表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/97

第53話 険しい山道を越えて

 山道は想像以上に険しかった。

 岩だらけの斜面を登り、狭い崖沿いの道を進む。

 足を踏み外せば、深い谷底へと落ちるだろう。


「みんな、気をつけろ。一歩ずつ、確実に進むんだ」


 カインが先頭を行き、安全を確認しながら進む。

 ジークも結衣をサポートしながら進んだ。


「ここ、滑りやすいぞ。気をつけろ」


 ジークが手を差し伸べる。

 結衣はその手を取り、急な斜面を登る。


「ありがと、ジーク」


 結衣の笑顔にジークは少し頬を赤らめ、ふいっと視線を逸らした。


(ねぇ結衣、ジークが赤くなってるよ!)


(アンタね、この状況でそんな呑気なこと言わないでくれる!?)


 蒼は相変わらず危機感ゼロだ。

 少し進んだところで、今度は突然の岩崩れが起きた。


「危ない!」


 カインの警告に、全員が壁際に身を寄せる。

 岩が転がり落ち、道の一部が崩れ落ちた。


「大丈夫か?」


「はい、なんとか……」


 カインがミリアを抱き寄せて聞いた。

 逞しい腕の中で、ミリアの頬も赤くなる。


 結衣もジークに助けられた。

 全員無事だったが、道はさらに狭くなった。

 一行は慎重に慎重を重ねて進み続ける。


---


 午後になると、雲が低く垂れ込め、視界が悪くなってきた。

 風も強くなり、寒さが身に染みる。


「このままでは危険だ。休憩場所を探そう」


 カインの判断に、全員が同意した。

 疲労も蓄積している。


(蒼、近くに休める場所ない?)


(ちょっと待って、見てくるね!)


 蒼が飛び立ち、周囲を偵察する。

 すぐに戻ってきた蒼が、結衣に報告する。


(あそこ! 右手の崖に洞窟があるよ!)


(ホントだ! ありがと、蒼!)


 結衣は三人に呼びかける。


「ねぇみんな! あっちに洞窟があるみたい!」


 結衣が指さす方向に、確かに岩の裂け目が見える。

 四人は慎重に近づき、それが小さな洞窟であることを確認した。

 

「お手柄です、結衣さん!」


「助かった、ありがとう」


 ミリアとカインが結衣に礼を言う。


「今日はここで休もう。無理は禁物だ」


 カインの言葉に、皆ほっとした表情を見せる。

 特に結衣は慣れない山で疲れ切っていた。


---


 洞窟の中は乾いており、風も入ってこない。

 ジークが焚き火を起こし、ミリアが食事の準備を始める。

 カインは入口付近で見張りをする。

 結衣は岩に背を預け、深いため息をついた。


「はー、つっかれたー……山登りってこんなに大変なんだね……」


「おい、まだ半分も来てないぞ」


 ジークがため息をつく。

 結衣は舌を出した。


「もう! 意地悪言わないでよ」


「冗談だ。明日には抜けられるだろ」


 ジークは笑い、結衣の隣に座る。


「ジーク、ありがとう。今日は何度も助けてもらったね」


「……当たり前だ、余計な気を遣ってんじゃねぇよ」


 だが結衣の感謝に、ジークは少し嬉しそうだった。


---


 夕食後、四人は焚き火を囲んで座った。

 外は完全に暗くなり、風の音だけが聞こえる。


「明日の予定を確認しよう」


 カインが地図を広げる。


「この山を越えれば、ブラッドヘイブン領だ。そこからは細心の注意が必要になる」


 全員が真剣な表情で頷いた。

 いよいよ本格的な偵察が始まる。


「今日は早く休もう。明日は夜明けとともに出発する」


 カインの言葉に、全員が同意した。

 交代で見張りを立て、残りは眠りについた。


 結衣はドワーフ特製の寝袋に潜り込み、目を閉じる。

 疲れた体には、岩の床でさえ心地よく感じられた。


(蒼、明日も頑張ろうね)


(うん! 結衣、おやすみ!)


 蒼の小さな声を聞きながら、結衣は眠りに落ちた。


---


 翌朝、日がのぼるとともに四人は出発した。

 体の疲れは残っていたが、エルフの薬草茶と一晩の休息で、心は軽くなっていた。


 山道は相変わらず険しいが、昨日の経験が活きている。

 足の置き場、手の掴み方、呼吸の整え方――少しずつコツを掴んでいった。


 正午過ぎ、ついに山の頂上に到達した。


「やったー!」


 結衣が小さく飛び跳ねる。

 ミリアも安堵の表情を浮かべた。


「まだ下りが残っている。気を抜くな」


 カインの言葉に、全員が引き締まった表情になる。

 下りは上りより危険なこともある。


---


 しかし、下山は予想より順調に進んだ。

 午後遅く、ついに山を抜けた四人は、目の前に広がる景色に息を呑んだ。


 遠くに広がる暗い平原。

 その向こうに見える、不気味な赤い光に包まれた城塞。

 血紅公(けっこうこう)の支配地、ブラッドヘイブン領だ。


「あれが……ブラッドヘイブンか」


 ジークが低く呟いた。

 空気が変わったように感じる。

 重く、冷たく、何かが潜んでいるような不吉な雰囲気。


「皆、ここからが本番だ。気を引き締めていこう」


 カインの言葉に、全員が無言で頷いた。

 彼らの偵察任務が、ここから本格的に始まるのだ。

 蒼が結衣の周りを羽ばたいた。


(あの赤い光、なんだか嫌な感じがするよ)


(うん……でも、行かなきゃ)


 結衣は蒼と共に前を見据えた。

 ブラッドヘイブンへの道が、四人の前に広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ