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第47話 水面に映る二つの影

 朝日が昇り、廃村に光が差し込む。

 四人は早々に準備を整え、旅を再開した。

 結衣の足の状態も、少し良くなっていた。


「ミリアの薬草、よく効くね!」


 結衣は元気よく言う。

 ミリアは嬉しそうに微笑んだ。


「良かったです。でも無理はしないでくださいね」


「了解!」


 カインが地図を広げ、進路を確認する。


「今日は山の麓を目指す。あそこを越えれば、次の中継点に近づく」


 ジークは周囲を警戒しながら歩く。

 廃村を出て、荒れ地を進む四人。

 太陽が高く昇るにつれ、気温も上がっていった。


「暑いね……」


 結衣が額の汗を拭う。

 ミリアが水筒を差し出した。


「水を飲みましょう。脱水は危険です」


 一行は小さな岩陰で休憩を取った。

 カインが周囲を見回す。


「この先の地形は複雑だ。気をつけて進もう」


 再び歩き始めた四人。

 岩だらけの荒野を進んでいく。

 突然、ジークが立ち止まった。


「待て」


 低い声で言う。

 全員が足を止める。


「何か来る……」


 ジークが警戒する方向を見ると、岩の間から赤い影が見えた。

 それは大きなトカゲのような生き物だった。

 全長は優に二メートルを超え、背中には赤い棘が並んでいる。


「サラマンダーか……!」


 カインが息を呑む。


「動くな。まだこちらに気づいていない」


 四人は身を低くし、じっと動かなかった。

 だが、風向きが変わった。

 サラマンダーの鼻が動き、突然こちらを向いた。


「見つかった!」


 ジークが叫ぶ。

 サラマンダーは大きな口を開け、炎を吐き始めた。


「逃げろ!」


 カインの声で、全員が散り散りに逃げる。

 炎が地面を焦がし、岩を焼く。

 熱波が四人を襲う。


「くそっ、追ってくる!」


 ジークが振り返る。

 サラマンダーは素早い動きで追いかけてきた。


「どうするの!?」


 結衣が叫ぶ。

 ミリアがバッグから小さな袋を取り出した。


「これを!」


 ミリアは袋の中身をサラマンダーに向かって撒いた。

 紫色の粉が風に乗って漂う。

 サラマンダーがその粉を吸い込むと、動きが鈍くなり始めた。


「眠り薬です!」


 ミリアが説明する。

 サラマンダーの目が徐々に閉じていく。

 やがて、大きな体が地面に崩れ落ちた。


「ミリア、すごい!」


 結衣が驚きの声を上げる。


「間一髪だったな」


 ジークがため息をつく。


「効果はすぐに切れます。早く離れましょう」


 ミリアの言葉に、皆は急いでその場を離れた。


---


 日が傾き始めた頃、一行は小さな山の麓にある洞窟を見つけた。


「ここで野営しよう」


 カインが提案する。

 洞窟は浅く、奥行きは十メートルほど。

 中は乾燥していて、野営には適していた。


「今夜は交代で見張りをする。魔物が多い地域だからな」


 カインが言う。


「俺が最初の見張りを引き受ける」


 ジークが名乗り出た。


「じゃあ次は私」


 結衣も続く。


「その次は私、最後はカインさんで」


 ミリアが言った。

 カインは頷いた。


「よし、そうしよう」


 夕食を終え、ジーク以外の三人は眠りについた。

 ジークは洞窟の入口に座り、暗闇を見つめていた。


---


 結衣の番になった頃、夜は更けていた。

 星が満天に輝き、月が大地を照らしている。


「何も起きないといいね」


 結衣は小声で呟いた。


(結衣、大丈夫? 眠くない?)


(平気だよ、蒼。むしろドキドキして眠れないくらい)


(僕も見張りを手伝うよ!)


(ありがと。でも静かにね)


 結衣と蒼の会話は、夜の静けさの中で小さく響いた。


---


 朝、結衣は皆が起きる前に目を覚ました。

 洞窟の外に出ると、朝露が草を濡らし、キラキラと輝いている。

 遠くに小さな湖が見える。


「水を汲んでこよう」


 結衣は水筒を持って湖へと向かった。

 朝の空気は冷たく、肌に心地よい。

 湖に着くと、結衣は水面に映る自分の姿を見た。


「疲れてるなぁ……」


 結衣が呟いた時、背後から聞き覚えのある声がした。


「やあ」


 振り返ると、そこにはレイが立っていた。

 相変わらず無気力そうな表情だが、結衣の目には懐かしく映る。


「レイ! また会えたね!」


 結衣は思わず喜びの声を上げた。


「元気そうだね」


 レイは肩をすくめる。


「何してるの? こんなところで」


「別に何も。ただ歩いてるだけ」


 レイの答えは相変わらずだ。


「レイはどこに行くの?」


「んー、特に目的はないかな」


 レイは湖面を見つめた。


「君は? どこへ行くの?」


 レイの質問に、結衣は言葉に詰まった。

 魔王の偵察は極秘任務だ。

 簡単に話せることではない。


「あー……えーっと……ちょっと北の方に用事があって」


 結衣は曖昧に答えた。

 レイはじっと結衣を見つめる。


「北は危険だよ? そんなに大事な用事なの?」


「うん、どうしても行かなきゃいけないんだ」


「どうして?」


 結衣は言葉に詰まる。


「……故郷に帰るため、かな?」


「そうなんだ。僕にはもう帰る場所はないから、少し羨ましいよ」


 結衣はハッとした。

 レイの表情はどことなく寂しそうだ。

 そういえばヴァルディアの図書館でも、レイは故郷を覚えてないと言っていた。

 彼の故郷もまた、魔王軍に滅ぼされたのかも知れない。

 そう思うと、結衣の胸が少し痛んだ。


「ねぇレイ……私たち、また会えるかな?」


 結衣の口から思わず問いかけが出る。

 レイは少し考えるような素振りを見せた。


「……僕たち、()()()()()よね。たぶんまたどこかで会うんじゃないかな」


 その言葉に、結衣は首を傾げた。

 繋がっている? どういう意味だろう?


「そうかな?」


「そう思うよ」


 レイは微かに笑った。

 その表情は、以前図書館で見た無気力な彼とは少し違って見えた。


「じゃあ、またね」


 レイはそう言うと、湖の反対側へと歩き始めた。

 結衣は不思議な感覚に包まれながら、彼の後ろ姿を見送った。


---


 洞窟に戻ると、皆はすでに起きていた。


「お前、どこに行ってたんだ? 心配するだろ」


 ジークが少し非難めいた口調で言う。


「ごめん、水を汲みに行ってたの」


 結衣は水筒を見せた。


「ずいぶん時間のかかる水汲みだな」


 ジークの目は疑いの色を含んでいた。


「あはは、ちょっと景色に見とれちゃって」


 結衣は誤魔化した。

 なぜか、レイとの出会いをジークに話す気にはなれなかった。


「単独行動は危険だ。なるべく避けてくれ」


 カインも注意する。


「ごめんなさい……」


 結衣は素直に謝った。

 ミリアも心配そうに結衣を見ていたが、その場をとりなすように言った。


「皆さん、そろそろ朝食にしましょう」


---


 簡単な朝食の後、荷物をまとめ、一行は再び旅を続ける。

 結衣は時折、後ろを振り返った。

 レイの言葉が心に残っていた。


(僕たち、繋がってるよね)


 それはどういう意味なのだろう?

 結衣は考えながら、仲間たちの後を追った。


 旅は続く。

 ブラッドヘイブンはまだ遠かった。

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