュートたちの怒りと恐怖の咆哮が響いていた。

 四人はようやく、息を切らして立ち止まった。


「やったの……?」


 結衣が信じられないように呟く。


「ドラゴンスレイヤーが……本当に効きました……」


 ミリアが驚く。


「さすがはドワーフ渾身の名剣だ。『竜殺し』の名は伊達じゃねぇな」


 ジークが感心する。

 カインはドラゴンスレイヤーを見つめる。

 刀身の炎の紋様が、まだ微かに光っている。


「エド……ありがとう」


 カインが剣を鞘に収める。


「だが、まだ終わってない。急いでここを抜けよう」


 四人は再び走り出した。

 背後で、ドラゴニュートたちの怒号が響いていた。

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