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第39話 英雄の帰還!? 城塞都市ヴァルディアで大歓迎!

 遠くに見えていたヴァルディアの城壁が、いよいよ目の前に迫ってきた。

 高さは優に十メートルを超え、灰色の石が整然と積み上げられている。

 城壁の上では、兵士たちが厳しい表情で見張りを続けていた。


「すごい……本物の城塞都市だ!」


 結衣が目を輝かせる。


「ここが北方の最前線か」


 ジークが低く呟いた。


 城門の前には長い行列ができていた。

 難民や商人、旅人たちが入城審査を受けている。

 衛兵たちの表情は硬く、一人一人を厳しくチェックしていた。


「かなり警戒してるな」


「魔王軍の斥候が出没してるからね。スパイも紛れ込んでるかもしれない」


 カインが説明する。


 ようやく四人の番になった。

 衛兵が怪しげな目つきで一行を見る。


「入城の目的は?」


「旅の途中だ。数日滞在する予定だ」


 カインが答える。


 衛兵が一行を上から下まで眺め、何かを言おうとした時だった。


「おい、待て! お前……カインじゃないか?」


 別の衛兵が駆け寄ってきた。

 年配の男性で、目の周りに深いしわがある。


「オーガス! 久しぶりだな」


 カインが笑顔で応じる。


「本当にカインだ! みんな! この男はリザードマンの襲撃から市民を守った英雄だぞ!」


 衛兵が大声で叫ぶと、周囲の衛兵たちが驚いた表情になった。


「まさか、本物の英雄に会えるとは!」


「お噂はかねがね伺っております!」


 衛兵たちが次々と敬礼する。

 三人はは驚いた顔でカインを見た。


「そんな大したことじゃないさ」


 カインは照れくさそうに手を振った。


「さあ、入ってくれ! 全員の入城税も免除する!」


 衛兵が大きく手を振る。

 一行はあっさりと城門を通過した。


「カインってばすごいじゃん! 本当に英雄だったの?」


 結衣が興奮した様子で尋ねる。


「大げさだよ。市場にいた時に、たまたまリザードマンが襲ってきただけさ」


「たまたま、って話じゃねえだろ」


 ジークが呆れたように言う。


「まあ、こんな俺でも少しは役に立ったかな」


 カインは照れくさそうに笑った。


---


 城壁の内側は、予想以上に活気に満ちていた。

 石畳の通りには露店が並び、人々が行き交っている。

 だが、その表情には緊張感が漂っていた。


「まずは宿を決めよう。『フクロウ亭』という宿がいいだろう」


 カインが言う。


「知り合いの宿か?」


 ジークが尋ねる。


「ああ。主人が情報通でね、以前も世話になった」


 カインの案内で、一行は石造りの三階建ての宿に到着した。

 看板には梟の絵が描かれている。


 中に入ると、暖炉の火が心地よく燃えていた。

 木の香りと料理の匂いが漂う。


「いらっしゃ……おや、カインじゃないか!」


 太った中年の男性が大声で叫んだ。


「久しぶりだな、ベルク」


 カインが笑顔で応じる。


「まさか、あの剣士カインが来るとはな! みんな見てくれ! カインが帰ってきたぞ!」


 主人が店内に向かって叫ぶと、常連客たちが振り返った。


「カイン!」


「よう、英雄様!」


「またモンスター退治かい?」


 次々と声がかかる。

 カインは照れくさそうに手を振った。


「友人を連れてきた。部屋を四つ頼む」


「もちろんだ! カインの友人なら大歓迎だよ!」


 主人は四人を二階へと案内した。


---


 夕食時、四人は宿の食堂に集まった。

 テーブルには熱々のシチューとパン、そして地産のエールが並ぶ。


「本当に有名人なんだね、カイン」


 結衣が驚いた様子で言う。


「まあ、ちょっとした偶然さ。以前この街に立ち寄った時に、リザードマンの斥候が市場を襲ったんだ」


「それを一人で退治したの?」


「五体ほどだったかな。市民が巻き込まれる前に片付けただけさ」


 カインは当たり前のように言う。


「カインさん、すごいですね……」


 ミリアは感心した様子だ。


「それより、この街の様子を探ろう」


 カインが真剣な表情になる。


「ベルク、街の様子はどうだ?」


 近づいてきた主人に尋ねる。


「ああ、ここ最近は緊張が高まってるよ。魔王軍の斥候がしょっちゅう現れるし、小競り合いも増えてる」


 主人は声を潜めた。


「三日前にも、東門の外で衛兵隊と魔王軍が衝突した。市民も何人か巻き込まれたらしい」


「犠牲者は?」


「幸い死者はなかったが、負傷者が十人ほど出たって話だ」


 主人は深刻な表情で答える。


「魔王軍の動きは?」


「噂じゃなんでも大規模な攻撃の準備をしてるとか。衛兵もピリピリしてるし、皆も不安がってる」


 主人は首を振った。


「詳しいことは市場に行けば聞けるだろうよ。明日、行ってみるといい」


---


 翌朝、四人はさっそく市場へと向かった。

 石畳の広場に、露店が所狭しと並んでいる。

 食料品に武器や防具、日用品など、様々な品が売られていた。


「カイン! 戻ってきたのか!」


 肉屋の主人が声をかける。


「ああ、少しの間滞在する」


「また今回も魔物を退治してくれるのかい?」


 肉屋が期待を込めて尋ねる。


「もちろん、俺で良ければ力になる」


 カインが微笑む。


 市場を歩きながら、四人は様々な噂を耳にした。

 魔王軍の動き、北方の村々の状況、城塞都市の防衛体制。

 人々の会話には不安が混じっている。


「魔王軍の将軍が動き始めたって本当か?」


「噂じゃあな。でも斥候の動きが増えてるのは事実だ」


「子供だけでも南に避難させた方がいいんじゃないのか?」


 結衣は周囲の会話に耳を傾けながら、掲示板の文字に目を向けた。

 しかし、見慣れない文字が並んでいるだけだ。


「ねぇミリア。これ、何て書いてあるの?」


 結衣が尋ねる。


「えっと『魔王軍に注意。不審な者を見かけたら衛兵に報告を』ですね」


「この程度なら俺だって読めるぜ」


 ミリアが答え、ジークが笑う。


「やっぱり全く文字が読めないと、まともに情報収集もできないよね……」


 結衣は肩を落とす。


(結衣、文字読めない! 文字読めない!)


(うるさいわね、このバカ鳥!)


(僕は文字が読めるからバカじゃないよ?)


(ぐぬぬ……)


 蒼と結衣が小声で漫才をしていると、後ろからカインが声をかけた。


「図書館なら、文字の勉強にいいんじゃないか?」


「図書館?」


「ああ、この街の西側には大きな図書館がある。宿の主人に聞けば、地図をもらえるだろう」


 結衣は目を輝かせた。


「ありがとうカイン! 文字の勉強、してみるよ!」


「……現金だなお前。でも前向きなのは悪くない。その間、俺たちは情報収集だな」


 ジークが苦笑しながら頷く。

 ミリアも賛成した。


「そうですね、私たちもできることをしましょう」


 四人は市場を後にした。

 城壁の上では、兵士たちが常に北の方角を警戒している。

 緊張の漂う城塞都市で、彼らの冒険は始まったばかりだった。

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