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第69話 炎獣サラマンダー、平野に現る!

 広大な平野を、四人の影が伸びていく。

 カインが地図を手に、前を歩く。

 真っ直ぐな背中に、どこか緊張が滲む。

 ミリアと結衣はそのすぐ後ろを歩き、ジークは最後尾で背後を見張る。

 時折振り返り、警戒の視線を遠くに走らせていた。


 遠く、黒い山影がじっとこちらを睨んでいるようだった。

 風が草を撫で、カインのマントがはためく。


「……もう少しで抵抗勢力(レジスタンス)のアジトだ」


 カインが呟く。


「なんか空気がピリピリしてる……」


 結衣が辺りを見回す。

 ジークが注意した。


「気を抜くな。ここから先は鱗王の縄張りだ」


「うぅ……お腹痛くなりそう」


 ミリアがそっと結衣の手を握る。


「大丈夫ですよ。今回もきっと、うまくいきます」


 その時だった。

 ドン、と地面が揺れた。


「今、揺れた?」


 結衣が立ち止まる。


「……何か来る」


 ジークの声が低くなる。

 次の瞬間、地面の割れ目から、巨大な赤いトカゲが這い出してきた。

 背中の棘が炎を纏い、口元から白い煙を吹き出している。


「サラマンダーだ!」


 カインが叫ぶ。


「全員、散れ!」


 四人は一斉に走った。


 サラマンダーが咆哮する。

 ゴオオッ、と熱風が襲う。


「眠り薬、効きますように……」


 ミリアが小瓶を取り出し、風下からそっと投げた。

 瓶が空中で弧を描く。

 だが、サラマンダーが素早く首を振り、炎を吐いた。


 ボンッ!


 薬瓶は一瞬で焼かれ、煙とともに消えた。


「うわっ、眠り薬が!?」


 結衣が叫ぶ。

 サラマンダーの目がぎらりと光る。


「かえって怒らせちまったな……」


 ジークがスクラマサクスを抜いた。

 サラマンダーが突進してくる。


「ジーク、右脚を狙え!」


「言われなくても!」


 ジークが地を蹴る。二刀流の刃が閃き、サラマンダーの脚に斬りつける。


 ギィン!


 硬い鱗に火花が散る。


「効かねぇな、クソッ!」


「俺が隙を作る!」


 カインがサラマンダーの正面に立ち、剣を構える。


「こっちだ、トカゲ野郎!」


 サラマンダーが火炎を吐く。


「うおおっ!」


 カインが剣で炎を受け流す。

 熱気が肌を焼く。


「アイススピア!」


 結衣が青石を握りしめ、サラマンダーの口元に投げつけた。


 パキン!


 氷の槍が生まれ、サラマンダーの顎を貫く。


 ジュウウウッ……


 炎と氷がぶつかり、蒸気が立ち上る。


「やった!?」


 だが、サラマンダーはさらに怒り、尻尾で地面を叩いた。


 ドゴォン!


 ジークが跳び退く。


「しぶといな、こいつ!」


 ミリアは岩陰に隠れ、治療道具を取り出す。


「皆さん、怪我をしたらすぐ引いてくださいね!」


 サラマンダーが再び火炎を吐く。

 カインが前に出て剣を振るう。


「ジーク、今だ!」


「任せろ!」


 ジークがサラマンダーの脚の間をすり抜け、二刀で関節を狙う。

 カインが尻尾を剣で受け止める。


「ぐっ……重い……!」


「カイン、無理すんな!」


「大丈夫だ、早く決めろ!」


 結衣は再び青石を手に取る。


「アイススピア、もう一発!」


 小石をサラマンダーの胸元に投げる。

 氷の槍が鱗の隙間に突き刺さる。

 サラマンダーが苦しげにのたうつ。


「今だ、やれ!」


「おう!」


 ジークが跳び上がり、スクラマサクスを両手で振り下ろす。


 ザシュッ!


 脚の腱が切れ、サラマンダーが膝をついた。

 カインが渾身の力で剣を振るう。


「これで終わりだ!」


 剣がサラマンダーの首筋を斬り裂く。


 ゴォオオオッ!


 最後の火炎が空を焼き、サラマンダーは地響きを立てて崩れ落ちた。


「……終わった?」


 結衣が息を切らしながら立ち尽くす。

 ジークが膝に手をついて笑う。


「まったく、膝が笑ってるぜ……」


 カインも肩で息をしながら剣を鞘に収めた。


「みんな、怪我は?」


 ミリアが駆け寄り、火傷や切り傷を手早く手当てする。


(あそこに小石が落ちてる!)


 蒼が結衣の周りを飛びながら声を上げた。


(え? どこ?)


(サラマンダーの尻尾の陰だよ! 銀色のやつ!)


 結衣はそっと近づき、銀色に輝く小石を拾い上げた。

 触れた瞬間、指先にひやりとした冷気が走る。


(それ、1回分のブリザードの力があるレア小石だよ! ちゃんと持っておきなよ!)


(そうなの!? ラッキー!!)


 結衣は小石をバッグの奥にしまい込んだ。


---


 三人はその場に座り込む。

 ミリアがカインの火傷を丹念に治療し、ジークの膝の擦り傷に薬を塗る。


「皆さん、無茶しすぎです」


「これくらい、なんてことねぇよ」


 ジークがそっぽを向く。


「カインさんも、もう少し自分を大事にしてください」


「すまないミリア、感謝している」


 カインが照れくさそうに頭を下げる。

 結衣は自分の腕の小さな火傷を見て、ミリアに笑いかけた。


「またミリアの薬に助けられちゃったね」


「皆さんが無事で良かったです」


 その時、草むらを踏みしめる重い足音が響いた。

 四人が一斉に顔を上げる。


 目の前に、灰色の毛並みに金色の瞳を持つ、堂々たる獣人の男が現れた。

 鋭い眼光と威厳ある佇まいに、思わず息を呑む。


「大丈夫か、旅人たち」


 低く落ち着いた声。

 カインが立ち上がり、慎重に声をかける。


「あなたは……?」


「俺はカーライル。この先にある抵抗勢力のアジトのリーダーだ」


「えっ、あなたがベリンダのお兄さん!?」


 結衣が思わず声を上げる。

 カーライルが目を細めた。


「ベリンダを知っているのか?」


「はい、私たちはガレスさんのアジトから来ました。ベリンダは元気ですよ!」


「そうか……よかった」


 カーライルの顔に安堵が浮かぶ。

 カインがガレスから預かった手紙を差し出す。


「俺はカイン。これはガレスからの手紙だ」


 カーライルが手紙を受け取り、封を切る。

 そして驚いた表情を見せた。


「お前たちが、ブラッドヘイブンから帰ってきたという若者たちか……」


 四人は頷く。

 カーライルが手を差し伸べた。


「サラマンダーを撃退した実力、見事だった。我々のアジトまで案内しよう」


「ありがたい、恩に着る」


 カインはカーライルと、固い握手を交わした。


「ここから先は鱗王(りんおう)の領地、ドラゴンズスケイルだ。片時も気を抜くな」


 カーライルの声に、四人は背筋を伸ばす。

 結衣はバッグの中の銀色の小石をそっと握りしめた。

 新たな冒険の予感が、静かに、しかし確かに結衣の胸を打った。

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