第31話 ダガーと剣の連携無双!!
四人は物陰に身を潜め、奴隷商人たちの様子を窺っている。
開いた倉庫の入り口には、がっしりとした男がふたり。
中からは、かすかに子供の泣き声が聞こえた。
「間違いない。あの中だ」
カインが小声で言った。
「正面から突っ込むのは無謀だな」
ジークが状況を分析する。
「裏口はないのか?」
「あるはずだ。荷物の搬入口が」
カインが頷く。
ジークはミリアに確認した。
「ミリア、準備はいいか?」
ミリアは小さな瓶を手に持ち、静かに頷いた。
「はい。王都で仕入れた薬草で、幻惑の薬を作りました。これを吸いこむと、一時的に幻覚が見えて、味方と敵の区別がつかなくなります」
「すごいね、ミリア! いつの間に?」
「王都に来た日から少しずつ……」
ミリアは照れたように微笑む。
「結衣は?」
「バッチリよ! アイススピアで足を狙う!」
結衣は青い小石を握りしめた。
「よし、オレとカインが先陣を切る。結衣とミリアは後方から援護だ」
ジークが短剣を抜き、カインに目配せする。
「行くぞ」
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裏口に回り込んだ四人。
カインがそっと扉を開けると、中は薄暗く、荷物が積まれていた。
「子供たちはどこだ……」
ジークが周囲を見回す。
奥から、かすかな物音。
突然、影から一人の男が飛び出してきた。
「誰だ!?」
男が叫ぶ前に、ジークが素早く動いた。
一瞬で距離を詰め、男の喉元に短剣を突きつける。
「声を出せば、命はない」
低い声で脅すと、男は震えて黙り込んだ。
カインが素早く男を縛り上げる。
「子供たちはどこだ?」
「し、知らない……」
男が震える声で答える。
ジークは無言で男の腹を蹴り上げた。
男は「ぐっ……」と呻いて床に転がる。
「もう一度聞く。子供たちは?」
「……奥の部屋だ」
男が観念したように答えた。
カインが剣の鞘で男の頭を殴りつけると、男は気絶して静かになった。
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四人は静かに倉庫の奥へと進む。
すると、広間に出た。
そこには十人ほどの男たちがいた。
そして隅には、檻に閉じ込められた子供たち。
「見つけた……!」
結衣が小声で言う。
ジークとカインは互いに目配せした。
「オレが右、お前が左だ」
「了解」
ふたりは息を合わせて飛び出した。
キィン!
ジークのダガーが閃き、最初の男の武器を弾き飛ばす。
同時にカインが別の男に斬りかかる。
その剣さばきは流れるように美しく、男は一瞬で戦闘不能になった。
「なっ……!?」
ふたりの連携が完璧に決まり、奴隷商人たちが混乱する。
ジークが敵の注意を引きつけ、カインが背後から急襲。
カインが複数の敵と対峙すれば、ジークが死角から現れる。
まるで長年の戦友のような、息の合った動きだった。
「こいつら、ただ者じゃない!」
「応援を呼べ!」
男たちが叫ぶ。
そこへ、結衣が飛び出した。
「アイススピア!」
ヒュッ! グサッ!
青い石から放たれた氷の槍が、男たちの足に突き刺さる。
「くそっ!」
「足が……やられた!」
ミリアは別の男の集団に、蓋を開けた小さな木筒を投げ込んだ。
中から、紫がかった煙が広間に広がる。
「な、何だこれは……?」
煙を吸い込んだ男たちの目が、徐々に焦点を失っていく。
「お前、裏切り者か!」
「何を言ってる! お前こそ!」
男たちが互いを敵と認識し始めた。
味方同士で怒鳴り合い、殴りかかる。
完全に混乱状態だ。
「ミリアの薬、効いてるよ!」
結衣が驚きの声を上げる。
「さすがだな」
ジークが短く褒める。
カインは子供たちの檻へと向かった。
「カイン兄ちゃん!!」
「大丈夫か? 怖くないぞ、助けに来たんだ」
震える子供たちに、カインが優しく語りかける。
錠を壊し、檻を開ける。
「お姉ちゃん!」
子供たちが結衣とミリアに駆け寄る。
「よかった……無事で」
ミリアが安堵の表情を浮かべる。
その時、奥の扉が開き、大柄な男が現れた。
どうやら、コイツが奴隷商人の頭らしい。
「何をしている!」
男は激しい怒りの形相で叫んだ。
ジークとカインが身構える。
「お前が黒幕か!?」
「俺の商売を邪魔するとは、ただでは済まさんぞ!」
男が大きな斧を振りかざす。
ジークとカインは互いに目配せし、左右から挟み撃ちにした。
ジークが男の注意を引きつける。
ビュンッ!
男の斧が空を切る音が響く。
その隙にカインが背後から回り込み、男の膝裏を蹴った。
よろめいた男に、ジークが飛びかかる。
ザシュッ!
ダガーが閃き、男の斧が床に落ちた。
「くっ……!」
男がうめく。
カインが男の両腕を背後で拘束する。
「終わりだ」
ジークが冷たく言い放った。
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衛兵たちが駆けつけたのは、すべてが終わった後だった。
「これが奴隷商人どもだ。子供たちを攫おうとしていた」
ジークが縛られた男たちを指差す。
衛兵たちは驚きの表情を浮かべた。
「こんな組織が王都に……」
「子供たちは無事か?」
「ああ、全員無事だ」
カインが子供たちを守るように立っている。
「連れて行け!」
衛兵長の号令で、奴隷商人たちは連行されていった。
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難民キャンプでは、子供たちと再会した親たちが喜びの涙を流していた。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
「うちの子を返してくれて、お礼の言葉もありません!」
感謝の言葉が四人に向けられる。
ミリアは子供たちを優しく抱きしめ、結衣は笑顔で頭を撫でていた。
「よかった……本当によかった」
結衣とミリアの目にも涙が光る。
「お前たちがいなければ、子供たちは永遠に戻ってこなかった。礼を言う」
難民キャンプの老人が、四人の前で深々と頭を下げた。
「頭を上げてください、当然のことをしたまでです」
カインが静かに答える。
「だがまだ安心はできない。奴隷商人の組織を完全に壊滅させるまでは」
ジークが冷静に言う。
「でも、今日は勝ったよね!」
結衣が明るく言った。
「うん、勝ったな」
ジークも、珍しく笑みを浮かべた。
夜明け前の空が、少しずつ明るくなっていく。
難民キャンプに、希望の光が差し込んでいた。