表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/98

第75話 灼熱の死闘! トロールの咆哮

 奴隷生活、五日目の朝。

 焼けた石畳に、汗と埃がまとわりつく。

 空は灰色、火山の煙が空を覆い、太陽の光は鈍く濁っている。


「……今日、決行する」


 カインが三人に目配せする。


 作業場の隅、ジークが壁に背を預けて周囲を見回す。

 結衣は手のひらの血豆を気にしながら、ミリアと目を合わせた。


「ジーク、荷物の場所は?」


「北側の倉庫。監督の詰所の裏だ。巡回の死角は三分ごとに来る。タイミングを見計らう」


「脱出ルートは?」


「西の壁沿いだ。あそこなら混乱に乗じて抜けられる」


 カインは小さく頷いた。


「みんな、絶対に生きて帰ろう!」


 四人は手を合わせた。


---


 昼下がり――

 オークが怒号を飛ばし、奴隷たちに石を運ばせている。


「ジーク、今だ」


 カインが目配せする。

 ジークは素早く身をかがめ、倉庫の影に滑り込んだ。

 足音を殺し、壁伝いに進む。

 詰所の裏、粗末な木箱の中に、見覚えのある荷物が積まれていた。


「よし……」


 ジークは全員分のバッグと武器を回収し、背中に背負う。

 監督のオークが背を向けた瞬間、ジークは作業場へと駆け戻った。


「持ってきた。全部揃ってる」


 息を切らしながら、ジークが荷物を差し出す。


「サンキュ、ジーク!」


 結衣がショルダーバッグを抱きしめる。

 ミリアも薬草袋をしっかりと抱えた。


「よし、行くぞ」


 カインが剣を抜いた。


---


 監督のオークがこちらに気づいた。


「おい、お前ら! 何をしている――!」


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、カインとジークが同時に駆け出す。

 カインの剣がオークの棍棒を弾き、ジークの短剣がオークの体を切り裂く。


「ぐああっ!」


 オークが悲鳴を上げて倒れる。

 他のオークたちが騒ぎに気づき、怒号が作業場に響き渡る。


「何だ!」


「何が起こっている!」


 結衣はショルダーバッグから赤石を取り出す。

 手のひらに汗がにじむ。


「当たれ! ファイアボール!」


 赤石をオークの群れに向かって投げつける。


 ゴォッ!


 爆炎が巻き起こり、オークたちが炎に包まれた。


「うわあああっ!」


「熱い! 何だこれは!」


 オークたちが混乱し、あちこちを転げ回る。


「今だ、逃げろ!」


 カインが叫ぶ。

 奴隷たちは顔を見合わせたが、次の瞬間、全員が走り出した。

 そして一斉に、壁際へと殺到する。


 だが、逃げる奴隷たちを追いかけるオークが数人現れた。

 カインはミリアに視線を向けた。


「ミリア、頼む!」


「はい!」


 ミリアが小瓶を取り出し、奴隷を追うオークの背後から麻痺薬を投げつける。

 パリン!

 薬瓶が割れ、白い煙がオークたちの顔に広がる。


「ぐっ……痺れる……」


「体が動かない……」


 オークたちがその場に崩れ落ちる。


「ナイス、ミリア!」


 結衣が親指を立てる。

 その間に奴隷たちはオークの手から無事逃げ切った。


 だがその時、地響きが作業場全体を揺らした。


 ズシン、ズシン――


 巨大な影が、オークたちの背後から現れる。


「……トロールだ!」


 カインが叫ぶ。


 トロールは身の丈三メートルを超える巨体。

 灰色の皮膚には無数の傷跡。

 腕は丸太のように太く、手には鉄杭ほどの棍棒を握っている。


「こいつは……ヤバいぞ……」


 ジークが唾を飲み込む。

 トロールが咆哮を上げた。


「グォォォォォッ!」


 鼓膜が破れそうな轟音。

 逃げる奴隷たちが恐怖で立ちすくむ。


「奴隷たちを逃がすんだ! 俺たちが食い止める!」


 カインが剣を構え、ジークが左右に展開。

 ミリアが麻痺薬を握りしめ、結衣が小石を手に取る。


 トロールが棍棒を振り下ろした。


 ドガァァン!


 地面が砕け、土埃が舞い上がる。

 棍棒が地面にめり込み、石が粉々に砕け散る。

 その衝撃で足元が揺れた。


 ジークが素早く横に跳び、トロールの足元に回り込む。


「結衣、今だ!」


「分かった!」


 結衣が赤石をトロールの顔面に投げつける。


「ファイアボール!」

 

 ゴッ!


 赤石がトロールの鼻先に直撃した。

 爆炎がトロールの顔を包む。

 トロールが怒り狂って暴れまわる。


「グォォォッ!」


 棍棒が振り回され、ジークがギリギリでかわす。


「ジーク、右脚の腱を狙え!」


「任せろ!」


 ジークがトロールの脚に走り寄り、スクラマサクスで腱を切り裂く。


 ズバッ!


 トロールが膝をつく。

 ジークが叫ぶ。


「やれ、カイン!」


 カインが全力で駆け、倒れたトロールの首筋に剣を突き立てる。


「これで終わりだ!」


 グサッ!


 剣が肉を裂き、トロールが断末魔の叫びを上げる。


「グォォォォォ……!」


 トロールの巨体が地面に崩れ落ちる。


 パキィン――!


 トロールの絶命と同時に、カインの剣が鋭い音を立てて折れた。

 カインは息を切らし、折れた剣を見つめる。


「やったの……?」


 結衣が呆然とつぶやく。


「いや、まだだ……」


 ジークが耳を澄ます。


 ドドドドド――!


 地鳴りのような足音が、要塞の奥から迫ってくる。


「オークの大群だ!」


 カインが叫ぶ。


「急げ、ここから離れろ!」


 四人は暗い通路へと駆け出した。

 背後で、オークたちの怒号と地響きが追いかけてくる。


 闇の中、息を切らしながら、四人は必死に走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ