第52話 新たな支援としばしの別れ
朝霧が森を包む。
四人はアジトの中央広場に集まっていた。
ガレス、エルフの長老、ジノカリア、ベリンダ――抵抗勢力の首領たちも揃っている。
話し合いの場が設けられたのだ。
「昨日は君たちひとりひとりの人間性を確かめさせてもらった。君たちは信用できる。我々の一致した見解だ」
ガレスが切り出した。
「そこで、我々は君たちと協力関係を結びたい。我々の情報を共有しよう。どうだろうか?」
カインが一歩前に出る。
「もちろん、願ってもない申し出だ。俺たちはこれからブラッドヘイブンへ向かう。そこで血紅公の情報を集め、それを手掛かりに魔王軍の弱点を探るつもりだ」
ガレスは頷いた。
「我ら抵抗勢力も、魔王軍の情報を必要としている。特に血紅公は野心が強く、心から魔王に忠誠を誓っているという訳でもないらしい。魔王軍を崩すなら、まずはここからだろうと我々も踏んでいる」
エルフの長老は地図を開いた。
森の中に、複数の印が付けられている。
「我々は複数の拠点に分かれて暮らしている。敵に見つかりにくくするためだ」
ジノカリアが説明を続ける。
「一箇所が襲撃されても、他に逃げ場所を確保しておく意味合いもある」
「だが、いずれ立ち上がる日には力を合わせて戦うよ。今はその為の雌伏の時だ」
ベリンダが付け足した。
四人は地図を見つめ、頷く。
賢明な戦略だ。
「血紅公の情報を持ち帰ること、約束する」
カインの言葉に、ガレスは満足そうに頷いた。
「君たちに期待している。その代わり、我々も君たちの偵察をバックアップする」
エルフの長老は別の地図を広げた。
そこにはブラッドヘイブンの詳細な地形が描かれている。
「ブラッドヘイブンは元々人間の住む地だった。だが血紅公が支配してからは、街全体が城塞に変貌した」
長老のしわがれた指が、地図上を動く。
「城塞の周りは監視が厳しい。だが、ここ――東側の山岳ルートなら、魔王軍の目を避けられるだろう」
ベリンダが割って入る。
「ただし、険しい道のりだ。普通の旅人には無理だろうが、アンタたちは大丈夫かい?」
結衣は山の険しさを見て、少し不安になった。
(登山の経験なんてないけど、大丈夫かな……)
(心配しなくても大丈夫! 僕が案内するから!)
(蒼、山登りできるの?)
(僕は鳥だよ? 空から見れば道はわかるよ!)
結衣と蒼の小さな会話に、ジークは怪訝な顔をした。
だが、何も言わなかった。
「必要な装備も用意しよう」
ジノカリアが言った。
ドワーフたちが登山用の装備を運んでくる。
頑丈なロープ、ピッケル、厚手のマントと手袋、そして特製の登山靴。
「山道なら、特に登山靴は必須だ」
ジノカリアが四人に靴を手渡す。
結衣はスニーカーを脱ぎ、新しい靴を履いてみた。
まるで測ったようにピッタリのサイズ。
しっかりとした作りで、足首をサポートしてくれる。
「ありがとう! すごく履きやすい!」
ジノカリアが頷く。
エルフの長老はミリアに、薬草の詰まった袋を渡した。
「これはマーレーンからだ。山では怪我が多く、体調も崩しがちだ。きっと役に立つ」
ミリアは感謝の言葉を述べた。
ベリンダは食料と水筒を四人に分け与える。
「長旅になる。しっかり食えよ」
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やがて準備が整い、出発の時が来た。
アジトの住人たちが集まり、四人を見送る。
子供たちが結衣に駆け寄り、抱きついた。
「結衣お姉ちゃん、また来てね!」
「うん、必ず戻ってくるよ」
「絶対だよ! 約束して!」
「分かった、約束ね」
結衣は子供たちを優しく抱きしめる。
ベリンダが笑いながら、結衣の肩を叩いた。
「アンタならきっと大丈夫だ、アタシのお墨付きだよ。強くなって戻ってこい」
「はい!」
結衣は元気よく返事した。
マーレーンは、ミリアを抱擁して送り出す。
「優秀な薬師は貴重な存在、あなたには期待しています。必ず生きて戻ってくるのよ」
「ありがとうございます。お約束します」
ミリアは瞳に涙を浮かべている。
ジノカリアは、ジークの新しい武器を再度点検する。
「ワシが丹精を込めた逸品だ。お前の相棒にしてやってくれ」
「アンタたちには感謝してる。コイツを使いこなしてみせるぜ」
ジークがスクラマサクスを構える。
最後にガレスが、カインと固い握手を交わした。
「君たちの成功を祈ろう。我々にとっても君たちは希望なのだからな」
「ああ、必ず情報を持ち帰る」
四人は、アジトを後にした。
住人たちの見送りを背に、山岳へと向かった。